世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「なんでもやらせてもらってます ~ウズベキスタンの日本語学習者の笑顔のために~」

ウズベキスタン日本人材開発センター
黒滝力

第7回中央アジア弁論大会の写真
第7回中央アジア弁論大会
日本語教師養成講座の写真
日本語教師養成講座

 たしか、私は「日本語教師」だったと思う。が、着任早々調整員から「・・・で、黒滝さんも授業をなさるんですか?」と聞かれた。「えっ、俺授業しに来たんじゃないの?」
 赴任当初の謎がだんだん解けてくる。実際、授業及び授業準備に割かれる時間は全体の二割にも満たない。センターで行われている初中級のコースには100名を超える学習者が在籍している。この講座に関しても自分自身が授業に費やす時間よりも、現地講師の指導に当たる時間のほうが多い。また、このコースでの授業と教務関係業務の他に、日本語教育ネットワークの強化、日本語教師会支援、ウズベキスタン日本語弁論大会支援、中央アジア弁論大会支援、年少学習者学習発表会運営、センター主催日本語能力認定試験作成・実施、教師養成講座運営、現地各種機関との共催イベントの実施、現地日本語教育機関への助言と支援活動、現地講師及び在留邦人講師への助言と支援、日本研修留学プログラムの取りまとめと各機関・個人への支援等々。協力隊OBであることもあり、職種を越えて協力隊員のよろず相談承りまでしてしまっている。
 この合い間に報告書を書けというのだから、基金も厳しいことをおっしゃる。半期に一度はJICAに英語の報告書も出さなければならない。一般社会人向け講座が夜間であることもあり、毎日午前9時~午後9時の勤務時間で取り組んでいるが、もともと要領のいいほうではないこともあって、仕事をこなしきれない面は否めない。といっても、半分以上は自分で作った仕事のようなものだが。
この他数ヶ月に一度、センターや他の機関の学習者や在留邦人総計数十人を自宅に招いての交流会や、日本料理を作って食べる会、料理の鉄人決定戦、麻雀大会・・・おっと、仕事と関係なくなってきた。ともかく、人と人との関わりを作ることに時間を費やしている。
 ありがたいのは、現地人の日本語関係者もさることながら、邦人ボランティアや協力隊日本語教師がかなり高いモティべーションを持っており、ウズベキスタン全体の日本語教育の向上のために協力しあってことにあたれる状況にある。また、JICAや日本大使館が日本語教育に対してかなり前向きな姿勢で取り組んでくれているのも幸いである。
現地の日本語教育の現状を簡単に紹介すると、大学等の高等教育機関6機関、初中等教育機関6機関で、日本語教育が行われており、現在の学習者数は約1700名ほどと言われている。今年で日本語教育を始めて12年になる東洋学大学以外は、一昨年あたりから、ようやく日本語既習卒業生を出したばかりである。多くの学習者の学習動機が「興味・関心」であり、また、当地で日本語能力が実利に結びつく例は残念ながら、まだ少ない。
にもかかわらず、概して日本語学習者のモティベーションは高く、表情は生き生きしている。
 今、この国の日本語教育の課題の一つが「現地化」。一定水準以上の授業運営が行える現地の日本語教師が増え、彼らがネットワークを持つことで、日本語教育の本当の発展がありえる。大学や初中等教育機関の教師の待遇が決して良好ではないため、能力のある教師の定着率は低い。国の体質的な問題等も関わってくるので一朝一夕には解決できる問題ではないが、なんとか、糸口を模索しているところである。
 海外に出て日本語教育に関わると、まず単純に「日本から遠く離れたこんなところで日本語を勉強してくれている人がいる」というさわやかな感動を覚える。別に私のために「勉強してくれている」わけではないのだが、遠隔の地で日本や日本語を愛している人に出会うことは日本人としてうれしい。外務省やJICAではまだ危険地域に指定されているフェルガナという地方に大崎さんという日本人が無償で設立した「のり子学級」という日本語学校がある。子供向けに授業料も取らずに日本語を教えている。ここの子供たちの笑顔がすばらしい。本当に宝だと思う。この宝物を大切に育てるためなら、「なんでもしてやろうじゃないの」なんて気になってしまう。
 はっきり言って仕事はしんどい。が、少しも苦には感じない。根が阿呆なのか、自分が必要とされ、自分がすることで誰かの笑顔が見られると思うと、平気でがんばれてしまう。ふと、思うのだが、こんな人間だから、大した能力もないのに、15年もこの業界にいて、専門家の仕事もさせていただけているのかもしれない。
 そうだった。私は「日本語教育専門家」だった。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ウズベキスタン日本人材開発センターは、国際協力事業団(JICA)とウズベキスタン政府との協定に基づき設立され、市場経済化のための人材育成(ビジネスコース)、日本語コース、相互理解促進を三本柱として活動を進めている。同センターの日本語コースでは日本語講座が活動の柱になっており、専門家はこの日本語講座を担当しつつ、日本語弁論大会支援、日本語教育会運営支援、年少者日本語学習者発表会、日本語能力試験、教師研修会等幅広い活動を行っている。また、現地日本語教育機関の現地講師・邦人講師に対し適宜助言・指導を行っている。
ロ.派遣先機関名称 ウズベキスタン日本人材開発センター
Uzbekistan-Japan Center For Human Development
ハ.所在地 6th Floor, International Business Center, 107-B, Amir str., Tashkent,700084, UZBEKISTAN
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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