世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) キエフ国立言語大学の学生と教師たち

キエフ国立言語大学
三森 優

マンガ、アニメ、Jロック・Jポップ、Jドラマ!

言語大学の1年生たちの写真
言語大学の1年生たち

 「ウクライナ」と聞いて「オレンジ革命のあった国」という漠然としたイメージを持って来たウクライナの首都キエフ。国際交流基金(以下「JF」)ジュニア専門家(以下、専門家)は、キエフにあるキエフ国立言語大学(以下、言語大学)とキエフ国立大学(以下、キエフ大学)を兼任している。

 日本ではウクライナを身近に感じることは少ないのに対して、キエフには寿司バーなどの日本食レストランも多く、また日本のキャラクターグッズや、アニメ関連のイベントなどのポスターも時折見かける。

 近年の日本ポップカルチャーの影響もあってか、ウクライナには首都キエフの中等・高等教育機関を中心に、ウクライナには約1500人もの日本語学習者が存在している。言語大学は、キエフ大学とともにウクライナにおける日本語教育機関のまさに中心的存在である。

 言語大学では、たった一人のネイティヴ・スピーカーとして1年生から3年生までの授業を受け持っている。各学年3クラスあり、1、2年生は各クラス週1コマ、3年生は各クラス隔週1コマを担当している。特に1、2年生には日本のポップカルチャーが好きな学生が多い。インターネットが発達した現在、最近のアニメなどに関しては専門家より詳しいのではないかと思う学生もいる。日本のロックもヴィジュアル系が特に人気だ。

 専門家は、言語大学ではそんな学生たちの育成や現地教師の支援、学習環境の整備などが主な業務となっている。

日本を知りたい言語大学の学生たち

 言語大学では上記の担当学年の学生たちを対象に、初級では既習文型の運用練習や会話練習を主眼として授業を行い、3年生の学生にはロールプレイを用いた口頭運用練習や現地教員の扱いづらい中級文型を用いた文作りを授業で行っている。1年生のあるクラスでは、毎週授業の初めにまず質問攻めにあう。日本に関する興味から、日々何かしらの疑問が浮かぶのだろう。日本語に限らず日本に関する質問を、初級前半で習った日本語を用いながら、一生懸命質問してくる姿はとても微笑ましい。このようなクラスでは、授業の最初の時間を使って学生たちの質問に答えている。

 3年生の学生たちにも、ロールプレイやディスカッション、また中級文型の運用を図りながら、適宜日本の情報に関しても触れるような授業を行っている。ある時は「キムタク」や「ジャニーズ」に関する質問があった。ジャニーズに関する話を興味深く聞く学生たちは日本の「今」の情報に飢えているように感じられた。

 概して言語大学の学生たちは漢字に強い。非漢字圏の学習者にとって漢字学習は大きな壁だが、学生たちは漢字一文字一文字の音読み・訓読みを根気強く暗記していく。彼らにとっては「漢字」も異文化として、興味深い対象なのかもしれない。

日本とは異なる大学教員の立場

菖蒲の咲くキエフ国立言語大学第3校舎入口の写真
菖蒲の咲く
キエフ国立言語大学第3校舎入口

 日本の大学教員と異なり、現地での大学教員は決して高い地位にあるわけではない。また、給与も安く、特に言語大学では大学教員の定着率が著しく低い。これまでのJFの教材寄贈などで教材は少しずつ増えてきたが、大多数の若手教員たちは手探りでこれらの教材を使いながら授業を行っている。

 専門家はそんな若手教師たちの日々の相談相手である。学生に対する悩みや、指導上の困難点などを共有しながら、日本語や教授法に関する質問にも答える。あまりチームプレイの得意でない各教師たちに、授業の合間を縫って個別に相談に乗りながらより良い授業運営のためのサポートを行う。

 現地での課題は、そんな教師たちの連携をさらに図り有益なネットワークを如何にして構築するかということ、またいかにして若手教員の能力を高めていくかということである。言語大学では、給与も低く経験も少ないながらも、教えること自体が好きだという教師も多い。このような教師たちにできるだけの支援を行い、少しずつでも自立化への進む道を探る。また、ともすれば日本語以外の「誘惑」の多いキエフで、学生たちの日本語学習への意欲を如何に維持するかという点も重要な課題である。

異国を知るための「動くレアリア」

 キエフで日本に関連するものを多く目にするようになったからといって、依然やはり日本は現実的に遠い国である。在留邦人も少なく、留学や就職の機会も決して多くはない。そんな場所で日本語を学ぶ意味とは何だろう。学生たちもそれを自らに問うことも多いのではないだろうか。

 日本語を学ぶ意義、それは決して留学や就職などの実利に直結することだけとは限らない。日本語という外国語を通して見えてくる、自分の知らない世界。そんな世界への扉を開く「鍵」としての日本語。遠くウクライナから異国を知るための道具としての日本語もあるのではないだろうか。これからの目標は、「動くレアリア」としてのジュニア専門家を現地の学生、教員たちにもっともっと活用してもらうことである。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
キエフ国立大学とともにウクライナにおける日本語教育機関の中心的存在。現在、ウクライナ国内で活躍する日本語教師、通訳、日本企業の社員等、日本語を使う職業に携わる者はほとんど2大学の卒業生で占められている。専門家は1~3年生の日本語授業のほか、現地教師、学科の運営等への助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 キエフ国立言語大学
Kiev National Linguistic University
ハ.所在地 5/17 Laboratorinaya 03680 Kiev
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
キエフ国立言語大学附属東洋語大学 極東言語文明講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1990年
主専攻講座開講
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2001年
(ロ)コース種別
主専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤11名(内邦人0名)、非常勤0名、専門家1名、計12名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年36名、2年33名、3年30名、4年19名、5年13名
(2) 学習の主な動機 日本企業への就職希望、留学、日本文化への興味
(3) 卒業後の主な進路 主に日系ではない企業に就職、母校に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級程度
(5) 日本への留学人数 毎年2~5名程度

ページトップへ戻る