世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育を通して ~キエフ国立言語大学から~

キエフ国立言語大学
立間 智子

1年生会話授業風景の写真
1年生会話授業風景

 キエフ国立言語大学の日本語教育学科は1990年の開設以来、国内では学習者数、教師数ともに最も多い。毎年数名の留学生を送り出すとともに、日本語教育機関、日本大使館や日本企業へ巣立っていく人材を輩出してきており、ウクライナの日本語教育の主たる役割を担ってきている。本学における専門家派遣は2001年9月から行われ、徐々にではあるが、学習環境の充実、他教師との協力体制、連携の強化、日本語能力の向上など、目にみえる形で着実な効果が表れてきているといえる。
 専門家派遣3年目となり、まず教材の整備、充実が大きな成果である。専門家派遣以前は日本の国語や社会科教科書、ロシア語の訳読教材を用い、学習者がレベルに合った教材を使用することは困難であったが、現在、主な段階で各教材が行き渡ってきている。また、中級以上の学習者の日本語能力が伸び悩む傾向にあり、本年度から初中級教材の見直し、中上級教材の新たな導入などを行った。さらに、教材の整備に伴い、総合カリキュラム作成を新たに行った。本学では担任制を取っており、各教師は独立して自己流に教授する傾向が強く、担当する1年単位でしかみていない。また、日本語学習者の先輩であるという域に留まり、日本語教育の専門的知識、実践技術等は乏しく、各クラスで進度、レベルの差も大きかった。到達目標、学習目的、それに合わせた使用教材、指導法を統一し、教材の選択理由の提示、使い方の指導を丁寧に他教師へ行うことにより、他教師自身の専門的知識の獲得、専門家との連携、信頼関係の構築にも繋がったといえる。また、各教師は大きな流れの中での自分の役割を認識し、責任感を持つようになってきたと感じられる。
 専門家は1年生から4年生までの全クラスの会話授業を担当している。ウクライナでは首都キエフにおいても日本語を生かした職に就くことは希少であり、在留邦人も僅かで、日本語運用場面が現実的に著しく乏しい状況である。そのため、学習者は留学を第一目標とし、留学試験用の読み書きの学習に偏っており、「聞く」「話す」は極端に苦手である。そして日本に関する印象といえば、「エキゾチック」「不思議」「働きバチ」「勤勉」「感情を表に出さない」などステレオタイプな見方が強い。ステレオタイプな日本像をいかに崩し、乗り越えていくかも常に意識した授業を、他教師へのアドバイスを行ってきた。学生たちは日本に関する情報の獲得を渇望しているが、距離的、歴史的に遠い国ということもあり、なかなか難しい。そのため、初級では学習者はただ座って読む、書く、覚えるという日本語学習とは一味違う活動的な学習を主に行い、学習者は生き生きと取り組んでいる。ロシア語を学んでいる日本人留学生にも気軽に授業に参加してもらっている。また、初中級以上になるとテーマに沿ってゲストを招き、日本語によるインタビューや意見交換を行ったり、ウクライナの紹介ビデオ作成など、課外授業もツ能な限り積極的に取り入れている。

日本文化交流「生け花体験」の写真
日本文化交流「生け花体験」

 授業外においても、後期は毎月「日本クラブ」を実施し、クラス、学年を超えて、限られた授業内ではできない活動を行っている。さらに、日本からのゲストを招き、日本の伝統文化体験会を実施したり、海外研修の一環として訪れた日本の大学生との交流会、チェルノブイリ関連NGOの医大生との交流会など、幅広くネットワークを張り、生の日本語に触れる場を少しでも多く提供できるよう心がけている。日本語を通して、相互が新たな世界に触れる機会になり、また学習者が窓口となって、日本語教育を通して得たものを一般社会にも発信していけるよう導いていきたい。
 専門家の活動は多岐に渡り、キエフ日本語教師会を主導し、ウクライナ日本語スピーチコンテスト、ウクライナ全土における日本語教育セミナーを実施している。専門家派遣大学以外の日本語教育機関の各教師とのネットワーク形成、強化を図り、ウクライナ全土の日本語教育の向上を目指している。また日本語能力検定試験の本格的実施に向け、模擬試験を試験的に実施している。関心度は非常に高く、参加者はキエフだけでも200名近くに上り、近い将来、本試験が実施されることが強く期待されている。
 本学への専門家派遣は3年目とまだ浅いが、ウクライナの日本語教育においては、これまでの派遣専門家の活動が功を奏し、明らかに改善されてきている。専門家2名派遣(キエフ国立大学にも1名派遣)の良さを生かし、ウクライナの日本語教育の今後の更なる発展、向上に繋がるよう、協力体制を強化し、サポートしていくことが求められる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
日本語主専攻学科としては国内随一の学習者数、教師数を誇り、ウクライナの日本語教育の中心的役割を担っている。また日本語教育機関や日本企業、日本大使館等、日本と関わっていく人材を輩出する重要な教育機関でもある。毎年、数人が日本へ留学し、帰国後は後進の指導にあたっている。専門家は、学習者、現地教師の日本語能力の向上、カリキュラムの整備、学習環境の整備を行う。(教材、教具、設備・日本語会話実践場面の提供、日本人ゲストとの交流会開催等の教育環境の充実)
ロ.派遣先機関名称 キエフ国立言語大学附属東洋語大学
Kiev State Linguistic University, Institute of Oriental Languages
ハ.所在地 Kiev,Chervonoarmeiskaya Str.73
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋言語文明講座 日本語科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1990年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2001年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤6名(うち邦人0名) 非常勤6名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   122名(1年30、2年21、3年24、4年23、5年24)
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、留学、日本企業への就職希望、日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 就職(日本語教育機関・日本大使館・日本企業)
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定試験2級程度
(5) 日本への留学人数 4名

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