国際交流基金日本語教育紀要 7号 要旨

多読による付随的語彙学習の可能性を探る
―日本語版グレイディド・リーダーを用いた多読の実践と語彙テストの結果から―
三上 京子、原田 照子

本文【PDF:1,036KB】

本稿は、第二言語としての日本語学習において、多読による付随的語彙学習が可能であるかにつき、チェコ・カレル大学日本研究学科の学生を対象に実践と調査を行った結果をまとめ、考察したものである。
多読の実践には、日本語版グレイディド・リーダーを使用し、読む前と読んだ後の語彙テスト、またアンケート、インタビュー調査も実施した。事前・事後の語彙テストには作品中の語に加え作品外の語も出題し、事前テストで不正解だったが事後テストで正解となった語について、それらが多読によって付随的に習得された語であると考え、分析を行った。その結果、多読をした学生は作品中の語を作品外の語より多く習得したこと、また高頻度で出現した語がより多く習得されたこと、動詞や形容詞等より名詞が習得されやすいこと等がわかった。今後は、他の作品も使用した実践と検証を行うこと、また事前・事後語彙テストの実施方法の改善等が課題として残されている。

研究ノート

コミュニケーション言語活動の熟達度を表す
JF Can-doの作成と評価
CEFRのA2・B1レベルに基づいて―
森本 由佳子、塩澤 真季、小松 知子、石司 えり、島田 徳子

本文【PDF:1,117KB】

日本語教育において言語熟達度を表す共通の枠組みがないという状況をふまえ、国際交流基金は、CEFR に基づいた日本語の熟達度を表す能力記述文としてJF Can-do を開発中である。本稿では、JF Can-do 開発の第1段階であるA2およびB1レベルのCan-do 作成と、その記述に対する現場教師の評価について述べる。評価の観点は、(1)レベルが妥当か、(2)言語活動のカテゴリーが妥当か、(3)記述はわかりやすいか、(4)教室活動等がイメージしやすいか、の4点である。作成過程において現場教師による評価を取り入れたことにより、教育現場で使いやすいCan-do を記述する際に考慮すべき点について有益なフィードバックを得た。その一方で、Can-do を十分に理解し、枠組みを共有していくためには、継続したワークショップ等の実施が重要であることもわかった。

中国の大学の日本語授業における会話指導に関する調査
―中・上級レベルを対象とした教室活動の実態と教師の意識―
長坂 水晶、木田 真理

本文【PDF:1,050KB】

本研究では、非母語話者日本語教師研修における、教授法授業の会話指導の内容を再考することを目的に、上級レベルの学習者を多く育成していることが特徴の中国をとりあげ、大学の非母語話者日本語教師が、どのようなことを目的に会話授業を行い、どのような教室活動を実施しているのか、また、どのような教室活動が、会話力向上に貢献すると考えられているのか、中・上級会話指導における困難点は何かなどについて、質問紙調査を実施し、結果の分析と考察を行った。
その結果、中国の大学では、暗記や翻訳、繰り返しなどの活動が頻繁に行われているものの、実際に頻繁に行っている活動と、会話力育成に貢献すると評価されている活動の間にはずれが認められた。また、日本人のものの考え方、敬語や語彙などの言語項目、学習者への動機付けや授業の仕方などが会話指導の難点としてあげられた。これらを踏まえて、訪日教師研修における支援内容への示唆を整理した。

日本人の対人行動における上下関係と
その解読力向上のための外国人教育の試み
中島 透

本文 【PDF:732KB】

本研究は、会話場面における階層的関係調整(HRM : Hierarchal Relationship Management)に注目した。特に上下関係の理解を日本語学習者はどのような非言語チャネルを使用しておこなっているか、表情認識の理解度に焦点をあて、文化社会的理由による個人差を明らかにすることを目的とする。実験ではまず上下関係を含むVTR 刺激(音声なし)を使って日本人どうしのHRM の違いを分析した。次に判別方法を提示せずに外交官・公務員29名、大学生39名を対象に評定用紙調査を実施した。最後に判別方法を提示して再度分析した。
その結果、「友人」との会話場面では、ほとんどの場合で会話の相手を識別できた。しかしHRMに関する非言語チャネルが多数生起する「目上」と「他人」の区別には混乱が多く認められた。日本人のHRMの特徴を基にした判別方法を提案することによりそれらの改善できる可能性が示唆された。

ロシア語母語話者の発音の特徴と指導における問題点
―日本人日本語教師に対する調査から―
渡辺 裕美

本文【PDF:718KB】

ロシア語圏では音声指導に関する要望が強いにもかかわらず、ロシア語母語話者の音声教育に焦点をあてた研究は極めて少ない。そこで、日本人日本語教師13名を対象にロシア語母語話者の発音の特徴とロシア語圏の発音指導の現状及び指導における問題点について調査した。その結果、(1)ロシア語母語話者の発音にはこれまでにあまり指摘されていなかった「す」が「ず」になる、拗音が直音になる、助詞が強く発音されるなどの特徴が見られることが明らかとなった。また、(2)ロシア語圏において発音指導は教師の裁量に任されており、教師は指導にあたって学生の発音の特徴に関する認識の不足や、指導面、学生の意識、時間不足などに問題を感じていることが明らかとなった。
本稿では、以上のような発音の特徴と指導における問題点をふまえロシア語圏の音声教育の現状と課題を述べた。

実践報告

介護福祉士候補者を対象とする
「申し送り」聞き取り授業の実践報告
登里 民子、永井 涼子

本文【PDF:1,251KB】

(独)国際交流基金関西国際センターでは、EPA に基づいて2008年に来日したインドネシア人介護福祉士候補者のうち34名を対象に、2泊3日のフォローアップ日本語研修を行った。
事前アンケートおよび聞き取り調査により、候補者の日常業務の中で特に困難が感じられている点は、「申し送り」を聞き、理解することと、「業務日誌」の読み書きであることがわかった。そこで今回は、申し送りの聴解を目的とした授業を組み込むこととした。
関西国際センター近隣の介護施設の協力を得て、3日分の「申し送り」を採録し、そのスクリプトを基に教材化した。
授業は次のような流れで行った。
(1)それぞれの施設の申し送りのやり方について話し合う。
(2)申し送りの「型」を例示し、意識化する。
(3)メモをとりながら、申し送りの会話を聞く。
授業の最後に「振り返り」として、簡単なアンケートに記入するとともに、自分の施設の申し送りの「型」を記述した。

「アニメ・マンガの日本語」Webサイト開発
―趣味から日本語学習へ―
熊野 七絵、川嶋 恵子

本文【PDF:1,259KB】

今、世界中で日本のアニメ・マンガは大人気であり、日本語学習者の多くがアニメ・マンガをきっかけに日本語を学び始めると言われている。しかし、アニメ・マンガの日本語には、教科書や辞書には載っていない表現も多く、アニメ・マンガを日本語で理解するのは難しい。そこで、関西国際センターでは、趣味から日本語学習への橋渡しとなるサイトをめざし、海外で人気のあるアニメ・マンガに現れるキャラクターやジャンルの日本語を楽しく学べるE ラーニングサイト「アニメ・マンガの日本語」を開発した。海外の現状や学習者のニーズ調査に基づき、(1)アニメ・マンガと日本語学習をつなぐ(2)学習者の好きなアニメ・マンガの世界観を生かす(3)楽しく学べ、自律学習につながるをサイト開発の基本方針とした。サイト公開後、8ヶ月で168カ国から155万ページビューを超えるアクセスがあり、ユーザーの声をサイト改善に生かしている。

評価基準と評価シートによる口頭発表の評価
―JF日本語教育スタンダードを利用して―
関崎 友愛、古川 嘉子、三原 龍志

本文【PDF:1,000KB】

国際交流基金日本語国際センターが実施している海外日本語教師短期研修における「総合日本語」では、2009年から2010年の3期の短期研修において、口頭発表を評価タスクとした授業を行い、JF日本語教育スタンダードを利用した評価基準と評価シートによる評価を行った。本稿ではその評価デザインについて3期の実践と成果をまとめた。評価デザインの留意点として、研修参加者の日本語運用力に配慮した評価活動を行うこと、口頭パフォーマンス全体の達成とそれを支える観点の両方に注目させる工夫をすること、評価時に客観的指標としての評価基準を参照すること、評価タスクの後にパフォーマンスについての十分な振り返りのディスカッションを行うことなどが示唆された。

評価ツールで学習者の自律性は育めるか
―フィリピンの高校生向け日本語リソース型教材『enTree』の挑戦―
大舩 ちさと、和栗 夏海、フロリンダ アンパロ A パルマヒル、フランチェスカ M ヴェントゥーラ

本文【PDF:1,952KB】

フィリピンでは2009年6月から教育省により日本語が選択外国語科目として試験的に導入されたことを受け、報告者らは高校生向け日本語リソース型教材の開発に取り組んでいる。教育省の掲げる目標を受け、本教材ではフィリピンの高校生が身に付けるべき力を、「Curiosity」を有し「Self-improvement」しながら、「Discover and Fulfill one’s MISSION」を目指すものと位置づけた。そして、これらの力を身に付けたか否かを確認する方法として、【内省する力】、【学習をモニターする力】、【管理する力】を見ることにした。学校教育では期末試験として筆記試験が実施されることが多いが、これらの力の評価には適さないため、報告者らは筆記試験では測れない力を測る評価ツールの開発を試みた。本稿では、この評価ツールの概要と開発にあたり考慮した点、現場からのフィードバックについて報告する。

教育省主導の中等日本語教育拡充プロジェクトにおける訪日研修プログラムの役割と意義
―インドネシア中等教育日本語教師研修プログラムの場合―
生田 守、藤長 かおる

本文【PDF:702KB】

本稿は、インドネシア教育省の中等日本語教育の拡充プロジェクト(カリキュラム改訂も含む)と、それを支援する国際交流基金ジャカルタ日本文化センターの教師研修プログラムの中で、5年間にわたる国際交流基金日本語国際センター(浦和)の訪日研修プログラムである「インドネシア中等教育日本語教師研修」が果たした役割と意義を明確にするための実践報告である。
インドネシアでの教師研修を背景として、訪日研修の役割をとらえ、研修の目標設定から実施への道のりを振り返り、研修の内容を包括的に紹介した上で、参加者の日本語運用力の向上や満足度から研修の評価を試みる。
現地側と基金側が連携し、中等教育において比較的経験が浅い教師を招聘し、日本語運用力向上や日本文化・社会を体験し、教師としての成長を支援していくという当訪日研修プログラムの役割と意義は、帰国後の参加者の定着や活躍にも反映され、彼らにとって高い動機付けにもなっている。

報告

インターネットを利用した日本語学習支援を広げるために
―日本語学習ポータル「NIHONGO eな」の開発―
田中 哲哉、浜田 盛男、前田 純子、角南 北斗

本文【PDF:876KB】

国内大学機関の日本語教員養成を支援する新たな試み
―国内・海外提携大学間交流の一環として実施した「日本語教育現場体験」についての報告―
今井 寿枝

本文【PDF:824KB】

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