国際交流基金日本語教育紀要 5号 要旨

研究論文

学習者の協同と教師の関わりを重視したディスカッション練習の活動デザイン
本文 【PDF:941KB】
西野藍・石井容子

ディスカッション練習が学習者同士の活動であることに注目し、学習者が主体的に関わり目標を共有して協力すること、また教師がそれを支えることを目指した活動デザインを試みた。具体的には、学習者はディスカッションの前に全員でルールを決める、ディスカッション後に振り返りのための内省シートに記入する、教師はディスカッションの内容を板書する、各自の内省シートにコメントすることにした。実践後の検証から1.ルールがディスカッションへの関与の仕方、日本語の学習目標、人間関係保持の意識化を促し、2.内省シートが学習内容の確認、日本語学習の課題の意識化を学習者に促していたことが明らかになった。さらに3.教師の板書や内省シートへのコメントが議論の要点の把握や学習目標の設定等を促し、この活動を支えていたこともわかった。学習者同士の活動を考える際、教師の関わり方も含めたデザインが重要であることが示唆された。

新聞のテクストに見られる「ようだ」「らしい」のテンス交替
本文 【PDF:855KB】
小野澤佳恵

現代日本語の認識的モダリティ「ようだ」「らしい」の過去形と新聞のテクストとの関係については不明な点が多い。 ここでは、新聞のテクストを下位区分し、「ようだった」「らしかった」の意味の特徴を見ながら、それらが各新聞のテクストに現れる際の、発話主体と発話時の基準軸とに注目しつつ考察することによって、テンス交替のあり様がテクストごとに異なることを明らかにし、次のように結論付ける。
過去の出来事を自ら体験した発話主体にとっての発話時「現在」が基準軸となり、その現在かそれより未来か過去かという絶対的な時間的位置付けが生じるテクストの場合、「ようだ」「らしい」はテンス交替ができない。一方、書き手である発話主体が、虚構の物語の特定の作中人物のようになる場合がある。そのとき、過去の「出来事時」が発話時の基準軸となる。絶対的な時間的位置付けが生じないこのようなテクストの場合、「ようだ」「らしい」はテンス交替ができる。

研究ノート

日本語コースにおける教師の学習
-教師の参加の深まりと日本語コースの発展-
本文 【PDF:955KB】
飯野令子

状況論では個人が「有能になる」ということは、個人の「有能さ」が観察可能になるように物理的・社会的状況をうまく組織化した結果であり、文化的実践への関与の深まりに随伴する現象であるとする(加藤・有元2001)。
この学習観を、日本語教師に用いると、文化的実践とは、すなわち日本語コースであり、教師が「有能になる」ためには、日本語コースの物理的・社会的状況がいかに組織され、日本語コースへの教師の参加をいかに深くしていくかが課題となる。
そこで本稿では、国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語講座について、そこに参加する講師を取り囲む物理的・社会的状況を記述し、講師の日本語講座への参加の実態を分析する。その枠組みとして、状況論の流れを汲む活動理論を用いる。その分析から、講師の日本語講座への参加を深めるための方策を検討し、それが講座全体の発展につながることを示す。

非母語話者日本語教師のキャリア形成過程と課題
-マレーシア予備教育機関AAJを例に-
本文 【PDF:856KB】
戸田淑子・小林学・村田由美恵・森道代

マラヤ大学予備教育部日本留学コースでは、1982年のコース開設当初から国際交流基金より継続的に派遣されてきた日本語教師が、現地のマレーシア人教師とともに予備教育に従事してきた。発足当初は1名であったマレーシア人教師も今では12名に増え、教授活動だけでなく、新任教師に対する研修・指導のほかに自身の研究業績が求められるようになり、マレーシアの日本語教育の将来を担う人材となった。本研究では当機関で日本語教育に携わってきたマレーシア人日本語教師にインタビュー調査を行ない、彼らのキャリア形成過程を明らかにするとともに今後のキャリア形成上の課題と展望について考察した。今後の課題としてはマレーシア国内において次世代の日本語教師を養成すること、マレーシア人日本語教師が国内で日本語に関する研究を行ない、発表できる環境を整えることなどが挙げられる。これらの実現に向けて今後のマレーシアの日本語教育に対する日本側の支援について提言する。

ブログによるプロジェクト評価
本文【PDF:861KB】
上田和子

関西国際センターによる「こちら『日本語でケアナビ』開発室」は、Webサイト「日本語でケアナビ」開発過程を、ブログによって多角的に記述する試みである。ブログという媒体、「語り」というスタイル、関わった複数の人々がひとつの出来事をそれぞれの視点から描いていくことなど、仕事の記録、報告の手法として実験的な試みと言える。同時に、それはプロジェクト評価としての機能も果たしている。この実践により明らかになった点として、以下が挙げられる。
1)「日本語でケアナビ」開発は、開発者ら日本語教師の日常的な学習者との関わりや、研修事業運営の経験に深く影響を受けている。
2)詳細なエピソード記述には、サイト開発の問題点、ねらい、開発者の思いなど、プロジェクトの核心が記録されている。
3)ブログに関わらず、「仕事の場の記述」や「語り」が評価として実践されるには、プロジェクト内での業務として位置づけが必要である。

実践報告

現職日本語教師のアカデミック・スキル養成のためのカリキュラムデザイン
-日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)における実践から-
本文【PDF:908KB】
篠崎摂子・長坂水晶・木山登茂子

本稿では、非母語話者現職日本語教師向けの1年間の修士課程におけるアカデミック・スキル養成について報告する。本プログラムでは日本語表現科目の担当講師と学生の専門分野が一致している利点を生かし、専門科目との連携も考慮したカリキュラムデザインを行なった。具体的には、「特定課題研究」の論文執筆と研究発表会での口頭発表を目標に、日本語表現科目と2つの専門科目の授業をデザインした。
特徴は、1.日本語表現科目では専門分野の論文講読を通して、研究に必要な読解力や文章表現力、そし て論理的・批判的思考力を養成すること、2.専門科目では専門分野の知識を蓄積し、研究方法などのスキ ルを身に付けること、3.研究会発表や調査実習などの準備を両方の科目で行なうことである。その結果、本 プログラムの研究活動で必要とされるアカデミック・スキルに焦点をしぼった指導が実現できた。

国際交流基金シドニー日本文化センターにおける現職日本語教師研修
-デザイン実験アプローチに基づくインテンシブ研修のデザインと評価-
本文【PDF:879KB】
松本剛次・根岸ウッド日実子・ジョナックキャシー

本報告はIntercultural Language Teaching and LearningILTL)、Professional standards for accomplished teaching of languages and culturesなどの近年のオーストラリアの初中等教育における外国語教育の動きを踏まえて国際交流基金シドニー日本文化センター(シドニーセンター)が行なっている現職日本語教師研修について報告するものである。2008年4月にシドニーセンターで行われた現職日本語教師を対象とした短期集中研修では、「ILTLの考え方を研修参加者が理解し、実際にその考え方を取り入れたレッスンプランが立てられることになる」ことを目標に研修が設計され、実施された。参加者からのエバリュエーション、課題作成物の評価、フォローアップアンケート調査の結果、この研修は一定の成果があったものと判定された。また、この研修は大島(2006)による「教師の専門性の熟達」のモデルをその研修デザインの枠組みとして採用しており、このモデルは現職日本語教師研修においても適応可能であることが確認された。

日本語教師のための素材提供型サイト「みんなの教材サイト」の運用と再構築
本文【PDF:984KB】
赤澤幸・高野千恵子・磯村一弘・三原龍志

「みんなの教材サイト」は、海外の日本語教材開発支援事業の一環として国際交流基金日本語国際センター制作事業課が開発し、2002年5月より一般公開を開始した素材提供型サイトである。2006年度からは第五次開発にあたる再構築に着手し、2008年10月にリニューアルオープンを行なった。本稿では、国際交流基金の教材制作事業の流れの中でインターネットを通じた素材提供を行なうに至った教材支援の経緯について述べ、コンピュータによる協調学習支援(CSCL)研究からの知見と内省アプローチの考え方を取り入れた教材サイト開発の背景とねらい、および、運用開始から6年間の利用状況について報告する。また、再構築の方針をたてるにあたって、2回にわたって行なったユーザーアンケートの結果と、今回の再構築の重点課題である、1.素材の追加拡充、2.素材検索の利便性の向上、3.コミュニティ機能の拡充の概要について報告する。

短期訪日コースのための教材開発
-『日本語ドキドキ体験交流活動集』-
本文【PDF:972KB】
熊野七絵・品川直美・羽太園・田中哲哉・矢澤理子・西野藍

国際交流基金関西国際センターでは、海外で日本語を学ぶ学習者を対象に学習奨励を目的とした2週間から6週間の短期訪日研修を実施している。これらの研修では、日本滞在の機会を最大限に生かすため、1.これまでに学習してきた日本語を使う、2.日本を体験し、理解を深める、3.今後の日本語学習に役立つ発見をする、ことを目標としている。そのため、教室外のさまざまなリソースを積極的にとり入れた「体験交流活動」を日本語学習の中心とし、それを支えるための自律学習支援と一体化したコースをデザインした。本稿では、これらの実践の蓄積から、そのノウハウを具体化した教材制作について報告し、教室の「ウチ」と「ソト」をつなぎ、実際の場で「行動できる」能力を養成するための、「体験交流活動型日本語学習」という新たな学習方法を提案する。

英国中等教育向け日本語リソース
『力―CHIKARA―』を使った日本語教師研修会の実践
本文【PDF:846KB】
来嶋洋美・宇田川洋子・ミドルトン晶子・村田春文

JFロンドン日本文化センターでは、2005年度から英国中等教育向け日本語リソース『力―CHIKARA―』開発プロジェクトに取り組んできた。プロジェクトは、関係者が共有できる日本語教育リソースを開発すること、開発後にはそれを使った研修会を実施して日本語教師の資質向上とネットワークを拡げ深めることを目指した。この報告では『力―CHIKARA―』を使った5つの日本語教師研修会について、具体的な内容と方法、参加者の反応等を述べる。5つの研修には、『力―CHIKARA―』リソースを素材として利用した日本語教授法と教材作成の研修、『力―CHIKARA―』以外のJF開発教材もいっしょに利用した研修、ノンネイティブ教師の日本語ブラッシュアップを目指した研修が含まれる。参加者からは研修内容が良かったこと、新しい教育情報を得られたこと、そしてほかの日本語教師と交流できたことに対する肯定的な評価を得ており、今後もこのような研修会を企画したいと思っている。

報告

在欧州日本語教師のための広域研修
-欧州日本語教師研修会実施報告-
本文 【PDF:829KB】
近藤裕美子

関西国際センター日本語教育シンポジウム分科会「地域にひらく」の実施と学び
-地域の協力者との連携のために-
本文【PDF:845KB】
川嶋恵子・石井容子

夏休み子どもワークショップ「世界中の仲間といっしょに」
-関西国際センター研修参加者と小学生を対象とした国際理解ワークショップの実践記録-
本文【PDF:836KB】
今井寿枝・品川直美・野畑理佳

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