世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育の新しい試み

ウズベキスタン日本人材開発センター
日本語上級専門家 近藤正憲

ウズベキスタンは中央アジアの真ん中にある人口約3000万人の国です。日本人をはじめ多くの国の旅行者の旅情を誘う、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァなどの、有名なシルクロードの遺跡を持っています。ウズベキスタンの人たちは親切で商売熱心な人が多く、芸術的なセンスにも優れ、伝統的な工芸品も多くの種類があります。また、言語能力に優れている人も多く、日本語の習得も驚くほど速いです。

ウズベキスタン日本人材開発センター(以下、UJC)はウズベキスタンと日本との交流の象徴的存在として設立以来両国の文化交流の中心的役割を果たしてきました。

2013年度に新しい事業として取り組んだことがいくつかあります。まず日本語能力試験を年間2回実施にしたことです。それまで日本語能力試験は12月に1回だけでした。しかし、この時期は大学や高校がまだ授業をしているので、日曜日の夕方に試験を終えた受験生が地方に帰ると、疲れて翌日の授業に支障が出て困る人もいたそうです。また、冬季は交通の便も悪くなるので、地域によっては来られない人も出てしまいます。一方で私たち主催者側からしても、受験者が増えた場合、会場の収容能力を上回る恐れもありました。そこで2013年度から年2回の実施とすることにしました。今年は年2回実施の2年目となります。これからも、より多くの方に受験していただけたらと思います。

二つ目は、年少日本語学習者の学習促進のために、学習者奨励事業を行い、教師間ネットワーク形成を促進したことです。学習者奨励事業としては年少者学習成果発表会を開きました。これは2年ほど中断していた事業で、2013年度に復活した事業です。弁論のほかダンスや歌などの発表を行ってもらいました。また、初等中等教育レベルの教師を対象としたネットワーク会議を開催し、情報交換の場にしてもらいました。ウズベキスタンの年少日本語学習者の数は全体からみると決して多くはありません。日本語学習者の大半はまだ大学生ですが、当国のこれからの日本語教育にとって、年少者向けの日本語教育は、かけがえのない価値と可能性を持っています。教師の皆さんへの情報提供、研修支援や、学習者に学習成果発表の場を提供することにより、年少者の日本語教育の現場をさらに活性化させていきたいと思います。


教材表紙画像
UJC開発のウズベク語教材『ひらがな帳』

三つ目はウズベク語の教材開発に力を入れていることです。独立以降、ウズベキスタンでは、ソビエト連邦の共通語であったロシア語は、次第にその地位をウズベキスタンの国語であるウズベク語に取って代わられてきています。このことは日本語教育の場でロシア語の教材が次第に使えなくなりつつあることを意味します。若い世代ではロシア語を解さない学習者も増えつつあり、ウズベク語教材の開発が強く望まれています。UJCでは、2013年には「ひらがな帳」を作成しました。これはチェコ日本友好協会が2007年に作成した「Obrázkoaá HIRAGANA (絵で覚えるひらがな)」をベースに、そのコンセプトの利用を許諾していただき、内容的には思いっきりウズベキスタン風にこだわった作品です。2014年度以降も少しずつウズベク語で利用できる日本語教材を増やしていきたいと思っています。


講座の様子
小噺を披露する受講生のアナスターシアさん

四つ目はJFスタンダード準拠の日本語教科書「まるごと」を使用したコースを本格的に開始したことです。従来のUJCの日本語コースは文法中心でしたが、とても人気が高く、試験を行ってまで受講生の選抜を行ってきました。そのため全くのゼロ初級の学習者がいつまでも日本語を受講できないことが多かったのですが、「まるごと」コースの新設は新しい学習者の発掘に大きく貢献しました。これからも日本語を楽しく学んでほしいと思っています。

さて、日本文化イベントの実施もUJCの事業の一つです。昨年度は2月に落語の公演がありました。落語という日本の伝統芸能の公演がウズベキスタンで行われたのはこれが初めてだろうと思います。この公演に合わせて、UJCでは受講生から希望を募り、「小噺講座」を行いました。日本の小噺を味わい、自分で作ってみるという講座です。参加してくれた受講生には、公演の翌日に行われた落語ワークショップで自作の小噺を披露してもらいました。 ここで小噺講座の受講生の一人、アナスターシアさんが作った小噺をご紹介しましょう。

ある商店での客と店員との話

客 :すみません。ロクフォール・チーズがほしいんですが。

店員:ロクフォール・チーズ?それはいったいなんですか?

客 :まあ、カビの生えたチーズですよ。

店員:ああ、あれですか。
   すみません、ロクフォールのチーズは売切れてしまいました。
   しかし、ロクフォールのパンとソーセージはまだありますよ。

私はなかなかいい小噺だと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Uzbekistan-Japan Center For Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウズベキスタン日本人材開発センター(UJC)は、国際協力機構(JICA)とウズベキスタン政府との協定に基づき2001年に設立されたNPOである。現在ビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業、聴覚障碍者向けITコースを4本柱として活動を行っている。日本語教育では、一般向けの日本語講座の運営とともに、日本語コース祭りや年少者日本語学習成果発表会などの催しを実施している。また、ウズベキスタン日本語教師会による日本語弁論大会、日本語教育セミナーなどの実施支援を行い、UJC独自の教師研修・ネットワーク会議の開催、教材制作、日本語能力試験の実施を通じて当国全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地 6th Floor, International Business Center, 107-B, Amir Temur str., Tashkent,700084, UZBEKISTAN
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年。2010年度に一度中断、2012年度に派遣再開。
What We Do事業内容を知る