世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) キエフ国立大学の今とこれからを考える

キエフ国立大学
小野崎 亮

1.派遣先国において期待される役割及び担当業務

キエフ国立大学の写真
キエフ国立大学

 ウクライナでは、現在、全人口約5千万人に対し、日本語学習者数は1500とも、2000とも言われています。しかし日本との経済関係は他のヨーロッパ諸国と比べるとまだ密であるとは言えず、国境をポーランド、ハンガリー、ルーマニア等と接し、歴史的にもヨーロッパとの関係が強いため、外国語学習という点から見れば、他のヨーロッパ言語(特に英語)を学習する数には到底及びません。
 もちろん日本語学についてはソ連時代から行われていました。しかし日本語教育については文法訳読法を中心、日本語研究についてはヨーロッパの文体論を下敷きにした文体・文法・語彙・文学研究にとどまり、現在もこの影響が強く残っています。
 このような中で、専門家は新しい日本語学を提示するという大きな役割があります。
 現在、派遣専門家はキエフ日本語教師会と協力し「ウクライナ日本語弁論大会」、「ウクライナ日本語教育セミナー」、「日本語能力検定試験(模試)」を実施し、日本語教育分野と日本語学研究分野が活性化されるように働きかけています。

2.機関において期待される役割及び担当業務

 ウクライナの日本語教育の中心はキエフ国立大学とキエフ言語大学と言えるでしょう。キエフ国立大学には既に派遣専門家が配属されるようになって8年となりました。古い教授法から新しい教授法への移行は、はじめは受け入れがたいものだったようですが、卒業生、在校生の日本語運用能力のすばらしさはウクライナ国内の日本語教師達の羨望の的になっています。しかしキエフ国立大学における日本語教育もまだ黎明期で、専門家が中心になって、日本語科を運営し、高い教育を行うことが求められています。

3.派遣先機関の位置付け及び業務内容

 現在、キエフ国立大学の日本語科は、キエフ国立大学付属言語学院・トルコ語講座の中に位置しています。これは日本語学における博士がこれまで存在せず、日本語科として講座を開くことが出来なかったためです。しかし来年度は日本語科、中国語科をあわせた極東言語講座が開かれる予定で、日本語科はその講座の中心となります。
 現在、専門家は特に初級、初中級、中級の指導を1週間8コマ(16時間)行っています。授業内での発表準備、プロジェクト・ワーク実施における課外活動、また教師との連絡会議、教材整備等、業務は多岐にわたります。日々の業務をとおして、キエフ国立大学の日本語教育の向上と若手教師の育成を行わなければなりません。

4.専門家として達成した成果

 キエフ日本語教師会の定例会では今年は特に発音・聴解指導方法と初中級教育の重要性について多くの時間を用い講義を行いました。教材分析を行い教材をどの段階の学習者に対して選び、効果的に使用するか注意点や指導方法などについて例を提示しました。また他に、「弁論大会」「能力検定試験(模試)」等の準備・実施を行いますが、これらの活動をとおして現地教師達が協力、連繋を密にできるように心がけ、ウクライナの日本語教育の活性化となるように活動しています。

5.専門家としてやりがいや喜びを感じる瞬間

1年生の写真
1年生

 どんなときでも協力してくれる素晴らしい現地教師達、熱心に勉強をする学生達と出会えた事が「よろこび」で、彼らと共に行うことができた全てのが「やりがい」です。

6.活動を行う上で直面した困難、解決すべき日本語教育上の問題点

 ソ連時代から残るトップダウンで全てを行おうとする教育機関、そして自分の権力を必要以上に固持しようとするベテラン教師達。そこで板挟みとなり大学を去ってゆく有能な若手教師を思いとどまらすことが出来なかった事があります。一朝一夕では解決できない問題点が多々あります。

7.専門家としての今後の課題、これから目指すべき目標

 これまでの専門家の派遣がウクライナの日本語教育のために貢献してきた事は数多く、これからも必要な力として期待されています。しかし専門家に対して現地教師達の依存度が高く、自助努力と自立を忘れかけている点は否めません。これから派遣される専門家は特に「現地化・自立化」という点を視野に入れて活動をしなければならないでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 キエフ国立大学は、ウクライナ国内でもっとも優秀な学生の集まる大学として知られており、各界著名人を数多く輩出している。日本語講座に関しては、1991年開講とまだ歴史が浅く卒業生の数は少ないものの、その中には日本語能力試験1級を取得した者、大学に残り後続の指導にあたる者、日本企業に就職した者等、ウクライナ日本語教育界をリードし、また学習者にとっての大きな目標、刺激となっている者が少なくない。
 専門家は日本語の授業の他に、学生および教師の育成、教師間の連絡・協力体制の整備を行う。
ロ.派遣先機関名称 タラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学
KYIV NATIONAL TARAS SHEVCHENKO UNIVERSITY
ハ.所在地 Ukraine, Kyiv 01017,Boulevard Taras Shevchenko 14
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
キエフ国立大学 附属言語学院 トルコ語講座 日本語科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1991年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1996年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤5名 非常勤4名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年35名、2年30名、3年34名、4年19名、5年19名
(2) 学習の主な動機 日本企業、省庁等への就職、日本文化への興味、先進国へのあこがれ
(3) 卒業後の主な進路 日本企業、本学日本語教師、初中等教育日本語教師
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定試験1級~2級合格程度
(5) 日本への留学人数 5名程度

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