国際交流基金日本語教育紀要 9号 要旨

研究ノート

教師研修におけるポートフォリオの意味
―教師研修ポートフォリオとティーチング・ポートフォリオ―
本文【PDF:709KB】
松浦 とも子・佐藤 修・柳坪 幸佳

本稿では、中国で行った大学日本語教師研修にポートフォリオを導入した経過を振り返り、参加者の教師研修ポートフォリオを、キーワードの取り込み(アプロプリエーション)の実態、再文脈化の実態、実践的思考様式の実態という3つの観点から分析することで、教師研修におけるポートフォリオの意味を考察した。その結果、研修参加者は教師研修ポートフォリオを作成することで、研修からの知見を再文脈化し、実践経験を表象化していることが明らかになり、教師の成長過程における実践の表象化を支える手段としての教師研修ポートフォリオの意義の認識が可能となった。ポートフォリオ導入時の目的は、第一に研修の評価方法の模索、第二に参加者にポートフォリオを体験的に理解してもらうことであった。二点の目的はそれぞれ達成されたが、それに加えてポートフォリオ作成の過程が教師の成長過程に与える影響も、分析を通して新たに明らかになった。

実践報告

アイデンティティ形成を支える日本語学習活動の実際
―フィリピン中等教育機関向け教材
enTree-Halina! Be a NIHONGOJIN!!-』の学習活動から―
本文【PDF:2,340KB】
松井 孝浩・大舩 ちさと・和栗 夏海・須摩 亜由子

フィリピンでは、中等教育機関において2009年6月から日本語が試験的に導入された。海外の中等教育における日本語教育では、言語能力の向上に加え、人間性の育成を目指した「人間教育」といった側面が期待されることが多く、フィリピン教育省も「第二外国語におけるコミュニケーション能力の向上」、「世界中の様々な就業の場で活躍する力」、「異文化への寛容的な態度の育成」を教育目標に据えている。そこで筆者らが開発を進める教材においても「人間教育」を主要なコンセプトの一つとしている。その中でもアイデンティティ形成を支える学習活動は「人間教育」の実現を支える重要な要素の一つである。本稿ではまず、教材のコンセプトと構成について触れる。次に、複数言語環境におけるアイデンティティ形成に関連する3つの学習活動の詳細を述べる。最後に、日本語教育におけるアイデンティティ形成をめざす学習活動の重要性について論じる。

インドネシアの中等教育における日本語教師研修インストラクターの養成
―教育文化省語学教員研修所と高校日本語教師の連携による研修の自立化を目指して―
本文【PDF:1,534KB】
Evi Lusiana・尾崎 裕子・秋山 佳世

インドネシアでは近年中等教育段階(主に高校)の日本語学習者が急増し、高校日本語教師の研修の重要性が増している。国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(以下、「JFJ」)は、インドネシアの教育文化省語学教員研修所(以下、「P4TK Bahasa」)と共催で教師研修を実施してきたが、従来、教師研修の講師は主にJFJ の専任講師や専門家と現職高校日本語教師のインストラクターが務め、P4TK Bahasaの講師はほとんど授業に関わっていなかった。しかし、インドネシアの中等教育における日本語教育の自立化実現のためには、P4TK Bahasaの講師が高校日本語教師のインストラクターと連携して教師研修を実施できることが望ましい。そこで、2011年、P4TK Bahasaの講師を対象に、教師研修で教授法を指導するための実践的な力の習得を目指した研修を実施した。本稿ではその概要と評価、意義について報告する。

WEB版「エリン」は世界の日本語学習者からどのように受け入れられたか
-アンケート調査に見るユーザー評価-
本文【PDF:803KB】
羽吹 幸・長田 優子・磯村 一弘

映像教材「エリンが挑戦!にほんごできます。」は、「日本語学習」と「文化理解」を目標とした映像素材を提供することを意図して制作された教材で、テレビ版、DVD教材、WEB版とメディアを変えて展開してきた。本稿では2010年から公開しているWEB版のアクセスログと2回のユーザー評価の結果を元に、WEB版「エリン」が世界の日本語学習者からどのように受け入れられたかを考察する。アクセスログによる利用状況では、継続的にページビュー数を増やし、かつ明確な目的を持ったユーザーに利用されている様子が伺える。2回のアンケート調査では非常に高い肯定的評価が得られた。特に、独学に適したコンテンツやインタラクティブな学習方法が評価されており、サイトの制作意図が効果的に活かされていることがわかった。今後は多言語化や画面仕様の改修によりサイトのユーザビリティを高め、さらに多くのユーザー獲得を目指していきたい。

JFS/CEFRに基づくJFS日本語講座レベル認定試験(A1)の開発
本文【PDF:1,207KB】
熊野 七絵・伊藤 秀明・蜂須賀 真希子

JF海外拠点ではJFSに基づく日本語講座を順次開講しつつあるが、特に欧州では学習者からCEFRに準拠したレベル証明のニーズが高いことから、JF欧州3拠点でJFS/CEFRに基づくレベル認定試験(A1)を共同開発することとした。まず、各国のCEFR準拠の試験作成基準、試験問題等を収集、分析、検討し、CEFR試験開発マニュアルのサイクルや手順、留意点に従い、試験を作成した。全体構成や課題・設問形式は他言語の試験と同様に読解、聴解、作文、会話の4科目とした。トピック、課題の難易度、文型や語彙の範囲、表記の扱いは日本語の使用場面を考慮した『まるごと』を基準とした。試行試験を実施し、結果を分析したところ、A1として適切な難易度であり、日本語でもJFS/CEFRに基づくレベル認定試験の開発が可能であることを示せた。一方、聴解で文字選択肢が負担になるなど、日本語ならではの課題も明らかになった。

JF日本語教育スタンダードを利用した「教師向け日本語講座」改善の試み
本文【PDF:1,224KB】
藤長 かおる・中尾 有岐

国際交流基金クアラルンプール日本文化センターでは、2010年より短期の「教師向け日本語講座」を開講し、マレーシア中等教育の日本語教師の日本語力の維持・向上の機会を提供している。この講座はこれまで4回実施されてきたが、本報告は、筆者らが携わった3回目、4回目の実践報告である。この講座では、(1)言語知識の練習がコミュニケーション活動に還元されるような授業デザインを考える、(2)受講者が、自身のアウトプット(発話、作文)を振り返り、モニターし改善できる仕組みを取り入れる。また、受講者・教師の双方が、課題の達成度を共有できるようにする、(3)1日しか参加できない受講者であっても、達成感のあるコースデザインにするということを目指し、日本語教育スタンダードを取り入れたコースデザインを行い、実践した。その成果を筆者らの内省を通じて述べ、今後の方向性を探る。

タイの教育現場支援としてのJF日本語教育スタンダード導入
-『あきこと友だちCan-do ハンドブック』の作成-

本文【PDF:317KB】
渋谷 実希

本稿は、国際交流基金バンコク日本文化センターが2010年1月より2012年4月にかけて行ったJF日本語教育スタンダード導入施行の変遷とともに、具体的な作業の流れと作成物の内容を報告するものである。
導入にあたり我々は、JF日本語教育スタンダードを、タイの中等教育機関の日本語教育の現場で問題となっている課題解決のために利用するという基本方針を立てた。そして、『あきこと友だち』という既存の教科書を使っての口頭コミュニケーション能力育成を目標に掲げた。その実現のため、Can−doでの目標設定、目標を達成するためのクラス活動、できたかどうかの評価という一連の流れにJF日本語教育スタンダードを取り入れた、教師のための参考書を作成した。また完成後は、タイ全国6か所で、これをどのように活用していくかの実践的な研修会を行った。
現場に直接役立つ、教育支援のためのJFスタンダードの活用法として報告したい。

moodleを活用した初中等日本語教師への初級日本語研修と課題
-インドにおける教師研修でのブレンディッドラーニングの試み-

本文【PDF:1,771KB】
竹村 徳倫

国際交流基金ニューデリー日本文化センターでは、初中等教育機関の日本語教師の自主的な要請から日本語能力底上げのための教師研修を開始した。しかし、教師研修に毎回参加できる教師は全体のごく一部であり、教師研修に参加する時間のない教師や、遠隔地のために参加できない教師がいるなど、解決すべき問題もみられた。そこで、2012年2月から4月までの期間、同期的な対面式授業と、「moodle」上に配置した非同期的なe−Learningコンテンツを活用したブレンディッドラーニングによる教師研修を実施した。その結果、ブレンディッドラーニングが時間と距離の問題を解決するための一手段と成り得ることが示唆された。だが一方で、時間経過による参加者のmoodle利用離れ、参加者のe−Learningへの適応問題、参加者間のインターアクションの促進の必要性、コンテンツの充実などの課題が明らかとなった。

ロシア一般人向け日本語コース用初級コースブック『どうぞよろしくⅠ』開発報告
本文【PDF:1,344KB】
イリーナ・プーリク、リュドミラ・ミロノワ、山口 紀子

本稿ではロシア・ノボシビルスク市立「シベリア・北海道文化センター」(以下SHC)における初級
日本語コースのシラバス開発及びコースブック『どうぞよろしくⅠ』開発について報告する。近年のロシアにおける日本語学習の目的はよりコミュニケーション重視の方向へと変化しており、対応する教材の開発が急がれている。SHCではコース受講生のニーズ調査を行い、ロシアで初めて日本語コースに言語活動能力を育てるCan−doシラバスを取り入れた。1年間のコース実施を経てシラバスの改善を行い、2011年にコースブックの開発に着手。ガニェの9教授事象モデルを参照し、言語運用能力・自律学習能力が身につく構成に配慮した。また各課に日本事情をふんだんに取り入れ、日本語を学ぶと同時に日本についても学べる内容となっている。教材開発と並行してロシア各地で教師セミナー・模擬授業を行い、その反応と評価を反映し、現在出版に向けて準備を進めている。

報告

日本語学習者向けウェブサイトの公開後の継続的なケア
-国際交流基金関西国際センターの取り組み-

本文【PDF:754KB】
田中 哲哉・川嶋 恵子・前田 純子

日本語学習者に向けた情報リテラシー教育
-日本研究に役立つ情報検索ガイド実践報告-

本文【PDF:366KB】
浜口 美由紀・畠中 朋子

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