国際交流基金日本語教育紀要 4号 要旨

研究論文

日本語学習者の作文の媒体としての下書き
本文 【PDF:408KB】
石毛順子

日本語学習者が下書きを用いているのか、そしてどのような下書きが特徴的に見られるのかという点について検討した。対象者は、韓国語を母語とする初級中期群の学習者27名、中級移行期の学習者26名、中級中期の学習者21名であった。多くの学習者が下書きを書いてはいたが、レベルが上がっても下書きを使用しない者もいた。そして特徴的な下書きとして3つのタイプが抽出された。1つ目は作文全体の重要な事柄が簡単に書かれているタイプであった。初級から中級にあがるにつれ使用者が増えていたものの、使用する者は非常に少なかった。2つ目は文字や語彙の確認のみが行われているタイプであった。人数は少ないが、レベルによって使用する学習者の割合は変化していなかった。3つ目は原稿用紙に書かれた作文とほとんど同じ作文が書かれているタイプであった。初級から中級にあがるにつれ使用者が減っていたが、一番多くの学習者が利用していた。

小説の会話文と地の文に見られる「ようだ」「らしい」のテンス交替
―発話主体と発話時の視点から―
本文 【PDF:51KB】
小野澤佳恵

現代日本語の認識的モダリティ「ようだ」「らしい」の過去形のあり様には、依然として不明な問題も残っている。
ここでは、終止の位置にある「ようだった」「らしかった」が実際に観察できる会話と小説のテクストを考察のための資料として取り上げる。そして、意味の特徴を見ながら、各テクストに「ようだった」「らしかった」が現れる際の、発話主体と発話時の基準軸とに注目しつつ考察することによって、テンス交替のあり様がテクストごとに異なることを明らかにし、次のように結論付ける。
「ようだ」「らしい」のテンス交替のあり様は、特に各テクストにおける発話時の基準軸と関係している。発話時の基準軸に、未来か現在か過去かという絶対的な時間的位置付けが生じるテクストの場合、「ようだ」「らしい」はテンス交替ができない。一方、発話時の基準軸に、絶対的な時間的位置付けが生じないテクストの場合、「ようだ」「らしい」はテンス交替ができる。

研究ノート

インドネシアにおける高校日本語教師研修に関する一考察
-西ジャワ州・東ジャワ州のビリーフ調査結果を通して-
本文 【PDF:63KB】
小原亜紀子・栗原明美

インドネシアで国際交流基金ジャカルタ日本文化センターが実施しているインドネシア人高校日本語教師研修をより効果的なものにすることを目的として、西ジャワ州と東ジャワ州のインドネシア人教師を対象としたビリーフ調査を実施した。その結果、彼らは、現在のコミュニケーションを重視した授業内容及び授業方法については肯定的に捉えているものの、具体的な学習スタイルについては文法を重視していることがわかった。すなわち、「コミュニケーション重視の授業」を漠然としたイメージで捉えており、コミュニケーションに重点をおいた学習方法は具体的には把握できていないということである。このことから、今後の研修の改善点として、1)教授法の理論を補強し、それを実際の教授活動と結びつける方法を考える時間を作る、2)コミュニケーション重視の授業を実際に体験し、実際の高校での授業との関連を考える時間を設ける、といったことが

「初級からの専門日本語教育」への視点
-関西国際センターの実践研究から-
本文【PDF:46KB】
羽太園・上田和子

開設からの10年間、関西国際センターでは日本語教育研修に関する実践報告が30件以上、発表されている。本稿は、これら実践報告を事例として、同センターの「初級からの専門日本語」への取り組みと、そこから得られた知見について検証する。それらは以下に要約される。
・ 学習者の業務に役立つ日本語力が俯瞰できる資料を提供する
・ 学習者自らが学習内容等を取捨選択する機会を作り、教師はそれを支援する
・ 学習負担を軽減するために、科目間の連携を図る
・ 学習者の専門家としての強みを生かすような言語活動の場を作る
・ 実習など専門分野と連携した活動を設定し、それを支援する
実践報告では、研修に携わった教師らの長期的、継続的な記述により、多様な人々が関わりながら形作っている日本語教育実践の場が描き出されていることがわかる。このような記述は、教師らの内省を促す一方、教育実践の局面で必要となる教師の判断力養成への一助となっている。

「アニメ・マンガ」調査研究
-地域事情と日本語教材-
本文【PDF:107KB】
熊野七絵・廣利正代

「アニメ・マンガ」は海外での日本語学習の大きな動機づけの一つとして注目されている。しかし、実際に海外ではどの程度「アニメ・マンガ」が普及しているのだろうか。また、この「アニメ・マンガ」人気を日本語教育へ応用するにはどうすればいいのだろうか。関西国際センターでは学習者支援として「アニメ・マンガ」の日本語教育への利用の可能性を検討するために、まず基礎研究として、情報収集やさまざまな地域の研修生への聞き取り調査を始めた。本稿は海外における「アニメ・マンガ」の普及や現状などの地域事情、「アニメ・マンガ」を利用した既存の日本語教材やWebサイトについての調査研究の中間報告である。

新しい日本語能力試験のための語彙表作成にむけて
本文 【PDF:179KB】
押尾和美・秋元美晴・武田明子・阿部洋子
高梨美穂・柳澤好昭・岩元隆一・石毛順子

日本語能力試験の実施機関である国際交流基金と日本国際教育支援協会は「日本語能力試験の改善に関する検討会」を2005年に発足させたが、2009年からの新試験開始を目指して各分科会は日々調査研究を重ねている。本稿は、分科会の一つである出題基準分科会漢字表・語彙表部会が行っている語彙表作成作業の2007年9月現在の中間報告である。 
部会の活動は、この2年間で4つの段階を経た。作成方針と選別方針を決定し、データベースに関する調査および整備をする第一段階、語彙の選別をする第二段階、語彙の再選別及び記述方法の検討をする第三段階、語彙の再選別と初出級の検討をする第四段階である。実際にどのようなデータベースを使い、どのような検討を重ね、どのような選別作業をしたのか。本稿ではそれぞれの段階ごとに具体的な例を挙げながら報告をする。また、それとともに今後考えていかなければならない課題についても言及する。

日本語国際センターの研修評価システムに関する提案
本文【PDF:102KB】
柴原智代

本稿では、研修評価の理論と現状について整理し、研修機関の評価システムを検討した上で、センターの評価システムに関する提案を行った。センターの研修事業は公益事業であり、研修成果が個人ではなく、「組織の業務能力の向上」につながっていることを示す必要がある。そのために、「組織の業務能力の向上」を研修事業のミッションとして明確化し、現在の研修プログラムを戦略的に再編成し、研修参加者を送り出す機関の組織的関与を引き出すツールを開発することを提案した。

実践報告

英国中等教育向け日本語リソース開発プロジェクト
本文【PDF:44KB】
来嶋洋美・村田春文

英国はヨーロッパの中でも、中等教育の学習者の割合がひじょうに高い国である。各校ではGCSEと呼ばれる中等教育修了資格試験を目標に日本語教育を行っている。しかし、GCSE日本語コースの教科書はなく、カリキュラムや教材は学校や教師によって異なり、多様である。そのため、国際交流基金ロンドン日本文化センターにとっては当地の日本語教育の典型が把握しにくく、支援内容の策定に苦慮してきた。このような現状を改善するために、ロンドン日本文化センターでは日本語リソース「力-CHIKARA-」開発プロジェクトを立ち上げた。GCSEの試験シラバスをカリキュラム・教材作成用のシラバスに再構成し、それをもとに300ファイル以上からなる教材群を開発、ウェブサイト上で公開、無料配信している。また、このリソースと関連させた内容での教師研修を企画しているところである。

オーストラリアの初中等教育における外国語教育の現在と
国際交流基金シドニー日本文化センターの日本語教育支援
Intercultural Language Teaching and Learningの考え方を中心に-
本文【PDF:168KB】
キャシージョナック・根岸ウッド 日実子・松本剛次

現在、オーストラリアでは「質の高い言語教育」の必要性が唱えられ、それを実現するために「Intercultural Language Teaching and Learning(ILTL)」という考え方が提唱されている。ILTLとは一言で言えば「文化学習、言語学習、言語学的学習を一つに統合して教えていこう」という考え方とその方法論である。この背景には、オーストラリアが多文化社会であるという事情と、外国語学習の目的を外国語の習得のみにおかず、その学習を通して、学習者の知的発達、コミュニケーション能力、異文化理解能力の向上につなげていこう、という学校教育における外国語学習の位置づけがある。国際交流基金シドニー日本文化センターでも、近年このILTLの考え方を教師研修、教材開発に積極的に取り入れている。また、州立美術館と共同でこのILTLの考え方を取り入れたマルチメディア教材を作成するなど、新しい試みも行っている。

現職日本語教師に対する教授法授業のカリキュラム・デザイン
本文【PDF:181KB】
阿部洋子・坪山由美子

日本語教授法についての基礎知識と経験をすでに有する日本語を母語としない日本語教師を対象とした、修士課程での日本語教授法授業を紹介する。計45時間の授業では、学生が教授実践を理論と結び付けて振り返ることができるようになることを目標にしている。学生は、初級日本語コースの実施に関わる一連の流れに沿って指定された課題を遂行し、その振り返りをする活動を繰り返す。このカリキュラム・デザインは、その過程で学生が実践を客観的に注意深く観察したり、観察した事実を読み解くための分析の観点や方法論を身につけられるように設計した。授業を通して、学生は自身が担当していた日本語コースの課題や問題点を多角的な視点で捉え、具体的に記述し、更に、それらを改善のための具体的な方法に結びつけることができるようになった。

国際交流基金バンコク日本文化センターによるタイ人日本語教師のための「水曜研修」
-ノンネイティブ教師研修における学び合いと研修成果の教育現場での実践-
本文【PDF:53KB】
八田直美

国際交流基金バンコク日本文化センターでは、タイ人日本語教師を対象に、教師の日本語力と教授能力の向上を目指して複数の研修を実施している。その中の一つである水曜研修では、教授対象や日本語力、教師経験などが一様でない教師が参加して、それぞれに教師としての成長を目指す内容を取り上げてきた。本稿では、本研修の2年半の実践を報告し、研修参加者が提出したレポートを通して確認された多様な参加者間で起こった学び合いと、研修の成果が現場での実践という形で活用された事例を整理・検討した。

日本語能力試験における発達性ディスレクシア(読字障害)への特別措置
本文【PDF:44KB】
上野一彦・大隅敦子

日本語能力試験は1994年度より障害を持つ受験者に対する特別措置を開始し、2006年度は95名がこの措置を利用している。中でもLD(学習障害)等と分類される学習障害や注意欠陥・多動障害、高機能自閉症に関する措置については、原則を立てつつ試行を重ねている段階である。
一方坂根(2000)によれば、既に日本語教育の現場でもLD(学習障害)等に相当する障害を持つ学習者を受け入れており、教師は「LD学習者の対応は、学習目標、LDの程度や症状の問題など、多くの要因が複雑にからみあうため、一律の対応をするのがよいのか」と懸念しているという。
本稿ではLD(学習障害)等の中核をなすと言われる発達性ディスレクシアに焦点を当て、専門家と実施主体が連携しながら、WAIS-Ⅲをはじめとする認知・記憶特性を理解し、特性に基づいた過去の措置を踏まえて特別措置審査を行っているさまを、実際の事例とともに紹介する。

報告

インターネットサイトによる日本語教育支援
-「日本語でケアナビ」の開発と一般公開を事例として-
本文【PDF:62KB】
上田和子・田中哲哉・前田純子・嶋本圭子・角南北斗

中国の現職日本語教師向け修士コース
-北京日本学研究センター在職日本語教師修士課程実施報告-
本文【PDF:29KB】
篠崎摂子・曹大峰

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