世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語講座の新しい試みと今後の課題

ウクライナ日本センター
宮﨑さとみ

ウクライナ日本センター(以下、UAJC)の日本語講座は9月下旬に始まり、翌年6月中旬に修了します。申請者多数の場合入門クラスは先着順、それ以上は試験選考があり、2015年度は384名の申請者中301名の受講生が講座を開始しました。通年コースですが、前期で辞めてしまう受講生もいる一方、空きができた後期から開始した受講生もいました。今年度は長期コース前期、後期に短期コース、トライアルコースの受講生を含めると573名(のべ人数)が講座を受講しました。

業務は授業実施の他、コース設計、カリキュラム作成、マニュアル整備等の講座運営、スタッフ、講師の選定、指導、研修実施、講座運営管理者の育成等の指導業務、講座運営費管理、予算案策定等の会計業務、事業計画策定、実施等多岐にわたります。

今年度は受入機関からの要請で日本関係の様々なイベントに参加し、日本語授業実施、日本文化のレクチャー、日本語講座の紹介等を行いました。地方都市オデッサで行われたイベントでは一般向け日本語授業や、大学でのJFスタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)紹介、『まるごと』を使用した授業を実施しました。

また、ウクライナ日本語キャンプ、ウクライナ日本語弁論大会、日本語能力試験、ウクライナ日本語教育セミナーなど教師会関連イベントへの実施協力も行いました。

様々な新しい活動を行った1年間でしたが、その中から日本語講座での新しい取り組み、トライアルコースと子どもコースをご紹介します。

長期コース開始前の8月、気軽に参加できる短期コースで日本語講座を知ってもらうこと、そこから長期コースの受講に繋げることを目的にトライアルコースを実施しました。

授業は日本語学習経験が全く無い人が対象で、1コマ90分、週2回4週間の合計8コマ、そのうち6コマを専門家、2コマを現地講師が担当しました。長期コースで使用する教科書、『まるごと』の紹介をしながらも長期コースと内容が重ならないように教科書は使用せず、Can-do評価に基づいた会話中心のカリキュラムを設計、教材は自主制作し、『まるごと』は要所で取り入れるという形を取りました。

受講生は当初、日本語での文法説明のない会話中心の授業に戸惑っていましたが、回を重ねるごとに慣れ、ペアワーク等の活動を楽しんでくれるようになりました。アンケート結果は「授業は日本語だったけど全部わかった!」、「クラスメートとたくさん日本語で話せてよかった。」と好評で、22名中10名(先着漏れを除く)が長期コースを受講してくれました。日本語を勉強してみたいけどまずどんな授業か体験してみたい、忙しくて1年は続けられないけど少しだけやってみたい、という方々のために今後も実施できればと思います。今後現地講師が実施できるように、カリキュラム、マニュアル、教材を整備する予定です。

トライアルコース修了式の集合写真
トライアルコース修了式

子どもクラスは2007年以来8年ぶりに開講しました。当初需要が未知数だったため、宣伝や募集をせず問い合わせ受け付けとし、コースも半年コースに設定しました。しかし、予想を超える16名が集まり開講、全員が継続を希望したため後期も実施、1名が加わり17名全員が修了しました。対象者は10歳から14歳、クラスは1コマ90分週1回、専門家が担当しウクライナ人講師がアシスタントに入りました。将来的には成人コースに移行できるように『まるごと』を参考に子ども向けカリキュラム設計、教材作成をしました。会話中心でペアワークやゲーム等のアクティビティ、歌や文化紹介を取り入れ、『エリンが挑戦!日本語できます。』で学習した内容に関連するビデオを見せました。皆とても仲が良く助け合って活動を進め、積極的に楽しんで参加してくれたので私も毎回授業が楽しみでした。

七夕飾りと飾りつけをしている子どもたちの画像
七夕飾りと子どもたちの願い

修了式には保護者を招待し発表を通して成長を見ていただき、皆で七夕飾りを作り願い事を書きました。子どもたちも保護者も継続を希望しています。また、この1年間で問い合わせが多数あり、受講希望者リストはすでに2クラス分できています。イベントでの子ども向け日本語講座にもたくさんの参加があり関心の高さが伺えましたが、ウクライナでは子どもが日本語を学ぶ機会はほとんどありません。UAJCでその機会を与えるべくコースを確立したいと思っています。

このようにウクライナでは日本語に対する興味、関心が高まっており、通常コースの受講希望者も増えています。大学以外で日本語を学べる機関は少なく、UAJCの日本語講座が果たす役割の大きさを感じています。増加する需要と期待に応えるべく、今後はスタッフや先生方の協力を得ながらコースの充実と質の向上を図り、より良い授業を提供できるよう講座運営に努めたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、キエフ工科大学(KPI)内にオフィスが設置されており、主に日本語教育事業、さらに文化交流事業を行っている。日本語教育専門家は、当センターの日本語講座の企画・会計業務を含めた運営・授業を行う他、現地教師指導や研修なども実施する。また、ウクライナ日本語教師会に対し、様々な側面支援も行う。
所在地 37, Peremohy Ave. NTUU "KPI", 4th fl., 03056
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 2006年
  国際交流基金からの派遣開始年 2006年
 
コース種別
  一般講座
 
現地教授スタッフ
  常勤3名(うち邦人1名)、非常勤6名(うち邦人3名)
 
学生の履修状況
  履修者の内訳 学生44% 社会人56%
  学習の主な動機 日本伝統文化、芸能、ポップカルチャーなどへの興味・関心
  卒業後の主な進路 なし
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定N3~N2を受験可能な程度
  日本への留学人数 ほとんどなし

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