国際交流基金日本語教育紀要 1号 要旨

第2言語教育における教師教育研究の概観
―非母語話者現職教師を対象とした研究に焦点を当てて―

本文 【PDF:66KB】
横山 紀子

本稿は、第2言語教育における教師教育研究を概観し、これまでの研究成果を確認することを目的とする。また、その際、国際交流基金の日本語事業に資する目的から、特に非母語話者教師(以後、NNT)を対象とした研究に焦点を当てる。まず、第2言語教育における教師教育全体を概観して、現在教師教育が向かっている方向を確認する。また、この分野で中心的に扱われているテーマおよび用いられる研究方法について整理する。その後に、NNT現職者教育を扱った研究に焦点を絞り、代表的な研究を紹介・考察し、この分野における研究動向をまとめる。さらに、日本語NNT現職教師教育に関するこれまでの研究は、ほとんど『日本語国際センター紀要』に集中して掲載されていることから、同紀要が蓄積してきた研究を第2言語教育全体における教師教育研究の動向の中に位置づけて評価する。

大学院修士課程におけるノンネイティブ現職日本語教師の意識変化
-学生のジャーナルの分析を通して-

本文 【PDF:161KB】
木谷 直之、簗島 史恵

国際交流基金日本語国際センターでは、各国日本語教育界のリーダーを養成すべく、現職日本語教師のための大学院プログラムを3機関連携で行っている。
本稿では、授業研究を行った4名の学生のジャーナルから、プログラムの中での意識変化を分析した。中でも記述が多かったのは、(1)研究に対する姿勢(現場をふまえた研究・テーマの絞り込み)、(2)協働の重要性と難しさ(調整能力の重要性と難しさ・培われる自分の拡がりや自信)、(3)教授観と学習観の変化(授業や活動の目的の必要性・グループ活動の有効性・学習者の視点)に関する内容であった。
分析の結果、学生の意識の変化は予想以上に行われていることがわかった。が、一方、その多様性も痛感された。これは、最近注目され始めた教師教育の姿勢と符合する。本プログラムの意義からも、教師は自らの環境の中で成長していくのだという発達観に立脚して、彼らの内省や気づきを促す方法を今後も考えていきたい。

第2言語学習者はテキストをどう読んでいるか
―既有知識の活性化と一貫性の形成―

本文 【PDF:183KB】
大隅 敦子

スキーマ理論は、第2言語学習者に対する読解教育にも影響を与え、教室活動においても、既有知識の活性化を図る様々なくふうがなされている。一方スキーマ理論についてはスキーマがどのように起動されるのか、またいったん形成されてしまうとフレキシブルではないのではないかという批判もある。20人の読み手に『注文の多い料理店』を簡易にリライトしたものを読んでもらい、メモデータ、補足的な聞き取りデータから結果を分析したところ、読みに困難があった読み手は、手がかりに応じて読みが変わり、全体を首尾一貫した読みが形成されていなかった。
認知心理学者Kintsch(1995)は、読解過程についてテキストから構築された命題およびスキーマなどの既有知識は一貫性を以って統合されると述べている。読解のプロセスにおいては、スキーマなどの既有知識の活性化とともに、一貫性形成の志向も重要だと考えられる。

日本語教材作成のための三つの視点
―教授設計論の適用、学習過程への注目、教室活動の分析指標―

本文 【PDF:75KB】
島田 徳子・柴原 智代

国際交流基金日本語国際センターの教材作成支援の現状を踏まえ、日本語教材作成のための三つの視点を提案する。第一に、従来の日本語教育で行われていた教材制作の手順に加え、教育工学の教授設計論の「学習目標の明確化」、「課題分析」、「指導方略」という具体的な手法を活用することを提案した。次に、教材作成にあたって学習過程をどう想定するかということが重要だという認識に立って、第二言語習得研究で提起された学習過程を概観し、教材作成に生かすために考察を加えた。最後に、既存の日本語教材の分析を通してLittlejohn(1998)の指標を簡略化したものを提案した。この指標は、教室活動をデザインするための指標として、教室活動の関係性や配列が把握しやすいと考える。

非母語話者教師の日本語教育研究における研究課題の設定過程について
-北京日本学研究センター在職日本語教師修士コースの場合-

本文 【PDF:131KB】
篠崎 摂子・浜田 麻里

非母語話者日本語教師に対する日本語教育研究支援のあり方を考える端緒として、本稿では、標記コースにおける修士論文の研究課題の設定過程を、学生がインタビューで語った研究認知の状況をもとに分析・考察した。その結果、本コースの「研究経験が少なく、日本語教育学にも馴染みのない非母語話者教師が、自身の教授体験に基づく問題意識をコースでの学習や体験と結びつけて研究テーマを決定し、文献調査や研究指導を通して研究課題を具体化させる」という目標およびそれを実現するためのコースデザインが、現状に基本的に合致していることが確認された。その一方で、研究課題の具体化の段階で困難に直面している学生が存在することも明らかになった。その主な原因としては、入学時に持っていた修論のイメージが実際とはずれがあったこと、教授経験に基づく問題意識を明示的に捉えられなかったことが考えられるので、それに対処するための授業内容の改善案を提出した。

フィリピンにおける日本語学習者の言語学習Beliefs
―フィリピン大学日本語受講生調査から―

本文 【PDF:71KB】
片桐 準二

本稿はフィリピン大学におけるBALLI 調査の結果をもとにその言語学習Beliefsを明らかにし、フィリピンにおける日本語学習者の特徴を示すものである。調査項目は 1)教師の役割 2)教授法・教室活動 3)言語学習の性質 4)文字学習 5)コミュニケーション志向 6)言語習得と日本語 7)言語学習と文化の関係の7領域からなる。分析と考察から、先行研究で問題となった他文化との比較で「多量の反復練習」がどの文化でも支持されていること、フィリピンの特徴として「学習者参加型の教室活動を望む」「文法重視」「誤りに対する寛容性がやや低い」「<1日1時間の学習で外国語が1-2年で上手になる>に賛成するものが多い」などの結果が出た。さらに「文字学習は大切」「言語と文化は関係がある」といった考え方や「教室授業形態」への期待があること、学習期間の長い学習者は、より実践的・自律的・統合的な志向が強くなることも示した。

インドネシア・スマトラ地区における日本語教育ネットワーク支援活動中間報告
-「配置と関わり合い」の活性化を目指して-
本文 【PDF:43KB】
松本 剛次

本報告は国際交流基金派遣日本語教育専門家である筆者のインドネシア・スマトラ地区における日本語教育ネットワーク支援活動の基本的な考え方とその実践例について報告したものである。
筆者はネウストプニー(1997: 181)による「ネットワーク」の考え方に倣い日本語教育ネットワーク支援活動を「日本語教育という活動に参加する者の配置と係わり合いをより活性化するための支援」と捉えて実践している。現在のところその支援の舞台は既に存在している各種の「教師会」であるが、筆者が観察した結果、これらの教師会には「形骸化」、「固定化」、「階層化」が見られ、ネットワークがネットワークであるためには不可欠である参加者の「配置と関わり合い」が停滞している、という問題が確認できた。そこで筆者は春原(1992)による「ネットワーキング・ストラテジー」という考え方を参考に、いくつかの「戦略」を立て、その改善に取り組んでいる。

韓国の中等教育段階における日本語母語話者参加の実際とその意義
本文 【PDF:48KB】
澤邉 裕子・金 姫謙

本稿では、韓国の中等教育段階における日本語母語話者(以下、「ネイティブ」)の参加の実態を踏まえて、その意義と今後の可能性について述べた。現在、ネイティブは教師やゲスト、インターネットを通した交流の相手として授業に参加している。2003年には国際交流基金ソウル日本文化センターの青年日本語教師が1年間高校で韓国人教師とティーム・ティーチングを実践した。その結果、ネイティブの参加には以下のような可能性があることが示唆された。
(1)生徒の日本語での意思疎通能力を育成する。
(2)ネイティブと生徒、韓国人教師との間でお互いの文化を理解しようとする態度を育てる。
韓国の第7次教育課程の理念には「相互理解と国際交流に貢献する人材を養成すること」がある。ネイティブが参加することは、この教育理念の実現の一助になるのではないかと思われる。より多くの韓国人教師にネイティブ参加の目的と意味が認識され、相互理解を促す場が作り出されていくことが期待される。

技能・テーマ別講義と模擬授業を取り入れた教授法授業
―多国籍短期研修「文字・語彙指導法」を例として―

本文 【PDF:51KB】
木田真理・古川嘉子

多国籍短期研修では、教授法授業に対する研修参加者のニーズ・レディネスや目標設定の多様性を前提として教授法のカリキュラムデザインをする必要がある。ここでは、2003年度冬短期と2004年度夏短期の比較的日本語運用力が高いBコースの教授法授業における、技能・テーマ別講義と模擬授業を取り入れた授業実践を報告する。前半に行われた技能・テーマ別講義では、教室活動や教材とそれらの背後にある理論のつながりを意識させることを目指した。前半講義の例として、「文字・語彙指導法」の授業の内容・方法と、研修参加者による事前のニーズ調査と事後の授業評価結果を報告する。また、後半の模擬授業の事例や模擬授業後の調査結果を紹介し、模擬授業が研修参加者自身による教授実践の振り返りにどう作用しているか、また前半の講義と後半の模擬授業が一つの流れとして機能しているか否かについて考察する。

誤用分析を取り入れた「文法打ち合わせ」の試み
―日本人教師とマレーシア人教師の特性を生かし学び合う教師研修―

本文 【PDF:93KB】
森 道代・戸田 淑子・田村 由美恵

マレーシアのマラヤ大学予備教育部日本留学特別コース日本語科1年次担当者は授業に生かすことを目的に学習者が産出する誤用を2002年度中級学習時に収集し、2003年度中級学習時の授業前の「文法打ち合わせ」において誤用分析の検討を試みた。その結果、期待された目的を果たしただけでなく、誤用分析を通して、外国人教師と日本人教師がお互いの利点を生かして学び合い、協力体制を構築するという期待以上の成果が得られた。これは熟練者が新人を、日本人教師が外国人教師を指導するという従来の教師研修ではなく、日本語母語話者教師として、非母語話者教師、学習者と同じ母語を有する教師として、それぞれの役割を果たしながら成長し合う、日本人教師と外国人教師が共に働く職場ならではの研修となった。
この実践を海外における望ましい教師研修のあり方の一つとして紹介する。

司書日本語教育における図書館関連専門プログラムの展開
本文 【PDF:108KB】
登里 民子・亀井 元子

本稿では、平成2年に日本語国際センターで始まった司書日本語研修の13年間の歩みを振り返ると同時に、平成15年度に新規開講した専門プログラムについて紹介する。
15年度には図書館関連の専門科目として、「図書館語彙」「図書館会話」「図書館読解」「日本事情概論」の4科目を開設し、それぞれの基礎的なテキストを開発した。図書館関連科目の拡充を図った結果、専門プログラムの総時間数は30時間(平成14年度)から87時間(15年度)へ約3倍に増加し、研修参加者の時間的負担は増したが、研修終了時のアンケート調査では、専門日本語科目に対する評価が高まったことが確認された。これは、(1)科目の細分化と体系化(2)テキスト作成による内容の充実(3)前期と後期のワークロード是正、の結果であると考えられる。
今後の課題としては、(1)専門科目の評価指標の確立 (2)専門聴解科目の開発 (3)図書館事情のテキスト作成、の3点を挙げたい。

初級レベルの専門日本語研修のためのオーラルテスト評価基準開発
-外交官・公務員日本語研修での試み-

本文 【PDF:181KB】
熊野 七絵・石井 容子・亀井 元子・田中 哲哉・岩澤 和宏・栗原 幸則

国際交流基金関西国際センターで実施されている外交官・公務員日本語研修では、職務に寄与する口頭運用能力の習得に重点が置かれており、その評価のため外交官・公務員研修独自のオーラルテスト開発が進められてきた。本稿では、評価の妥当性を検証すべく行った平成14年度の最終オーラルテストの分析結果から、初級レベルの外交官・公務員日本語研修で目指すべき日本語運用能力や評価のあり方について考察する。
分析の結果、初級レベルであっても、基本的な文型に専門性の高い語彙を入れ込み、結束性ある段落を構成することで、ある程度まとまった専門的な内容を伝えられること、会話の開始や展開のキーとなる表現の使用が職務上の場面に対応するために重要な要素であることがわかった。あわせてこの分析結果をもとに行った評価基準改訂について報告する。

非母語話者日本語教師向け文法解説の試み
―『日本語教育通信』「文法をやさしく」を執筆して―

本文 【PDF:72KB】
荒川 みどり・木山 登茂子

中級者向け初級文法解説記事「文法をやさしく」は、非母語話者日本語教師向け情報誌『日本語教育通信』に3年間連載された。この記事は、日本語で書かれた教師向け文法参考書を使いこなすことが難しい、運用力が中級段階にある非母語話者日本語教師を読者に想定して書かれた。筆者らはこの記事の執筆にあたり、使用語彙や文型、文体を調整し、挿絵などの視覚的な補助手段を用いて、「やさしい文法解説」の具体化を図った。
2003年実施の『日本語教育通信』に関するアンケートでは、想定外の読者、例えば、母語話者教師からも反響があり、日本語でやさしく書かれた文法解説の需要や効果の一端がわかった。但し、解説に多くの抽象的概念や文法用語を要する項目は取り上げにくく、各現場の多様性(母語・文化等)まで踏まえた説明が困難だという限界もある。これらが今後こうした企画を展開する際の留意点と考えられる。

まとまりのある話をするための教材の制作
―『初級からの日本語スピーチ―国、文化、社会について
まとまった話をするために―』制作の実践から―

本文 【PDF:117KB】
和泉元 千春・魚住 悦子・熊野 七絵・羽太 園・三浦 多佳史

一般に初級段階では文法確認のための文レベルの練習に終始する傾向がある。そこで関西国際センターでは、「まとまった話をする」ことを初級段階から体験し意識させることを目指した口頭表現指導教材『初級からの日本語スピーチ―国・文化・社会についてまとまった話をするために―』を制作、出版した。
本書は、実際の日本語能力とタスクの難易度のギャップが埋められるよう、スピーチの作成過程に沿った学習活動(談話展開の把握→Q&A→談話展開の確認→作文→スピーチ)を教材化した。それにより、同じ内容について繰り返し発信し、必要な語彙や表現を定着させることが可能である。また、成人学習者の興味や社交上のニーズに応えられる話題を取り上げた。
関西国際センターで本書を使用した結果、(1)言語能力の向上、(2)話題に関する知識の獲得、(3)満足感、達成感による日本語使用に対する自信、(4)クラスメイトおよび教師との信頼関係の構築、という学習効果が確認された。

Ready Steady NihonGO! プロジェクト報告
―英国初等教育での日本語教育:調査から支援へ―

本文 【PDF:54KB】
中込 達哉・コーネリア アシュラフィ

2002年12月、英国教育技能省は外国語教育の早期化をねらい、「2010年までに(イングランドの)すべての小学生に外国語学習の機会を与える」と宣言した。以降、初等外国語教育導入の動きが活発化している。
初等外国語教育推奨の動きに対応するため、2003年1月ロンドン日本文化センターは「Ready Steady NihonGO!(以下、RSN)プロジェクト」を開始した。本稿では、第一期RSN(調査)プロジェクトから明らかになった「初等教育での日本学習の現状」「ノッティンガム大学PGCE修了生による初等日本語教育」「初等日本語教育実施形態モデル」について報告し、初等日本語教育普及支援のための方策を考察する。2004年4月からは、第二期RSN(コース策定)プロジェクトとして、小学校教員と日本人ボランティアがティームティーチングで教える「RSNコース」策定を開始した。同コース策定進捗状況についても報告する。

海外日本語教師上級研修が目指すもの ―学びの場を構築・共有する―
本文 【PDF:23KB】
阿部 洋子・八田 直美

この20年来、海外における日本語教育は、その定着に伴い、学習者数だけでなく教育の質も充実してきている。各国で日本語教育の自立化が進み、日本語教育を支えるリーダーの養成や支援が求められるようになった(阿部・横山2003)。国際交流基金日本語国際センター(以下、「センター」)が実施している教師研修も16年目を迎え、研修修了者の再応募も増加してきており、研修参加経験や日本語教育に関する問題意識等を考慮して研修の特色化や段階化をはかる必要が生じている。また、以前からセンター制作事業課のプログラム「日本語教育フェローシップ」(注1 以下、「フェローシップ」)への橋渡し的な研修の必要性も言われてきた。
こうした状況を受けて、平成16年度に指導的日本語教師の養成を目的にした海外日本語教師上級研修(以下、「上級研修」)が新設された。
本稿は、この上級研修について報告するものである。


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