世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) どんな日本や日本語に関心が?

ウクライナ日本センター
大原 淳裕

 ウクライナの人達にとって、日本の印象とはどんなものなのでしょうか。もちろんそれは、一人ひとり違うのでしょうが、私が、派遣先機関であるウクライナ日本センター(以下、UAJC)にやって来て、まず意外に感じたことは、日本のポップカルチャーが思っていたよりもよく知られていることでした。今でこそ、アニメやJ-POPといった言葉は世界的に広く知られることとなりましたが、それはこのウクライナにおいても例外ではなかったようで、なかには、ゴスロリが好きという人もいます。UAJCのアニメカラオケコスプレ大会などでも、コスプレ衣装を身にまとい、日本のアニメカラオケをなめらかに歌うけれども、歌が終われば日本語が分からないという人も中にはいて、話せないのにずいぶんきれいな発音だな、と驚かされます。こうした人達にとっての日本への入り口は、アニメであり、コスプレカラオケであり、またゴスロリなのだと思います。

1) UAJCの日本語コース

ビジターセッションの写真
ビジターセッション

 ゴスロリやアニメというフィルタを通して見る日本はどんなものでしょうか。UAJCではいろいろな相互理解促進事業を企画しています。そして日本語コースもあります。日本の文化に興味を持つ人は日本語にも興味を持ちます。マンガや日本のアニメを日本語で読みたい、聞きたいという思いから日本語学習に入る人は少なくありません。UAJCの日本語コース(1年間)では、長期クラス(96時間)として初級1~3までのレベルが計5クラスと中級クラスが2クラス、短期クラス(15~30時間)として上級が4クラスと子ども対象のクラスを4クラス、を開講します。その他、教科書の中には書かれていない生の日本を感じてもらうべく、特別講座として、キエフ在住の日本人の方々に協力をお願いし、いくつかの文化体験の場も提供するようにしています。(詳細はUAJCのHP http://uajc.com.ua/をご覧ください。)これをすることによって、より広い範囲で学習者のニーズに応えられるかと期待しています。では、その学習者のニーズとは何を考えればいいのでしょうか。

2) 日本語学習の目的

 以前、高等教育機関における日本語学習目的についての簡単な調査をしました。もっとも学外教育機関であるUAJCにはそのままあてはめることはできないのかもしれませんが、調査結果に従えば、1.日本語によるコミュニケーションができるようになること、2.日本文化への興味、3.日本への留学、といった学習目的が多いことが分かりました。2007年時点、在留邦人数は160名前後、進出している日本企業数は20社前後です。ウクライナと日本の二国間の交流規模はここ数年、拡大しているとはいえ、それでもまだ、日常生活で、教室の外で、日本語を使う機会を見つけることは難しいです。日本の文化に触れることも、特別なイベントでもない限り、やはり難しいでしょう。今UAJCでできることは、たとえ小規模であっても、こうした学習者ニーズに対応できるような活動を、これからも続けて行くことだと思います。そのためには、日本語学習者の実情を知る必要があります。

3) 日本語学習者

 2006年の国際交流基金(以下、基金)による調査によれば、初~高等機関及び学外機関での学習者数は1, 500名と少しです。((短期クラスがあるので流動的ですが)UAJCは140~180名です。)2008年度能力試験受験者数は、450名弱でした。各級の受験者の割合は、1級5~10%、2級20%、3級30%、4級40~45%ぐらいですが、実際に各機関から回収した調査用紙を見ますと、学習時間数から見た2級相当以上のクラスを開講している機関数は少ないので、ひょっとすると、学習者レベルの実際の割合はもう少し偏差が大きくなり、その学習者数を階層化してみると、ちょうど独楽を反対に置いた形に近くなるでしょうか。ふもとから中腹(初学~3級)にかけてはなだらかで、中腹から先(2級以降)は勾配がきつくなる、といった風かもしれません。

 上を鑑みて、今年度より、UAJCでは2級前後の学習者を対象にした短期の2クラスの開講を試験的に始めてみました。この2クラスが現地の学習事情に合っているのであれば、カリキュラムを確定させ、現地に残せるようなシステムを作っておきたいと思います。

4) 日本語教育専門家の活動

日本語教育セミナー聴講者の様子の写真
日本語教育セミナー聴講者の様子

 上に挙げましたUAJCでの業務があり、これらのほかには、つい先日、「みんなの日本語Ⅰ・Ⅱ翻訳・文法解説」ウクライナ語版がついに完成しました。今後、本冊の現地語版も同様に作ることができればと思います。

 そして現地教師会の活動支援があります。毎年9月最終土曜日の弁論大会、12月第一日曜日の日本語能力試験、そして3月最終土曜日の日本語教育セミナー、のそれぞれの運営に係る実務的な作業をします。教師会の活動は今が伸び盛り、今後も教師会への活動支援を続けることで、現地への技術等の移転、活動効果の持続性が向上するものと期待しています。2008年度には、ウクライナのJFにほんごネットワークの拠点であるキエフ国立大学が中心となり、「第1回全ウクライナ日本語・日本文化国際公開シンポジウム」を行い、たくさんの現地日本研究、日本語教育関係者を招くことができました。

5) 今後の抱負

 赴任してもうそろそろ、1年が経ちます。いろいろと大変なこともあったような気もしますが、それはそれとして心に留めつつ、これからの1年も現地の先生方の協力を仰ぎ、これまでの1年以上に活動効果の高い活動を目指したいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、ウクライナ国立キエフ工科大学(KPI)内にプロジェクトオフィスを設置した、国際協力機構(JICA)による技術協力プロジェクトであり、現在は2名の日本人専門家が投入されている。うち1名は国際交流基金派遣の日本語教育専門家である。同専門家は、UAJCの日本語コース運営を担当するほか、ウクライナ全土の日本語教育活性化のための支援を行なう。
ロ.派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
ハ.所在地 37, Peremohy Avenue, Library NTUU "KPI 'Kyiv Politechnic Institute'" 4th floor., Kyiv 03056 Ukraine.
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家 1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 2006年

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