世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)サハリンの日本語教育事情 (3)
サハリン国立総合大学付属東洋学・観光サービス大学
山崎紀子
北海道の真北に位置するサハリン州の州都ユジノサハリンスク市は人口20万人弱の小さな町ではありますが、日本との貿易や人々の往来が活発で、現在、成田から飛行機が週4便、札幌からは3便運航しています。また、夏期には稚内からサハリン島の南部にあるコルサコフまでフェリーも運航しており、ここでは両国の人々や経済の結びつきの強さを感じます。
派遣大学であるサハリン国立総合大学への国際交流基金(以下、JF)の日本語専門家派遣が始まったのはソ連崩壊後の1993年で、これまで様々な活動や支援を行ってきましたが、本年度をもって派遣が終了することになりました。
サハリン国立総合大学について
サハリン国立総合大学はサハリン州唯一の国立大学であり、日本語教育の中心となっています。10年ほど前は入学者数が50名(当時は5年制)を超えることもあったそうですが、少子化やカリキュラムが4年制に変更された影響もあって、現在は全学年で50名を切っています。日本語教育は東洋学部の東洋学コースと教育学コースで行われていますが、過去3年間の募集は東洋学コースのみでした。しかし、来年度から5年制の教育学コースが再開されることから、2022年以降、卒業生が極東地域の日本語教育界で活躍されることが期待されます。
サハリンの日本語関連行事は派遣大学が中心となって行うことが多く、毎年4月はシュコーラの生徒対象のオリンピアーダ(日本に関しての問題を解くコンテストで、今年のテーマは「日本のエコ」)とシュコーラ(初中等教育機関)の教師対象の教師セミナー、5月はサハリンスピーチコンテスト(主催はサハリン州政府と北海道事務所)、12月はJLPT(日本語能力試験)の実施をしています。他にシュコーラの生徒対象の詩の暗唱コンテストの実施、サハリン書道コンテストの展示場所提供をしています。
東洋学部新キャンパスの外観
第12回サハリン書道コンテストの展示
サハリン、極東地域の日本語教育
現在、日本語教育機関が確認できているのはユジノサハリンスク市内のみで、高等教育は派遣大学を含め2校、シュコーラは5校、そのほか日本センター、青少年センターです。機関ではありませんが、サハリンならではの講座と言えば総領事館で行われている残留邦人の講座でしょう。以前ボランティアが教える教室があったそうですが、昨年、講座を総領事館で再開し、日本人教師が担当しました。今年度は私が引き継ぎましたが、来年度も継続されるか未定です。
上記のようにサハリンは日本語教育機関が少ないですが、教師数は増えつつあります。その大半は若手教師で、その教師育成のため、教員セミナーを毎年一回行っています。学習者の日本語能力向上のためには教師の日本語教育の質を上げなければならないので、本音を言えば、もっと頻繁に集まって勉強会や研修を行いたいところですが、教師も多忙なので実現には至っていません。しかしながら教師間のネットワークは派遣大学学科長を中心にしっかりと形成されています。このネットワークの輪を他地域に広げる試みとして、4月に極東子ども弁論大会と教師ネットワーク会議をウラジオストクで行いました。ウラジオストクにはモスクワで開催される研修やその他のイベントに積極的にされる大変熱心なシュコーラの教師がいらっしゃいますが、シュコーラ間のつながりが薄いそうです。ですから、これを機に極東地域の教師ともネットワーク形成をし、会議やシュコーラのイベントなどを合同で行っていきたいということでした。
今後の展望
ロシアの教育スタンダードに変化に富む日本語教育の現状が必ずしも対応しているわけではないので、特にシュコーラの教師は苦労されていると聞きます。それを解消するため、ロシアの様々な地域から教師の有志が集まってロシアの教育スタンダードに基づくシラバスや教材の開発が進められています。これが将来実現すれば、授業だけではなく、各種イベントも実施しやすくなることもあり、ロシアの日本語教育をめぐる環境にも明るい兆しが見え始めています。
サハリンでは上述の教師セミナーでは、受け身の状態だった若手教師が今年からは自ら発表するようになりました。今後も新しい情報を吸収しながら、自らの問題や疑問を持ち込んで解決していける場にしていただければと思います。
学習者のモチベーション向上に関しては、興味がある日本関連の情報収集は容易に行えますが、日本語を使って何ができるか、また日本語を使えるようになったことによって何が得られるかについては教師が提示する必要があるかもしれません。幸い在ユジノサハリンスクの公的機関や日系企業、在留邦人の方は日本語関連事業に非常に協力的で様々なご支援をいただいているので、行事に積極的に参加して交流を深める学習者もいます。
最後にサハリンの日本語教育のこれからの発展を期待し、日露の懸け橋になるような人材が生まれることを心から願っています。
派遣先機関名称 | サハリン国立総合大学付属東洋学・観光サービス大学 | ||||||||||||||||
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Sakhalin State University, Institute of Asian Studies and Hospitality | |||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
サハリン州において唯一の国立高等教育機関で、当地の高等教育の中心的役割を担っている。サハリン日本語弁論大会や、日本語教育セミナー、日本語能力試験等、日本語教育に関わる諸活動は、当大学と外部機関とが協力する形で運営されている。多くの卒業生が主にサハリン内の教育界・経済界で活躍しており、サハリン社会への貢献度は高い。日本語専門家は日本語の授業のほかに、現地教師への助言や情報提供、教師会運営等を行っている。 | ||||||||||||||||
所在地 | Lenin street 290, Yuzhno-Sakhalinsk, 693000, Russia | ||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:1名 | ||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
東洋学部 教育学科日本語専攻/東洋学科日本語専攻 | ||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
沿革
コース種別
現地教授スタッフ
学生の履修状況
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