世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 新たな連携を模索する、ウクライナの日本語教育

キエフ国立大学
斎藤 誠

 キエフ国立大学(以下、キエフ大)派遣の日本語専門家(以下、専門家)の業務は主に3つあり、大学の学科運営や授業、ウクライナ日本語教師会(以下、教師会)の活動のサポート、そして国内地方都市の教育機関、モルドバへの巡回と調査です。  

 キエフ大は、本部校舎が『地球の歩き方』にも載っているくらい有名で、日本の東大にあたるウクライナの最高学府です。その赤い校舎の斜め向かいにある黄色い校舎が、日本語の講座がある「言語学院」の建物です。

 2011-12年度の私の担当授業は、前期は2年生と3年生、後期は3年生のみでした。昨年度までの前任者が1年生のカリキュラム整備にあたったので、今年度は、2~3年生のカリキュラムの整備をしながら、授業では現地講師の方々とのチームティーチングを行います。中級(3年生)では今年から教材を新しくし、やり方も変わったので教師も学生も試行錯誤でやってきましたが、2011年12月の日本語能力試験(以下、JLPT)では、過去最高の合格率になり、少しだけ成果が出た気がします。

 こちらの学生は、とにかく話すのが好きで、議論とユーモアが好きです。会話を作らせると、さながら舞台でのお芝居と化します。さすがは演劇の国。しかし、漢字は大の苦手で、誰もが四苦八苦しています。

 キエフでは日本語を使う環境がないのに、「どうして日本語(の勉強)を続けているの?」と高学年の学生に聞くと、「文学作品に共感した」「自分にチャレンジしたかった」などと答えてくれました。動機が強いだけに、継続するわけがわかります。ただ、週に5~6時間程度しか日本語授業がなく、十分に練習時間が取れないのが悩みの種です。

 キエフ大に限らず、ウクライナでは特に現地講師が熱心に頑張っています。教師会の中心メンバーは、自分たちの仕事が忙しいのにもかかわらず、積極的に運営に参加しています。毎月の会議をベースに、9月の弁論大会、12月のJLPT、3月の日本語教育セミナー(以下、セミナー)と、成功に導いてきました。優秀な教師は、細かいところにも気が利き、日本人よりも日本人らしい繊細な感覚を持っています。

2012年3月にキエフ大で行われたシンポジウム・会場付近の風景の写真
2012年3月にキエフ大で行われた
シンポジウム・会場付近の風景

地方巡回で訪問したドニプロペトロフスク国立大学の教室の写真
地方巡回で訪問した
ドニプロペトロフスク国立大学にて。
こんな教室で授業をしていました。

 ウクライナでは、キエフ以外の地方でも6都市、9つの大学等で日本語を教えています。日本人教師のいない大学がほとんどで、私が巡回で行くと、初め学生さんたちはおとなしくしていますが、次第に仲良くなり、日本語が勉強できる喜びを伝えてくれます。先生方も熱心で、毎日の授業をこなしながら自分の研究を進め、セミナーやシンポジウムで積極的に発表しています。

 毎年3月下旬にキエフ大で行われる「全ウクライナ国際公開学術シンポジウム」(国際交流基金さくら中核事業)と共同開催の「セミナー」では、毎年ウクライナ人教師の研究発表や研修、授業報告が行われます。そして2012年のセミナーでは、ウクライナのみならずモルドバ、グルジア、アゼルバイジャンというGUAM諸国にベラルーシを加えた5カ国の教師が初めて一堂に会し、パネルディスカッションを開催しました。ここでは、今後イベントやネットを通じて連携していくことを確認しました。

 欧州一広大で、巡回に行くのに列車で片道6~12時間かかるウクライナでも、インターネットの発達により、以前より教師会の活動が機能的になりました。これから、ウクライナ国内、そして近隣諸国とも連携を深めて新しい段階を模索していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Taras Shevchenko National University of Kyiv
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナの最高学府。日本語教育では、キエフ国立言語大学と共に代表的な教育機関の1つ。現在、ウクライナ国内の日本語教師、通訳、日本企業の社員等、日本語を使う職業に携わる者はほとんど2大学の卒業生で占められている。専門家業務は各学年の日本語授業の他、現地教師と共に学科の運営、シンポジウム開催等の助言を行う。また、ウクライナ日本語教師会運営支援、地方及びモルドバ巡回、キエフ国立言語大学派遣日本語指導助手への指導も業務である。
所在地 Blvd. Tarasa Shevchenko 14, Kyiv, 01017, Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語学院 中国語・韓国語・日本語学科
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1991年主専攻講座開設、1999年から毎年開講
国際交流基金からの派遣開始年 1996年
コース種別
主専攻
現地教授スタッフ
常勤11名(内邦人2名)、非常勤 4名(内邦人0名)、専門家1名、計16名
学生の履修状況
履修者の内訳   1年16、2年29、3年24、4年24、5年21、6年12
学習の主な動機 留学、日本企業への就職希望、日本文化への興味
卒業後の主な進路 就職、進学、留学、日系機関・企業や外資系企業就職
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2程度
日本への留学人数 最大9名/年

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