世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本文化・日本語をこよなく愛する国、ウクライナ

ウクライナ日本センター
平賀 達哉

はじめに

当センターが入っているキエフ工科大学の図書館の写真
当センターが入っているキエフ工科大学の図書館

 ウクライナはいわゆる日本ファンの多い国だ。マンガやアニメといった大衆文化のみならず、生け花、茶道といった伝統文化、また剣道や合気道といった武道に至るまで、地元の団体があり、多くの会員を有し、活発に活動している。

 そういった動きの中心にあるのがウクライナ日本センター(UAJC)である。UAJCは今から5年前に、国際協力機構(JICA)によってキエフ工科大学(KPI)の中に開設され、今日に至るまで、ビジネス、相互理解、日本語を活動の三本柱に据え、積極的に事業を展開してきた。その活動が高く評価され、今年初めに訪日したウクライナのヤヌコーヴィチ大統領と菅首相との間で調印された「日本・ウクライナ・グローバル・パートナーシップに関する共同声明」にも当センターの活動を高く評価する内容が盛り込まれた。

ウクライナの日本語教育とUAJC

 東欧諸国の中でウクライナは日本語教育の盛んな国だと言えるだろう。国際交流基金(JF)が3年ごとに実施している「海外日本語教育機関調査」の一番新しい2009年の数字を見ると、ウクライナ全土で日本語学習者は2,183名に上っているが、これは東欧全体で、ロシア、ポーランドに次いで多い数である。ちなみに、上位5カ国の学習者数は次のとおりである。ロシアがやはり一番多く11,696人、次いでポーランド2,865名、3位がウクライナで2,183名、以下、ルーマニア2,066名、ハンガリー1,837名と続く。

日本語を習い始めたばかりの初級1クラスの学生の写真
日本語を習い始めたばかりの初級1クラスの学生

 この学習者のほぼ半数は大学で勉強している学生である。一般の人が日本語を学びたくても、民間の学校はほとんどないのが現状だ。そんな中でUAJCの日本語コースは一般の人が通える数少ない講座としてこれまで知名を得てきた。上記の調査によると、2009年にウクライナの一般対象の講座で学ぶ学習者数は全部で527人である。同年に当センターの日本語コースに登録した学生数は全部で196名であるから、全体の学習者数のうち当センターの学生が占める率は約40%になる。

 去年の9月の初めにUAJCの日本語講座の新規募集を行ったが、約200人の定員枠になんと343人が応募した。これはうれしい悲鳴なのであるが、翻って考えてみれば、日本語を学びたいと当センターの門戸を叩いてくれた約140人の人には「門前払いを食わせる」という申し訳ない結果になったということでもある。

これからのUAJC

 UAJCは当初の予定通り、この5月21日をもってJICAプロジェクトとしての活動を終了した。本来、その後はKPIに完全移管する予定であったが、急転直下、JFが文化交流事業と日本語教育事業を引き継ぐことに決まった。今年度予算の「元気な日本復活特別枠」事業に対し、政府は国民の声を特別枠予算に反映させる試みとしてパブリックコメントを募集したが、その結果、「アジア諸国等における日本語教育拡充」などの事業をJFが実施することになり、その事業の一つに当センターの日本語コースも入ったからである。

 新しくこのセンターを引き継ぐJFはすでに、日本語を勉強したいというすべての受講志願者に日本語学習の門戸を開くという視点から、「今後5年間で現在の受講生数200名を倍の400名に増やす」という数値目標を打ち出した。この数字を実現するためには、教室の数を増やす必要があるが、その教室をどのように確保するのか、また受講生を増やすと当然教師も増やさなければならないが、新しい教師をどのように育てていくのかも今後の課題として挙がっている。

おわりに

 今やUAJCは名実ともにウクライナ全土における日本文化交流・日本語教育の「中心」に育ってきている。そのセンターの事業をJFが引き継ぐというニュースは、UAJCのスタッフのみならず、全国で日本文化に関わる活動をしている方々、日本語教育に携わっている先生方に安堵感と希望を与えた。私はJICAプロジェクトの終了をもって帰任するが、日本文化や日本語をこよなく愛するウクライナの人たちの期待に応えるべく、さらなる発展を遂げてほしいと心から願っている。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナ日本センターは、JICAの技術協力プロジェクトとして、この5年間ビジネス・相互理解・日本語教育の3つの柱を中心に事業を展開してきた。日本語教育専門家は、当センターの日本語コースにおいて、授業を行う他、コースの企画・運営、現地教師に対し、教授力強化のための指導や勉強会を行い、受講生に対しては授業を補完する特別講座を実施する。また、教師会に対し、様々な側面支援を行う。2011年5月に当プロジェクトは終了した。
所在地 37, Peremohy Ave., Library, NTUU "KPI", 4th fl., Kiev, 03066 Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年

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