世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「量」から「質」に目を向けて

ウクライナ日本センター
藤崎泰典

ウクライナの印象

四月にウクライナの首都キエフに赴任してから、約1ヶ月になります。首都キエフは、武力衝突が起きているウクライナ東部からも遠く、安全で平穏な生活を送ることができます。ウクライナの人々は明るく友好的で、外国人に対しても偏見なく接してくれます。加えて、日本はウクライナにとって最大の経済支援国で、両国は良好な友好関係を維持しています。今年は「日本年」という特別な年ということもあり、2500本の桜の植樹など、各都市で様々な行事があり、日本とウクライナの友好の絆は益々深くなっています。

ウクライナ日本センターの役割

ウクライナ日本センターの入り口の画像
ウクライナ日本センターの入り口

そうは言っても、富裕層を除くと、一般のウクライナの庶民にとっては、日本は、遠い存在であると言わざるを得ません。地理的にというだけでなく、欧米などでは広く普及している日本製品もウクライナの一般庶民には高く、手は届きません。また、日本語も、高等教育機関でしか学ぶことのできない「敷居の高い」言語です。そのような中で、ウクライナ日本センターは、一般のウクライナの人達が日本のことを知る数少ない窓口のひとつとして、一般向けの日本語の授業を提供しています。茶道、生け花、映画鑑賞など、様々な文化行事も行われています。また、センター内には図書館もあります。図書館は、日本語学習者のみならず、在留邦人、日本からの旅行者も足を運んでくださり、ウクライナの人達と日本人が交流できるスペースになっています。そして、日本語教師会がセンター内で行われるなど、ウクライナの日本語教育の支援の一翼も担っています。

日本語教育の課題

職員室で授業準備をする講師の画像
職員室で授業準備をする講師

現在、ウクライナの日本語教育の最重要課題のひとつとして、教員育成があります。 残念ながら、ウクライナには日本語教師が育ちにくいという現状があります。というのは、日本語教師だけをして生活を支えていくのは難しく、より豊かな生活を求めて、一般企業に勤めるという選択をせざるを得ないという事情があります。また、志のある教師でも、副業をしなければ生計を立てていくのが難しく、常勤講師のように落ち着いた環境で、ゆっくりと教師としての知識や経験を積み重ねていくことは困難です。国際交流基金から出版されている『まるごと』のような、使い勝手の良い教材もありますが、それでも、長い目で見て、言語教育についての深い理解とそれを実践する力を養うことなしには、プロの日本語教師を育てることは難しいです。これまで、ウクライナ日本センターは「量」の部分、つまり、学習者の裾野を広げることに大きな貢献をしてきました。しかし、「質」の部分も真剣に考えなければならない時が来ていると思います。具体的には、定期的な教師研修や日本語勉強会を通して、「質」の良い日本語教育を提供していくことのできる教師を育てていくことだと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、キエフ工科大学(KPI)内にオフィスが設置されており、主に日本語教育事業、さらに文化交流事業を行っている。日本語教育専門家は、当センターの日本語講座の企画・会計業務を含めた運営・授業を行う他、現地教師指導や研修なども実施する。また、ウクライナ日本語教師会に対し、様々な側面支援も行う。
所在地 37, Peremohy Ave. NTUU "KPI", 4th fl., 03056
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年
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