世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 東洋学大学の学生たち

タシケント国立東洋学大学
小原 俊彦

東洋学大学文学部3年生の写真
東洋学大学文学部3年生

 ウズベキスタンの日本語教育は、1990年にタシケント国立東洋学大学(以下、東洋学大学)における日本語講座の開設によって始まりました。以来東洋学大学はウズベキスタンの日本語教育を代表的する存在として発展を続けてきました。現在では200名近い学生が日本語を学んでいます。東洋学大学は国内で最も歴史の古い日本語教育機関だけあって、日本語を学ぶ学生のレベルは高く、日本の大学や大学院にも数多くの在学生・卒業生が留学し、日本語学習や専門研究に励んでいます。

 私は2000年9月に東洋学大学に赴任しました。これまで担当してきた科目は、日本語、言語学、文法理論、教授法、教育実習です。それに加えて毎年10名前後の論文の指導も行います。日本からの派遣で来ているだけに、学生指導の幅は広く、質は高いものが求められます。時間と気力、体力が必要になります。
 しかし学生たちの熱意と成長は疲れを吹き飛ばし、気持ちを奮い立たせてくれます。毎年学年末になると、論文指導で学生たちと夜まで大学に残って作業を行います。学生は皆自分の研究を少しでも深めようと懸命です。「実験の結果がこうなったが、どう分析すればいいだろうか」と相談され、一緒に頭を悩ますこともあります。指導するこちらも大変ですが、それは同時に至福のときでもあります。入学したとき「あいうえお」の発音から始めた学生たちが、3年目には日本語で専門科目の授業を受け、日本語の文献を読み、日本語で論文を書くようになります。理論や専門知識を、彼らにとっては外国語である日本語を通して学んでいくのです。
 学習に取り組む彼らの姿勢は真剣そのものです。そんな彼らと共に成長し、彼らの充実した笑顔が見られるのが、この仕事の醍醐味といえます。

 語学・専門分野での指導以外に大切なのは、いかに学生たちの学習動機を高めていくかということです。日本国内で学習するのと違い、ここは周りに日本語が溢れている環境ではありません。ですから、学習の成果を発揮する機会を充実させるというのはとても大切なことです。その機会の一つとして、ウズベキスタン国内、そして中央アジアの日本語弁論大会(ウズベキスタン・カザフスタン・キルギスの3カ国が参加)があります。
 数年前までのウズベキスタン日本語弁論大会といえば、その参加者の大半が東洋学大学の学生でした。しかし現在は東洋学大学以外にも5つの大学、2つの一般向け教育機関から多数の学習者が参加するようになっており、競争も激しくなってきています。規模の拡大しつつある弁論大会を成功させることは、学生が他の機関の学生・学習者との交流を深め、お互いに刺激を与え合う機会を生み出すことに繋がります。そのため、それぞれの機関の教師たちはお互いに協力し合いながら、半年近くかけて入念に準備を進めていきます。そこでは派遣教師もボランティア教師も、日本人教師も現地人教師も、皆が「学習者のため」という思いを一つにして仕事をします。
 今年はウズベキスタンで中央アジアの弁論大会も行われましたが、その運営には教師だけでなく、少しでも多くの学生に関わってもらおうということになりました。日本語を使い一つのものを作り上げていくことに参加する充実感を味わってもらい、学習動機を高めようという試みです。これはすべての日本語教育機関の教師と学習者が協力し合ってはじめて成り立つことです。東洋学大学からも10名近い学生が自主的に運営に携わり、弁論大会の成功に貢献してくれました。弁論大会が終わった後、すべての機関の学生・教師が一緒に喜び合うことができました。
 弁論大会は学生の動機付けの一部分です。それ以外にも大学の内外で東洋学大学の学生たちと関わり、そして彼らが他の機関の学習者や教師たちと関わる場は数多くあります。そうした活動の一つ一つの積み重ねが広がっていき、学生たちの意欲と日本語力を高め満足してもらうことになれば、それが私にとって何よりの喜びです。

 ウズベキスタンの日本語教育は、この2、3年で学習者数の増大、日本語教育機関の増加により大きく変化してきています。それに伴い、東洋学大学もウズベキスタンの日本語教育の中心として新たな役割を担いつつ発展していくでしょう。それがいつも学生に幸せをもたらすものであってほしいと願っています。
 もうすぐ私は3年間いたウズベキスタンを去ることになりますが、いつかまたここへ戻ってきて、かつての学生たちと日本語で語り合えたらと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ウズベキスタンで最初に開設された日本語教育機関。日本語による、文学・言語学・経済学などの専門研究の確立、及び専門家の輩出を目標に掲げる。卒業生数・留学経験者数は国内の他の日本語教育機関に比べて群を抜いており、国内日本語教育機関の現地人教師の半数以上が当大学の卒業生である。これまでウズベキスタンにおいて最も影響力があり、牽引的な役割を担ってきた。専門家は日本語・専門科目の授業や論文指導、現地教師へのアドバイスなどを行う。
ロ.派遣先機関名称 タシケント国立東洋学大学
Tashkent State Institute of Oriental Studies
ハ.所在地 Lauti Street 25, Tashkent, 700047, Republic of Uzbekistan
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
文学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1990年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1994年
(ロ)コース種別
選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤13名(うち邦人5名) 非常勤5名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第一外国語で各学年約30名。
第二外国語で各学年約30名。
(2) 学習の主な動機 日本文化への関心。日本の経済力への関心。日本語そのものへの関心。
(3) 卒業後の主な進路 地元企業、日本語教育機関への就職。大学院への進学・留学。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級または1級合格程度。
(5) 日本への留学人数 9名

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