世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)シベリア各地の日本語教育を支えている高等教育機関

ノボシビルスク国立大学
奥村 朋恵

担当地域の西シベリア各地で、徐々にではありますが、文化交流、スポーツ交流、学術交流、経済交流など、日本と直接つながる機会が増えてきています。それらの多くに関わっているのが各地域の大学機関とその教員や卒業生です。今回は、西シベリアのノボシビルスク国立大学(以下NSU)とトムスク国立大学(以下TSU)の日本語教育についてご紹介します。

派遣先のNSUは、学生数7,000人、教員2,500人の総合大学で、研究のための施設も生活のための施設も全てが森の中に点在する自然豊かな学術都市にあります。NSUはもともと、学術都市の中心的存在であるロシア科学アカデミーシベリア支部に属する各研究機関の研究者育成機関として創設されました。NSU東洋学科も日本の大学との学術交流、学生間交流に力を入れています。そこで今年は、NSUにおける日本研究の中で今まで比較的議論されてこなかった分野の研究者を日本から招聘し、学生向けの学術交流を二つ企画しました。

1月25日には雲和広氏(一橋大学経済研究所)をNSUにお招きし、人口統計学の講義とワークショップをお願いしました。日本の人口問題についてロシア語で講義が行われた後、学生にはロシアの人口問題が社会へ及ぼしている影響やその対応策についてグループで議論し、発表してもらいました。ロシア語で聴講と質問ができる安心感からか、ワークショップ中多くの学生が講師の先生に積極的に質問をしていたのが非常に印象的でした。

NSU東洋学研究会に参加する人たちの写真
NSU東洋学研究会実施

NSU東洋学研究会にて集合写真
NSU東洋学研究会にて集合写真

4月23、24日に行われたNSU東洋学研究会では、林良子氏(神戸大学大学院)をお招きし外国語音声教育の講演をお願いしました。日頃からNSUの同僚は日本語の音声指導を重視しており、私もその意向に沿い学生への事前準備には、日本語音声学の知識と実践的な発音練習を一年を通して会話授業に組み込みました。当日の講義をほとんど理解できたという学生の笑顔の感想が聞けて、この研究会を期に、学生が今後も日本語音声の習得に主体的に取り組んでくれることを期待しています。

ノボシビルスクからバスで4時間のところにトムスクという街があります。トムスクはシベリア最古の街のひとつで、TSUはシベリア最古の大学なのだそうです。1992年に初めてTSUで日本語の授業が行われた際、講師はNSUの卒業生でした。1997年からはTSUの卒業生が教壇に立ち始めることとなり、現在に至ります。現在、TSU歴史学部海外地域研究学科で約25名の学生が日本語を第二外国語として学習しています。

TSU日本語弁論大会出場者の写真
TSU日本語弁論大会出場者

今年は「TSU日本語弁論大会」に招待されました。出場者は歴史学部の学生だけでなく、夜間の一般公開講座受講者や、トムスク市内の中高生が各部門に分かれて出場しました。中でも中高生15名は、トムスク市内の様々な学校から集まって週に2回、1回に1時間程度日本語を学んでいます。また、TSUでは副学長から日本の大学との大学間交流について提案を受けました。大学訪問時に、日本の大学との学術交流を期待する大学関係者との会議へ参加することは珍しいことではありません。シベリアへ留学をする日本人の学生は多くなく、ロシア人学生にとって直接的な学生間交流の機会は十分とは言えません。ロシアには魅力的な街が数多くありますが、学業に集中できる環境が整えられているシベリアの国立大学を、日本の大学が提携校として検討してもらえたら、と日本の研究者が来訪された時には日本語教育機関巡回の同行にお声がけしています。

今後もロシアと日本の交流が一つでも多く実現され、隣国としてロシアと日本の相互理解が深まることを願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ノボシビルスク国立大学の日本語講座は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。多くの卒業生が日本語教師、翻訳・通訳家、東洋学研究者として活躍している。専門家は、人文学研究科東洋学科での日本語授業の他、イベント運営協力、留学相談、また現地教師への教材や授業についてのコンサルティングなどの業務を行う。
所在地 Pirogova str.1, Novosibirsk, 630090, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学研究科東洋学科(以下、東洋学科)、人文学研究科歴史と類型学学科(以下、外国語学科)、日本研究センター(以下、日本センター)
日本語講座の概要

沿革

コース種別

現地教授スタッフ

学生の履修状況

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