世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 笑顔が素敵な学生たちと、勉強好きな教師たち

キエフ国立大学
三森 優

ウクライナを代表する高等教育機関「キエフ国立大学」でのアドバイザー業務

ガイドブックにも載っているキエフ国立大学“赤い”本校舎の写真
ガイドブックにも載っている
キエフ国立大学“赤い”本校舎

日本語を学ぶ学生たちのキエフ国立大学言語学院“黄色い”校舎の写真
日本語を学ぶ学生たちの
キエフ国立大学言語学院“黄色い”校舎

 キエフ国立大学(以下、キエフ大)は、ウクライナの中心的な地位を持つ大学である。鮮やかな赤い色の本校舎は日本のガイドブックにも載っている。この本校舎の左翼に位置する形で、日本語を学ぶ中国語・韓国語・日本語学科がある言語学院が建っている。

 2010年度からキエフ大に派遣される国際交流基金(以下、JF)日本語専門家(以下、専門家)は、ウクライナ全体のアドバイザーとしての業務が加わった。これに伴い、これまで兼任であったキエフ国立言語大学(以下、言語大)にはJF日本語指導助手(以下、指導助手)が派遣されている。キエフではキエフ大のみならず、言語大も主要な日本語教育機関である。専門家は、この言語大に派遣されている指導助手への指導も行う。兼任ではなくなった分、言語大へは訪問する機会も減ったが、指導助手への指導を通して、言語大支援も行っている。

 専門家はアドバイザー業務に加え、派遣先であるキエフ国立大学の1年生の授業担当、コース運営や授業実施への助言、毎年3月に開催されているシンポジウムの実施等を行っている。

キエフ大の笑顔が素敵な1年生たち

 キエフ大では1年生の主に会話・聴解部分を担当している。創作会話を行うことが多く、17歳、18歳の学生たちは、若さ溢れる笑顔で楽しそうに会話を作り、女優張りの演技で発表を行ってくれる。近年、特に中等教育で日本語を学んだ訳ではないのに、日本語の聞き取りや口頭運用に慣れている学生の存在が目立ってきた。このような学生は「自分で勉強した」と言う。よく話を聞いてみると、どうやらインターネットで日本のドラマやアニメをよく見ているようである。日本の映像を見ながら、日本語を自分で勉強してきたようだ。改めて、日本のポップカルチャーの日本語教育への影響を実感した。インターネットの普及で情報の入手が容易になった現代、日本語学習の方法も大きな変化を見せてきているということだろうか。

シンポジウム・セミナー、国外参加者も唸る“勉強好きな”ウクライナ教師たち

 キエフ大では第1回、第2回に引き続き、JF「さくら中核事業」による第3回全ウクライナ国際公開シンポジウムを実施した。このシンポジウムは「ボローニャ・プロセス」をテーマとし、これからのウクライナの日本語教育について考える機会となった。今回は、JF日本語国際センターから講師を招聘し、特にJF日本語教育スタンダードに関する講演も行ってもらった。午後は例年通り分科会が開かれ、各地から集まった発表者たちの活発な発表が行われた。

 連日開催となっているセミナーでは発表・実践報告・講義のみならず、上記招聘講師によるJF日本語教育スタンダードのワークショップも行われた。今回のセミナーは内容が盛りだくさんで、かなり時間的に厳しいものであったが、受講者たちは最後の最後まで熱心に参加していた。その様子を見ていた国外参加者からは、「ウクライナの先生たちは真面目で勉強熱心だ」という声も聞かれた。これまで3回シンポジウムを実施してきたが、確かに、研究や勉強といったことに、ウクライナ教師たちはとても熱心に取り組んでいる。この3年間、そんなウクライナの人たちに、発表の場を設定することができたことは、何よりも喜ばしいことであった。

ウクライナ日本語教育界を支援するアドバイザー業務

 既述の通り、専門家の主な業務としてウクライナ全体の日本語教育に対するアドバイザー業務が加わった。アドバイザー業務では、主にウクライナ日本語教師会(以下、教師会)支援を行う。これまで約1年間、慣れないながらも何とかアドバイザー業務を終えてきた。教師会は、9月末のウクライナ日本語弁論大会(以下、弁論大会)、12月初めの日本語能力試験(以下、JLPT)、3月末のウクライナ日本語教育セミナー(以下、セミナー)といった、各行事の実施団体となっている。専門家はこれらの行事の、事務作業を含めた実施支援を行う。

 また、日本語教育を行っている地方機関への巡回も業務の一つである。教師会では近年、西のリヴィウ、南のオデッサ、東のハリキフの、地方3都市を支部に設定した。地方巡回はこれまでこの1年、これら3都市に加えモルドヴァのキシニョフへ巡回した。地方各機関では、そこで、新しいJLPTやJF日本語教育スタンダード等に関する勉強会を実施した。

組織化へ向かう教師会

 年に三つの大規模行事を行っている教師会だが、実質、有志のボランティアによって運営されている。大学での日々の業務や、アルバイト、家庭の仕事等で忙しい教師たちにとって、教師会に関わる仕事は大変な負担のようだ。しかし、教師会の中心メンバーたちは、熱心に教師会行事の仕事をしてくれている。

 既述の通り、ここ数年で教師会は地方3支部を設定し、組織としてもウクライナ全体としての教師会へと志向し始めている。これまで有志ボランティアのため、組織的に整備されていなかった教師会だが、近年セミナーの際の総会や弁論大会時の連絡会議等、地方教師たちとのやり取りも活発化してきた。また、最近では暫定規約を作り、曖昧だった教師会会員の画定を行っている。現在は教師会のNPO法人化も話し合われている。今年度はここ数年停滞気味であったキエフの月例教師会も行われ、新JLPT実施前には、JF派遣者たちによる勉強会も行った。文部科学省日本語・日本文化研修留学生試験の説明会も、在ウクライナ日本国大使館広報文化班のご協力を得て実施した。

 専門家は上記の組織化支援を行っているが、現在の教師会は、着実に組織化へ向かう方向にあると考えている。今後、この組織化をさらに進めていくことが課題である。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Taras Shevchenko National University of Kyiv
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
キエフ国立言語大学とともにウクライナにおける日本語教育機関の最高峰の双璧をなす。現在、ウクライナ国内で活躍する日本語教師、通訳、日本企業の社員等、日本語を使う職業に携わる者はほとんど2大学の卒業生で占められている。専門家は1年生の日本語授業の他、現地教師、学科の運営やシンポジウム開催等への助言を行う。また、ウクライナ日本語教師会支援や地方巡回、キエフ国立大学派遣日本語指導助手への指導も、それぞれ重要業務である。
所在地 Blvd. T. Shevchenko 14, Kyiv, 01017, Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語学院 中国語・韓国語・日本語学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1991年主専攻講座開設、1999年から毎年開講
国際交流基金からの派遣開始年 1996年
コース種別
主専攻
現地教授スタッフ
常勤10名(内邦人2名)、非常勤2名(内邦人0名)、専門家1名、合計13名
学生の履修状況
履修者の内訳   1年28、2年24、3年22、4年27、5年16、6年13
学習の主な動機 留学、日本企業への就職希望、日本文化への興味
卒業後の主な進路 進学、留学、大使館を含む日系機関・企業や外資系企業就職
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
旧日本語能力試験2級程度
日本への留学人数 毎年7名程度

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