世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) プロジェクト開始から丸2年、 日本語コース2年目も順調!

ウクライナ日本センター
森戸 規子

1 プロジェクト開始から丸2年

 「日本センター」は、日本との人脈形成の拠点として1998年にODA事業の一環で構想されました。現在は、ASEAN諸国・中央アジア・モンゴルにウクライナを加え、市場経済へ移行する9か国10か所に設置され、ビジネスコース、日本語コース、相互理解促進事業を活動の三本柱に据えて、それぞれの国で「日本の顔」としての役割を果たしています。
  ウクライナ日本センター(以下、「UAJC」と略す)は、2006年5月22日に(独)国際協力機構(JICA)のプロジェクトとしてキエフで活動を開始して、今月で丸2年になります。嬉しいことに、日本の文化や言語に対するウクライナ人の関心は非常に強く、日本語コースへの期待は大きいです。

2 UAJC日本語コース

 ウクライナは全国に1500人ほど日本語学習者がいる日本語教育の盛んな国ですが、一般成人がきちんと学習できる機関は極めて少ないです。UAJC日本語コースは、この2年間主に社会人、日本語学科以外の大学生の需要に応えて、初級から上級までの組織的な日本語教育を行ってきましたが、需要はまだまだあると考えています。
  受講者の約半数が社会人なので、学習時間は平日の夕方5時から8時半までと土曜日です。UAJCは現在キエフ工科大学の図書館の4階にあります。大学は都心から多少離れたところにあり、地下鉄やバスを降りてから更に10分ほど上り坂を歩かなければならず、特に暗くて寒い冬の時期に授業に通うのは大変です。この2年間に300人以上が日本語クラスを受講していますが、彼らは非常に意志の強い人たちだと感じます。
  今年度は、7つの長期クラスを開講しています。9か月間で約100時間勉強します。授業は週2回なので、初級だけで3年。中級までの道のりは本当に長いのですが、来年の今ごろには、日本センターでゼロから学習を始め、ハードな状況で学習を続けて初級を終了する人が20人ほど出る予定で、今から非常に楽しみです。短期クラスは8~10週間の上級クラスを年3コース開講していて、主に大学日本語学科の学生や卒業生が目的に特化した学習に励んでいます。特に「通訳クラス」では、ウクライナ語・日本語の通訳の方を何人か招いて分野別の実践的な講義を行い好評でした。子ども向けの短期クラスも4つ開講し、7歳から12歳までの子ども31名が受講しました。修了式ではUAJCプロジェクト所長が「お名前は?」「学校はどこですか?」「何年生ですか?」と質問すると、みんな上手に答えてめでたく修了証をゲット!子どもたちは元気に帰って行きました。文字、簡単な会話、アニメ、折り紙などの日本の文化にみるみる馴染んでいく元気な子どもたちは、いつも周囲を明るくしてくれます。

日本の組織の印象を語る受講者の写真
日本の組織の印象を語る受講者
日本語で話す会の様子の写真
日本語で話す会の様子

 今年度特に力を入れたのは特別講座です。日本語教師や学生が中心となって行う講座で、受講者の知識や興味を広げようという月1回の試みです。目玉の1つは、ウクライナ人から見た日本についての小セミナーでした。ある日本語教師は日本滞在中に撮ったビデオを見せながら日本について話をしました。日本人の家の中、台所、トイレなどの映像は教科書では知ることのできない日本人の生活を分かりやすく伝えてくれました。別の回には、在キエフの日本の組織で働く4人の受講者が話をしました。日本とウクライナの時間や組織対個人に関する考え方の大きな相違に、みんな驚いたようですが、その違いを受け止めて信頼関係を築いてきた過程を上手に話してくれました。もう1つの目玉は、キエフ在住の日本人を招いて日本語で話す会です。仕事、趣味、経済、恋愛などいろいろな話が出ます。それを初級の日本語で何とか理解し合おうと頑張って、とても良い交流ができました。日本語学習者だけでなく参加した日本の方が「楽しかった~」と言ってくださいました。担当する者への労いの言葉と分かっていても、言語本来の目的を果たせたようでとても幸せな気持ちになりました。

3 「みんなの日本語I/II 翻訳・文法解説ウクライナ語版」の制作

 国際交流基金から派遣された日本語教育専門家はセンター内の日本語教育を発展させることは当然ですが、ウクライナ全体の日本語教育の活性化や学習環境の向上を支援することも仕事の一つです。そのために、国際交流基金派遣ジュニア専門家やウクライナ日本語教師会の先生方と常に協力関係を維持するよう努めていますが、独自に進めていることもあります。「みんなの日本語」という世界中で利用されている初級教材の「翻訳・文法解説ウクライナ語版」の制作です。原稿はリヴィウとキエフという2つの都市の大学教師チームとUAJCのスタッフとが協力して書き上げました。予想以上に様々な立場の教師の方にこの仕事に携わっていただけたのは最大の喜びです。国際交流基金、発行元のスリーエーネットワークに協力いただき、リヴィウ工科大学出版部から秋に出版する予定です。まだまだ多くのハードルが残っていますが、ウクライナの日本語教育の質の向上に役に立つことを信じて頑張ろうと思います。

4 今後の課題

 2年目を無事終了しようとしているUAJC日本語コースの最大の課題は、5年のプロジェクト終了後に日本語コースがどのような形で存続していけるかということです。派遣されている専門家があと3年でしなければいけないことは、まず、共に働く運営スタッフおよび日本語教師の実力を伸ばすこと、さらに、この日本語コースに愛着を感じてもらって今後を託せる人材に育てることでしょう。一方で、経験の浅い教師や他の仕事で忙しい教師たちがあまり負担を感じずに質の高い授業を続けることができるようにカリキュラム、教材、機材などを改善し充実させることも必要です。実は私はあと1か月余りで当地を去りますが、現地スタッフや先生方と専門家の2人3脚で良い形に発展することを願ってやみません。

ウクライナ日本センター
http://uajc.kpi.ua/ja/

日本センター
http://japancenter.jica.go.jp

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)プロジェクトは、ウクライナ国立キエフ工科大学の付属機関であるウクライナ日本センター内で活動する国際協力機構(JICA)による技術協力プロジェクトであり、現在日本人専門家が3名投入されている。その1人である国際交流基金日本語教育専門家は、UAJCの日本語コース運営を担当するほか、ウクライナ全土の日本語教育の活性化とレベル向上のためのアドバイザー業務を行う。
ロ.派遣先機関名称 ウクライナ日本センター
Ukraine-Japan Center (UAJC)
ハ.所在地 37 Peremohy Ave., Library NTUU "KPI(Kiev Politechnic Institute)" 4th floor Kiev, 03056 Ukraine
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家 1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 2006年

ページトップへ戻る