世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語、世につれ、人につれ

ウズベキスタン・日本人材開発センター
福島 青史

ウズベキスタンのポップシンガー

中央アジア日本語弁論大会で歌うアノラの写真
中央アジア日本語弁論大会で歌うアノラ

 ウズベキスタンのタクシー運転手は私のような言葉が分からないような、そしてかわいくない男が隣に座るとラジオのボリュームを上げることがある。その夜もそんな日で私が行く先を告げてシートに座るとラジオのボリュームを上げた。しばらくすると運転手はさらにボリュームを上げ、「ほら、これ、韓国語だろう? お前の国の言葉だろう?」と聞いた。意識をラジオの歌詞に向ける。高低に揺れるメロディーから聞こえてきたのは紛れもない日本語であった。そのことを告げると運転手は「ふーん、これが日本語か。面白い言葉だな」とつぶやいた。著作権がしばしば無視されるこの国で、私はラジオ局が日本の歌手のCDを流しているのかと思っていた。しかし、それがウズベキスタンの歌手が歌う自作の日本語の歌であることが分かったのは、数日後のことだった。

 歌手の名はアノラといい現在、タシケントの東洋学大学の2年生。アニメクラブに通ううちに日本語が好きになり、日本語を始めたという。最初にメロディーをもらい、それから日本語の歌詞を自分で作り、先生に見てもらったという。きっと、ウズベクの学生がいつもするようにノートの切れ端に歌詞を書きつけ、びりっと破り、先生に見せ、あれこれ手直しをしたんだと思う。このような日本語教育の日常的な光景からこの夜が繋がったと思うと、ウズベキスタンの日本語教育も面白い段階になってきたと思う。

社会の変化とウズベキスタン・日本人材開発センターの活動

看護教育改善プロジェクトの通訳実習の様子の写真
看護教育改善プロジェクトの通訳実習の様子

 ウズベキスタンの日本語教育は1990年のソ連崩壊とともに始まり、今年で16年。国の歴史と共に歩んできた日本語教育は現在では20あまりの機関に1700人ほどの学習者がいる。日本語教育の母といえる東洋学大学の菅野怜子先生によると最初の年は教室も確保できず、廊下で授業をしたこともあったという。それが今では日本語で歌う歌手が出現し、俳句を詠むものもいる。博士候補もいれば、へとへとになりながら働くサラリーマンもいる。日本語を取り巻く社会環境は大きく変わり、その対応に日本語教育機関は応えていかなければならない。

 筆者の働くウズベキスタン・日本人材開発センターは2001年に設立され、このような社会に対応、または社会トレンドを作り出してきた。高まる日本への関心に対応した「一般日本語コース」。日本語学習者の就職支援と現地のニーズが融合した「通訳コース」。日本から帰国した子供のことばの支援をする「帰国子女コース」。ウズベク社会で進むウズベク語化に対応した「日本語教材ウズベク語プロジェクト」「ウズベク語教師養成プロジェクト」。実力をつけ始めた中等教育以下の学習者を対象にした「学習発表会」「高校生文化祭」「高校生テレビ会議」。日本語を楽しむために企画された「カラオケクラブ」「村上クラブ」「翻訳クラブ」。日本語教師の専門化に伴って企画された「日本語教育セミナー」「日本語教育研究発表会」。2005年の12月には日本語能力試験も始まった。(詳しい内容はhttp://www.ujc.uz/

 今後、ウズベキスタンが日本とどのような関係を作っていくのか、また、日本語を通じて自己実現を果たしていく学習者をどう応援していけばいいのか、これらの問いから仕事が生まれる。「あなたの夢は何ですか?」という問いかけから想像力が広がる。

 アノラにも夢をたずねてみた。
 「日本で歌手デビューすること」。
 うーん、それって、日本語教育の仕事かな?? うーん、でも、実現すればすごいインパクトがあるな・・なんか仕事のような気がしてきた・・じゃ何をやればいいんだろう・・

 今後のウズベキスタンに期待してください。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ウズベキスタン日本人材開発センターは、国際協力事業団(JICA)とウズベキスタン政府との協定に基づき設立され、市場経済化のための人材育成(ビジネスコース)、日本語コース、相互理解促進、ITを4本柱として活動を進めている。同センターの日本語コースでは日本語講座が活動の柱になっており、専門家はこの日本語講座を担当しつつ、日本語弁論大会支援、日本語教育会運営支援、年少者日本語学習者発表会、日本語能力試験、教師研修会等幅広い活動を行っている。また、現地日本語教育機関の現地講師・邦人講師に対し適宜助言・指導を行っている。
ロ.派遣先機関名称
Uzbekistan-Japan Center For Human Development
ハ.所在地 6th Floor, International Business Center, 107-B, Amir str., Tashkent,700084, UZBEKISTAN
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名  指導助手1名

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