世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語学習者の裾野を広げる―国内・隣国での活動―

キエフ国立大学
森田淳子

私は、2014年の8月末にウクライナに着任しました。受入機関のキエフ国立大学での授業をはじめウクライナおよびモルドバの日本語教育支援を行っています。今回は、ウクライナにおける活動とモルドバで開催された国際弁論大会についてお伝えします。

2012年の調査*1によると、ウクライナの日本語学習者は約1300人。アニメ・漫画への興味が学習目的の方も多いですが、それ以上に日本語そのものへの興味、国際理解・異文化交流を学習目的に挙げる学習者が多いです。2014年12月にキエフで実施された日本語能力試験(以下、JLPT)は、ウクライナおよびベラルーシから約650人が受験しました。国内会場はキエフのみのため、夜行列車に乗って受験会場に来てくれる受験者も少なくありません。キエフ以外の地方ではこれまでオデッサ、ドニプロペトロフスク、ハリコフ、リヴィウ、ルガンスクの先生方がJLPT団体出願を取りまとめてくれていましたが、ウクライナ情勢の影響で2014年度はルガンスクの担当者が避難、大学も機能していないとの申し出を受け東部地域での団体出願を中止、受験希望者はキエフあるいは他に可能な地域での出願となりました。JLPTのほか、ウクライナ日本語弁論大会、国際日本研究シンポジウム(以下、シンポジウム)*2、ウクライナ日本語教育セミナー(以下、セミナー)、ウクライナ日本語キャンプなどの日本語教育関連イベントがウクライナ日本語教師会、キエフ国立大学、キエフ国立言語大学などの主催によって行われています。

「第14回ウクライナ日本語教育セミナー」の写真
「第14回ウクライナ日本語教育セミナー」の様子

学生と教室外での交流の写真
学生と教室外での交流。玉子焼きに挑戦。

シンポジウムやセミナーにも国外からの参加者が集まりにくい状況が続いていますが、今年度のセミナーでは国際交流基金(以下、基金)の海外教師研修に参加した教員がワークショップ講師を務め、「初級日本語教授法オンライン講座」(基金モスクワ暫定事務所主催)に参加したキエフ大学修士課程の学生が受講報告を行うなど、それぞれが学んだことを国内の日本語教育関係者間で共有するいい機会となりました。

また、冬場の燃料不足への懸念から例年より長くなった休暇期間を利用し、今年2月に日本語学習者の裾野を広げる目的で「日本語を初めて学ぶ方のための日本語教室」*3を4日間開催しました。在ウクライナ日本国大使館の領事部待合室を会場としてご提供いただき初めて実施した試みでしたが、定員を大幅に上回る申込があり、潜在的な日本語学習ニーズを知ることができました。受講生のみなさんの学習意欲も高く充実した4日間でしたので、これをきっかけに日本語が学べる大学やウクライナ日本センターなどの教育機関で本格的な学習を継続してほしいと思います。

隣国との交流も活発化しています。2012年に開始された「GUAM諸国合同日本語弁論大会」はジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ、ベラルーシの日本語学習者が参加しています。第1回(ウクライナで開催)、第2回(アゼルバイジャンで開催)に続き、今年5月に第3回大会がモルドバで開催されました。基金の日本語専門家が派遣されていない国での初めての開催でしたが、主催であり国内唯一の日本語教育機関でもあるモルドバ日本交流財団関係者の尽力により成功裏に終えました。第4回はベラルーシ、第5回はジョージアと開催地も決まり、学習者や教師間の交流が今後さらに深まることが期待されます。

基金からの専門家派遣も約20年間を経て、今後は派遣終了を見据えてこのような日本語教育関連事業の運営を現地教員のみで行えるよう後方支援していくことが大きな課題です。上述のとおり、ウクライナ情勢が日本語教育関連事業にも影響を与えていることを実感する場面があります。このような状況でも遠く離れた日本の言葉を学んでくれている学習者とそれを支える教師たちに、日本語教師である以前に日本人として感謝の念を強くしています。感謝と尊敬の気持ちを忘れず信頼関係を築きながら、よりよい支援活動を進めたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Taras Shevchenko National University of Kyiv
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナの最高学府。日本語教育では、キエフ国立言語大学と共に代表的な日本語教育機関の1つ。在ウクライナ日本国大使館、日本語教師、通訳、日本企業の社員等、ウクライナ国内で日本語を使う職業に携わる者を多く生み出している。専門家業務は各学年の日本語授業の他、現地教師と共に学科の運営、シンポジウム開催等の助言を行う。また、ウクライナ日本語教師会運営支援をはじめとした国内の日本語教育支援、及びモルドバの日本語教育支援、キエフ国立言語大学派遣日本語指導助手への指導も業務である。
所在地 14 Bulvar Taras Shevchenko, 01601, Kyiv, Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語学院 中国語・韓国語・日本語学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1991年主専攻講座開設
1999年から毎年開講
  国際交流基金からの派遣開始年 1996年
 
コース種別
  主専攻(英語とのダブルメジャー制)
 
現地教授スタッフ
  常勤12名(内邦人2名)、非常勤 1名、専門家1名、計14名
 
学生の履修状況
  履修者の内訳 今年度主専攻98名
(学部各学年約20名、修士各10名)
  学習の主な動機 留学、日本企業への就職希望、日本文化への興味
  卒業後の主な進路 就職、進学、留学、日系機関・企業や外資系企業就職
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2程度
  日本への留学人数 毎年10名程度

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