国際交流基金日本語教育紀要 3号 要旨

研究論文

第二言語の作文における初級から中級にかけての発達―質の観点から―
本文【PDF:40KB】
石毛順子

本研究は韓国語を母語とする初級と中級の日本語学習者の作文の質に関して、発達する面・しない面を明らかにすることを目的とした。初級から中級にかけてレベルが上がるにしたがい、構成・文法・表記に関する複数の項目において評点が上昇したが、内容に関する項目で評点が上昇したのは1項目のみであった。

評点が上昇する項目が、構成・文法・表記に関する項目に比べ、内容に関する項目で少なかった理由は、ヴィゴツキーの媒介理論に基づき、主体を学習者、対象を作文の内容とすると、内容を発達させる媒体として、構成・文法・表記に関する教授と学習が先に求められているからであると考えられる。書き言葉では話し言葉と異なり、構成・文法・表記を意識化することが必要である。

学習者が表したい内容を的確に表せるようになるには、その前提として構成・文法・表記の知識を教育し、身に付けさせることが必要となると思われる。

研究ノート

スリランカの大学生の言語学習ビリーフから日本語教育の改善を考える
本文【PDF:61KB】
和田衣世

本稿は、これまで行われていなかったスリランカの日本語学習者を対象にした言語学習ビリーフ調査の報告である。調査はBALLIを用いて行われ、質問項目は外国語学習の適性言語学習の本質言語学習の困難さ学習とコミュニケーションストラテジー言語学習の動機教師の役割教授法・教室活動媒介語言語学習と文化の関係についての9領域にわたる。調査の結果、スリランカの大学における日本語学習者は、コミュニケーション重視の教授法や教室活動、シラバスを望み、教師依存の傾向が強く、教師に強い信頼と期待を寄せているということが明らかになった。

また、この調査の結果をもとに、スリランカの日本語教育の問題点と照らし合わせ、どのような改善が必要かを考察した。現実と学習者のビリーフにはギャップがあり、それを埋めていくことが今後のスリランカにおける日本語教育の改善の鍵になると思われる。

実践報告


インドネシアの中等教育における日本語教育ネットワーク形成
―現地化・自立化を目指す支援策として―

本文【PDF:115KB】
登里民子・小原亜紀子・平岩桂子・齊藤真美・栗原明美

国際交流基金は日本語教育の「現地化」「自立化」の方針に従って、各国の日本語教育関連団体(含日本語教師会)への支援を積極的に行っている。インドネシアの中等教育においても、ジャカルタ日本文化センターとインドネシアの6地域に派遣されているジュニア専門家によって、各地に組織されている高校日本語教師会へのさまざまな支援が行われている。

本稿では、支援の柱となる「ネットワーキング」の考え方とその必要性を述べた上で、インドネシア各地で形成されつつあるインドネシア人高校日本語教師による「日本語教育ネットワーク」の現状とその課題を、東ジャワ・中部ジャワ・西ジャワ・ジャボデタベックの4地域の例を挙げて分析・考察する。

インドネシアの中等教育向け日本語教材作成プロジェクト
本文【PDF:86KB】
古川嘉子・藤長かおる

本稿では、2003年から2007年までの予定で進行中のインドネシアの高校向け教材『にほんご1』『にほんご2』作成プロジェクトの計画・作成・評価の各段階について報告する。

本プロジェクトでは、インドネシアの新カリキュラムに準拠し、教師にとって利用しやすい教材の開発をめざし、現職高校日本語教師、教育省、国際交流基金など多数の関係者が教材作成に取り組んだ。教材評価においては形成的評価を重視し、教師の利用状況を考慮した評価手法を採用した。最後に次の4点を大規模な利用が想定される教材の作成プロジェクト実施における留意点として提言した。

1)教育行政当局との共同作業として進める。2)基本計画・目標をプロジェクト関係者全員で共有する。3)進捗の確認、問題の解決を速やかに図れる工夫を行い、要所要所で全体での進捗確認を行う。4)形成的評価、教材の利用状況を考慮した評価を盛り込む。

ウズベキスタンの「帰国子女」コース実践報告
―「移動する子ども」のために「海外の日本語教育」は何ができるか―

本文【PDF:250KB】
川村秋子・福島青史

本稿では、ウズベキスタン・日本人材開発センターにおいて、日本に滞在経験のある2歳から14歳までの児童生徒を対象に実施された「帰国子女コース」の実践を報告する。(期間:2005年2月~2006年6月)

報告者はウズベク語・ロシア語というダイグロシア社会の中で「移動する家族」の子どもとして生まれた「帰国子女」を「移動する子ども」と捉え、母語、第二言語、外国語を越えた「ことば」の総合的な育成を活動目標とした。

報告者は子どもたちが保持する日本語を外国語として教えるのではなく、それを媒体に認知発達、ネットワーク形成、肯定的な自己のあり方の強化などの機能を狙った活動を行った。活動はイマージョン方式を参考に、絵本、工作、遊びをとりいれ、海外における年少者日本語教育の文脈と活動例を提案する。

海外向けビデオ教材『日本語教育用TVコマーシャル集』
―教材制作とその評価―

本文【PDF:59KB】
山田しげみ・久保田美子

本論文では、海外向けビデオ教材『日本語教育用TVコマーシャル集』(2002年版・2005年版)制作のねらいとその特徴について報告するとともに、本教材の海外における使用実態と使用者に対するアンケート調査の結果を基に、本教材の評価について述べるものである。

本教材は、テレビコマーシャルという生教材を通して、言語的知識や日本事情的知識だけでなく、その文化・社会的背景をも理解することを目的として作成された。使用実態とアンケート調査結果から、本教材の使用地域に偏りがあること、高等教育、一般成人対象の機関、初級レベルでの使用が多いこと、文化・社会的特徴を利用した使用や、楽しむための利用が多いこと、作品に「わかりやすさ・面白さ」を求める傾向が強いことがわかった。

本教材はアンケート調査の結果からおおむね高い評価を得ているが、本稿では、「使いやすさ」「受容」「有効性」の各観点から再考し、それぞれ評価すべき点と問題点があることを指摘した。

外国人日本語教師教育へのポートフォリオ評価導入の試み
―17年度長期研修Bコース教授法クラスにおける実施報告―

本文【PDF:572KB】
小玉安恵・木山登茂子・有馬淳一

本論では、17年度日本語国際センターで行われた長期研修Bコース教授法クラスで、外国人日本語教師(以下、研修生)の教授力の伸びを測る手段として、ポートフォリオ評価を導入した経緯と理論的背景を紹介し、その実施結果を分析、考察する。

教授法クラスの評価は、従来、教授法の知識を問う筆記テストと研修生が各自の模擬授業を振り返るレポートにより評価が行われてきたが、その妥当性と信頼性には問題があった。

今回の研修では、研修生が一部目標を決め、その他の目標は、指導講師間でスキルやレベル毎の教授能力の評価基準を話し合い評価シートを作成、さらにその目標の達成は、研修生に各自が模擬授業のために作成した教案・教材を振り返らせ、その変遷を具体的に示しながら説明させるようにした。この方式により、研修生各自の達成の仕方を尊重しつつ、教授能力評価の標準化が図られたが、彼らの個性的な教授能力をいかに評価するかが課題として残った。

各国スタンダード作成の意義と日本の課題
―ヨーロッパ、米国、オーストラリア及び中国、韓国の比較・分析―

本文【PDF:51KB】
柴原智代

1990年代後半から、各国で日本語教育の枠組みとなる「日本語学習のスタンダード」が整備された。「スタンダード」とは、「標準・規範」であり、学習者が習得すべき言語運用能力はどんなものか、そのために教室指導や学習環境はどうあるべきか、到達ゴールの言語運用能力をどう測るか、について記述された包括的・体系的な指針である。豪州、米国、中国、韓国、欧州などではすでに作成されている。

本稿では、まずスタンダードが作成された社会背景を振り返りその役割を分析した。次に、各国のスタンダードを「理念・目的と対象者」「言語学習の目標及びコミュニケーション・モード」「言語能力基準の記述を含む評価方法」「異文化理解」の四つの観点から横断的に分析した。

最後に、スタンダードをめぐる日本の状況を整理し、他国のスタンダード作成の流れから学ぶ点について考察した。

カザフスタンにおける日本語初級カリキュラム
―日本人材開発センターの新しい試み―

本文【PDF:41KB】
荒川友幸・和栗夏海

カザフスタンは、日本の文化的プレゼンスが希薄で、日本語の実際的需要が希少な状況ある。日本センターの初級クラスでは、日本事情・文化紹介を授業中に行うことも重視しているため、日本語の語学学習時間数が限られてくる。そこで、『みんなの日本語』の各文法項目を重要度・難易度・使用可能性を勘案して、授業中に扱う比重を変えた。例えば、14課はテ形が最重要項目であるので、練習Aの「2.左へまがってください」は授業中に定着、使用できるところまで練習するが、「4.てつだいましょうか」は紹介するだけある。

海外の現場では、日本国内の学習者向けに開発された教科書が使用されてきた。しかし、学習時間数や期間、そして学習者を取り巻く日本語環境が大きく異なることから、海外の環境に適合した教科書の開発が待たれている。本稿は、その第一歩として位置づけることもできる。

研究者・大学院生日本語研修における「自己評価支援システム」の検証
―学習者と教師の認識のズレをめぐって―

本文【PDF:79KB】
今井寿枝・羽太園・金秀芝・西野藍

研究者・大学院生日本語研修8ケ月コースでは、学習者が日本語学習と研究活動に関して自ら目標を設定し、振り返り、目標を調整する活動を研修に取り込み、これを支援する「自己評価支援システム」を実施している。

小稿では、学習者への聞き取り調査と教師の内省を通じてシステムを検証した。その結果、多くの学習者がシステムを肯定的に評価しているものの、そのプロセスで戸惑いや疑問を感じたり、システムの方法から教師の意図しないメッセージを受け取るケースも見受けられた。

また、ある事例では、学習者が周囲の環境との相互作用や、教師の役割の変化によって、システムの意味を見出していく過程が明らかになった。主体的な学習環境を構築するために、教師はサポートの方法や時期に注意を払う必要がある。

また教師は、自らも学習者にとっての学習リソースの一部であり、学習者との相互作用によって変容する動的な存在であることを自覚しなければならない。

現地研修と訪日研修の連携
―インドネシア中等教育日本語教師研修のコースデザイン―

本文【PDF:141KB】
藤長かおる・登里民子・有馬淳一

本稿は、インドネシアの高校日本語教師を対象にした訪日研修の実践報告である。この研修は訪日経験がなく日本語の運用力に自信がない高校教師に日本語運用力の向上と日本事情理解の機会を与えるもので、インドネシアの教育省に協力して、2006年からの5年計画でのべ100人の教師を招聘することになっている。

この研修に先立ち、国際交流基金ジャカルタ日本文化センターでは2週間の渡日前研修が実施されたが、この研修の参加者は教育省が実施する教師研修の参加者から招聘されるという連続性のあるプログラムになっている。

本稿では、インドネシア国内で行われる研修と訪日研修との連携について、研修の計画、実施の段階を振り返る。研修の結果は、研修直後の研修生の満足度と学習目標に対する理解度や達成度から評価を行ったが、今後、研修で学んだことが教師としての態度の変容や授業の改善という成果につながるかどうかを評価することも必要になる。

司書と日本語教育専門員との協働による海外の司書のための専門日本語教育
―「図書館事情」における実践報告―

本文【PDF:52KB】
亀井元子・浜口美由紀

国際交流基金関西国際センター司書日本語研修では、司書として職務上必要とされる日本語能力の向上だけでなく、日本の図書館事情の理解も研修目標の一つとしている。

平成15年度以降、専門日本語科目として「図書館語彙」「図書館会話」「図書館聴解」などが開講されたことにより、それまで図書館実習や見学に必要な専門日本語教育を行ってきた「図書館事情」が日本の図書館事情を理解する上で必要となる知識の習得へ重点を移すことになった。その結果、専門知識を有する司書との協働による授業の実施や教材作成の割合が増加し、専門知識の習得に成果が認められるようになった。

本稿では、平成17年度に実施した司書と日本語教育専門員の協働による「図書館事情」の実践報告を行うとともに、図書館実習受入機関や研修参加者に対して行ったアンケート調査をもとに、「図書館事情」の今後の方策について述べる。

報告

「看護・介護のための日本語教育支援データベース」開発調査をめぐって
本文【PDF:33KB】
上田和子

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