国際交流基金日本語教育紀要 8号 要旨

研究論文

相対自動詞・他動詞選択判断の要因
―中国人大学生の場合―
本文 【PDF:1,234KB】
伊藤 秀明

本研究では中国人日本語学習者にビデオを用いた文完成タスクとフォローアップインタビューを行い、相対自動詞・他動詞選択の判断の要因の分析をした。文完成タスクの分析では、高学年になっても自動詞は正答率がそれほど変わらないのに対し、他動詞では正答率が上がっていく傾向が明らかになった。また、フォローアップインタビューの分析では高学年になるにつれて、他動詞では判断要因の簡略化を行っているのに対し、自動詞ではそのような傾向が見られないことが明らかになった。このような文完成タスク・フォローアップインタビューの結果から、本稿では日本語学習者は他動詞選択を先行し、他動詞選択の判断の要因に当てはまらない場合は自動詞になると消極的に判断している可能性を示唆した。

研究ノート

ノンネイティブ新人日本語教師にとっての研修の意義
PAC分析によるタイ人新人日本語教師のビリーフ調査から―
本文【PDF:1,240KB】
八田 直美・小澤 伊久美・嶽肩 志江・坪根 由香里

本稿では、2名のノンネイティブ(対人)新人日本語教師に対して研修期間の前後に「いい日本語教師像」を探るPAC分析を行い、インタビューに表れた教師のビリーフに関する語りがどのように変化したか、その変化に教師研修がどのように関わっているかを分析した。
その結果、2名とも、研修で得たヒントを基に授業改善を行ったこと、その成否を学生の反応などから判断し、効果を上げたと捉えていること、今回の授業改善で満足せず、さらに学び続ける意欲を持っていること、研修前に共に持っていた問題意識が研修で刺激され、発展した可能性があることが明らかになった。さらに、自己研修型の教師養成を目指す研修では、教師のビリーフに働きかけ、参加者の問題意識を顕在化し、研修実施者・参加者間で共有していくこと、学んだことを実践し、結果をふり返る機会を作ること、継続的な研修参加を促すことが重要であることが示唆された。

「活動記録」における学習者の文化認識に関する一考察
―学習者の異文化理解へのかかわりを目指して―
本文 【PDF:723KB】
野畑 理佳 

本研究は、学習者の異文化理解にかかわるための教師の役割について考察することを目的に、試行的調査として「学習者訪日研修(大学生)」における自律学習支援のしかけの一つである「活動記録」から、学習者のどのような文化認識が表れているかについて分析し、考察を行う。
「活動記録」は文化・社会に関する気づきを日本語で自由に記述するものであるが、本論では参加者の記述にクリティカルな異文化間理解能力を構成する要素に関連する記述を取り上げて考察した。その結果、異文化に対する共感・否定の態度や自文化への言及、知識の確認や修正、言語能力を内省するなどの記述が見られ、クリティカルな異文化間能力への発達段階にある文化認識が表れているのではないかと思われる。教師には「活動記録」の記述をより内省が表れるよう導くための役割が求められている。

香港の年少者日本語学習に関する一考察
―保護者の意識を中心に―
本文【PDF:747KB】
木山 登茂子・野村 和之・望月 貴子

香港において、年少の日本語学習者が存在感を増しつつある。本論は、年少の日本語学習者に大きな影響を与えると思われる保護者を対象にインタビューを実施し、保護者が年少者に日本語を学習させる際の意識を考察する。全体的な傾向として、日本への親近感・好印象が、統合的動機へと結びつく。同時に、保護者の意識の中にある子どもの就職や旅行など具体的な目標が、道具的動機へと結びつく。加えて、統合的でも道具的でもない「学びそのものへの積極性」から生じる学習動機が存在する。香港においては、「学ぶこと」を肯定する意識が非常に強く、英語と中国語の習得が前提付けられた多言語社会にありながらも、日本語が第三の言語として学ばれるのである。

中国大学日本語教師のポートフォリオに対する認識調査
―教師研修ポートフォリオ導入に向けて―

本文 【PDF:964KB】
松浦 とも子・佐藤 修

本稿では、教師研修ポートフォリオの導入を検討するため、中国における大学日本語教師のポートフォリオに対する認識を、インタビュー結果とアンケート記述をSCATの手法により分析することで明らかにした。教師たちは、ポートフォリオについて理解する前には、漠然と振り返りに使えるというイメージを持っているだけであった。しかし講義を受けた後は、ポートフォリオを利用して「学びのプロセスの可視化」、「時間軸の中で学習を捉える」、「学習者と教師とのコミュニケーション」、「仲間のポートフォリオとの比較検討」などが可能であるというように、ポートフォリオに対する期待が示された。同時に、利用方法について不安があることが確認された。また、教師研修での学びはそれを現場でどう生かせるかという視点で評価されるべきだと教師たちが考えていることもわかった。

実践報告

異文化間コミュニケーション能力のための教育とその教材化について
-ハンガリーの日本語教育教科書『できる』作成を例として-

本文【PDF:836KB】
松浦 依子・宮崎 玲子・福島 青史

本稿ではハンガリーにおける日本語教育教科書『できる』の開発を例に、日本語教育における異文化間コミュニケーション能力の育成の方法とその教材化について一例を示す。ハンガリーの言語教育は欧州評議会の政策に影響を受けており、言語能力のみならず文化的な能力の育成も重要視されている。『できる』においては、Byram、Lázár といった欧州評議会の活動に参加している教育者のモデルを参照し、五つの異文化間能力の定義付けを行い、段階的に教育を行う方法をとった。実際の教材化に当たっては、異文化間能力養成を異なった機能を持つ教科書のコーナーに分散させることで、異文化間能力が静態的な知識に終わることなく、創造的で動態的な性格を持つように複合的なデザインを行った。しかし、異文化間コミュニケーション能力は言語使用者の行動として発現するため、教材の使い方についてより多くの注意が必要である。

JF日本語教育スタンダード準拠コースブックの開発
本文【PDF:950KB】
来嶋 洋美・柴原 智代・八田 直美

国際交流基金ではJF日本語教育スタンダードを教育現場でどう適用するか具現化すると同時に、海外拠点における日本語講座での使用のために、準拠教科書の開発に取り組んでいる。新しい教科書は相互理解のための日本語教育を実践するために、日本語だけでなく異文化理解の学びを取り入れる。学習対象は海外の成人学習者である。JFスタンダードに準拠するために、レベル設定、Can-doによる学習目標、トピック、異文化理解の学習、ポートフォリオを取り入れ、2011年5月には『まるごと―日本のことばと文化― 入門A1』試用版を刊行した。コミュニケーション言語活動中心の「活動編」と、言語能力(語彙、文型など)を中心にした「理解編」、そしてトピック別語彙集で構成される。活動編と理解編は各々主教材として開発したが、トピック構成が共通で、相互補完的にも使用できる。本稿ではその開発の枠組みと内容・構成について報告する。

タイ国中等教育機関の日本語選択コース用ひらがな教材開発報告
プラパー セントーンスック

本文【PDF:1,308KB】
三浦 多佳史・渋谷 実希

タイ国では西暦2001年の基礎教育カリキュラム改訂で、全国共通で決められていたカリキュラムを、各中等学校が地域や学習者のニーズに合わせて自由に設定できるようになった。これに伴い、選択コースや時間外の活動として、週1、2回の日本語クラスを開講する学校が大幅に増えたが、少ない時間で学ぶ学習者用の適当な教材が見当たらないことが問題となっていた。
国際交流基金バンコク日本文化センターでは、これらのニーズに応えるためタイの中等学校日本語選択コース向けの教材開発に着手した。国内4地方における事前調査を経て、2011年3月に「こはるといっしょにひらがなわぁ~い」が出版され、シリーズ2冊目の「こはるといっしょに にほんごわぁ~い」も出版に向けて準備が進められている。本稿ではその事前調査結果と「こはるといっしょに ひらがなわぁ~い」の開発過程を報告する。

日本語授業におけるILL理念の具現化に向けた取り組み
―映画教材『しあわせ家族計画』を用いた教師研修成果から―
本文【PDF:771KB】
岸田 理恵・キャシー ジョナック・赤羽 三千江・信岡 麻理・森 文枝・中川 康弘

本稿は、1990年代後半以降、オーストラリアの学校教育において言語学習に不可欠の理念となったILLIntercultural Language Learning)に着目し、近年の動向とその理念に基づく授業デザインを示した国際交流基金シドニー日本文化センターでの教師研修成果をまとめた実践報告である。
まず関係資料を整理した結果、ILLは導入予定のナショナルカリキュラム(Australian Curriculum)にも散見され、将来に向けた教育政策にその理念が継承されていることがわかった。次にILLを取り入れ作成した映画教材『しあわせ家族計画』を用いた教師研修では、参加者がその場でILLを体験していることがうかがえ、さらにILLを日々の授業に照らし合わせ、自らの実践を振り返っていたことが研修の記録や任意の聞き取りによって確認された。

「プログラムの継続性」と「学習の継続性」を目指した日本語教育導入の試み
―フィリピンの中等教育における実践から―
本文【PDF:787KB】
大舩 ちさと・和栗 夏海・松井 孝浩・須摩 亜由子・フロリンダ アンパロ A パルマヒル

筆者らは2009年以来、多言語国家フィリピンにおいて、36年ぶりの中等教育機関における外国語導入(スペイン語、フランス語、ドイツ語、日本語)の一環としての日本語導入を実施している。また、導入にあたっての留意点を「プログラムの継続性」と「学習の継続性」に定めて教材開発・教師研修・学習者支援等に取り組んできた。
導入から約1年半が経過した現在、日本語導入の取り組みは外国語の中で唯一、独自教材を開発したことで、より現地の事情に合った授業を実施できていると評価できる。また、他言語の場合とは異なり、高等教育機関等の現地教師が教材制作や教師研修に携わっている。これは、中等教育と高等教育とのアーティキュレーションを視野に入れて進めてきたという点において評価できる。一方で、他言語はヨーロッパ共通言語参照枠準拠の教材を用いることで、言語間で学習到達目標の共有を果たしており、日本語はこの点において課題が残る。

非母語話者日本語教師を対象とした超短期研修の成果
~体験交流活動を通じた意識の変化~
本文【PDF:737KB】
羽太 園・西野 藍

国際交流基金関西国際センターでは、海外の非母語話者日本語教師(以下NNT)を対象に、3週間程度の超短期訪日研修を行っている。短期間でNNTのニーズに応えるため、実際の活動を通じて言語と文化を学ぶ体験交流活動型日本語学習をコースデザインに取り入れている。その成果と研修方法の評価を把握するため、オーストラリアとタイの研修参加者を対象にアンケートとインタビュー調査を行った。その結果、研修参加者は、リソース収集のような明示的な成果とともに、「日本語運用についての自信や勇気を得たこと」や「学習者の視点に立って教授活動をふりかえったこと」などの意識の変化を研修の成果として認識していること、また超短期研修の方法として体験交流活動型日本語学習を肯定的に評価していることがわかった。調査結果を元に、超短期NNT研修における適切な目標設定と研修方法について提案を行った。

報告

日本語教育におけるアニメ・マンガの活用のために
―マドリード日本文化センター事例報告―

本文【PDF:738KB】
熊野 七絵

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