世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語イベントで見るウクライナでの一年間」

ウクライナ日本センター
大原 淳裕

 今年度の「世界の日本語教育の現場から」報告では、ウクライナ日本語教師会が関わる4つのイベント運営管理を通して、日本語教育の一年間を時系列に見ていこうと思います。

1)ウクライナ日本語弁論大会(例年9月最終土曜日実施、キエフ国立言語大学にて)

日本語弁論大会の写真
日本語弁論大会での集合写真

 2009年度実施をもって第14回を迎えました同大会は、ウクライナにおける日本語教育に関わる行事としては最も長く行なわれているものです。同大会の実施目的にはウクライナの日本語学習者に寄与することを前提とし、発話機会を提供する事、自身の日本語能力に関しての相対的な位置づけを明らかにする事という2点があります。キエフ日本商工会からは入賞者及び参加者への賞品の提供、また大会実施後援と共に、当地日本大使館とウクライナ日本センター(以下、UAJC)からは大会後の懇親会への後援をもいただいています。この懇親会により、各地方の日本語教師や学習者にとっての交流・情報交換の場の提供という付帯的な目的をも果たす事ができています。

 例年、出場者が選ぶ論題とその内容は非常にユニークであり、そのため聴衆は、発表者が替わる度に声をあげて笑ったりはたまた腕を組んで考え込んだりしています。このように、聴衆にとっては楽しくあっても、発表者の側からすれば緊張の極みにあるのかもしれません。教室の外では皆無に等しい日本語での発話、しかもたくさんの聴衆の前での発表なのです。過去の大会では、自身の発表の出来に納得ができなかった発表者が泣いてしまった事もありました。こうした出来事の一つ一つを今後も私たち運営側は教訓とし、何よりもまず発表者が心置きなく発表できる場と雰囲気作りを心がけていかなければなりません。

2)日本語能力試験(例年12月第一日曜日実施、キエフ国際大学にて)

 2009年度実施をもって第4回を迎えました。2008年度実施回の出願者数は439名でしたが2009年度実施回では562名、30%弱増加となりました。国際交流基金(以下、JF)の調査「日本語教育国別情報」によれば、ウクライナには1500人強の学習者がおり、3人弱に1人は同試験に出願している事になります。ウクライナにおける日本語学習の動機は、上級では「仕事に有用」という具体的な動機も見られますが、初級では「自身の能力を知る目安」という動機が大半のようです。「就職や留学のために有用」と考えての出願者は初級であろうと上級であろうと1割前後に過ぎません。これはウクライナと日本間に横たわる課題の1つなのかもしれませんが、こうした状況にあっても、3名弱に1人が出願しているというのは嬉しくも感じます。

 ちなみに私の派遣先であるUAJCでは55人の受講生が出願しました。UAJCの全受講者は180~200人ですので、3人強に1人が出願したことになります。

 試験運営は、当地教師会の中から実施委員を数名募り、その数名が中心となり行ないます。試験当日は、教師会関係者総出で試験監督に当たります。実施委員数名により万全の事前準備がなされ、当日は忙しくはあるものの、特段の滞りも見られず、良く運営管理がされているものと思います。今後もしっかりとした事前の作業確認と委員間の情報共有にさえ配慮すれば、きちんとした運営管理がされるでしょう。

3)ウクライナ日本語教育セミナーと全ウクライナ国際公開シンポジウム
(例年3月最終金・土曜日実施、タラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学にて)

 2009年度実施をもって、ウクライナ日本語教育セミナー(以下、セミナー)は第9回、全ウクライナ国際公開シンポジウム(以下、シンポジウム)は第2回をそれぞれ迎えました。セミナーとシンポジウムの連日開催というスタイルは2008年度実施回からの事です。

 セミナーは日本語教育関係者を対象に、当地日本語教師及び日本語教育レベルの底上げと日本語教育関係者間の情報共有の場の設定及び教師間ネットワーク網の強化という3点を目的として実施しています。そこで、日本語学や日本語教育に関しての研究乃至は実践報告、JF教師研修参加者による成果報告、日本語教育関係者による教育推進会議等を行なっています。

日本語教育セミナー受付の様子の写真
日本語教育セミナー受付の様子

 一方のシンポジウムは、日本語教育関係者のみならず、学習者や日本文学等研究者までを広く受講対象とし、日本文学等当該分野における諸外国から識者を招きその知識を深める事、それを当地の当該分野における発展に寄与させるべく積極的な分科会を行なう事の2点を目的としています。シンポジウムは受講対象者も広く且つ扱う分野も非常に広いので、「日本」に関わる新たな視点を受講者にもたらす事に寄与しているようです。

 両イベントの連日開催をすることによって、広く「日本」に関心を持つ人々にシンポジウムにて学習の場を提供し、そして深く日本語教育に関心を持つ人々には、セミナーにてその場を提供する事ができます。こうした連関の強さがセミナーとシンポジウムにはあると言えます。

 以上、4つのイベントでウクライナにおける日本語教育の1年を見ることができます。これらイベントは、学習者に寄与するものもあれば教育関係者に寄与するものもあります。今後、ウクライナにおける日本語学習者数は漸次増加するでしょう。それに伴い、主として大学等教育機関における教育環境の充実もより一層求められるでしょう。こうした今後の増加層を受け入れられるよう、各イベントの継続性を高めつつ、現地主体で意義のある運営管理が続けられることを期待します。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、ウクライナ国立キエフ工科大学(KPI)内にプロジェクトオフィスを設置した、国際協力機構(JICA)による技術協力プロジェクトであり、現在は2名の日本人専門家が投入されている。うち1名は国際交流基金派遣の日本語専門家である。同専門家は、UAJCの日本語コース運営を担当するほか、ウクライナ全土の日本語教育活性化のための支援を行なう。
所在地 37, Peremohy Avenue, Library NTUU "KPI 'Kyiv Politechnic Institute'" 4th floor., Kyiv 03056 Ukraine.
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年

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