国際交流基金日本語教育紀要 10号 要旨

研究ノート

JF 講座受講生のポートフォリオに対する態度変化の過程
―受講生インタビューの分析から―
本文【PDF: 985KB】
片桐 準二

本研究ではポートフォリオを導入したJF講座の日本語コース受講生を対象としたインタビュー資料を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによって分析し、受講生のポートフォリオに対する態度変化の過程を仮説モデルとして提示した。その結果、ポートフォリオ案内を聞いてすぐに積極的に取り組み始める<先駆者>がいること、振り返りシートを使いながらも【消極的態度】を取るが、授業の進行と共に<文字習得>と<先駆者の存在>を【促進剤】として【活用への気付き】が起き、【積極的取り組み】に至ることが分かった。他方、【消極的態度】のままの場合や【活用への気付き】が起きても【積極的取り組み】に至らないこともある。考察では、PF の活用を促進するために1)文字導入が有効であること、2)内省を高めるための議論の場を設けること、3)ポートフォリオ評価をコースの修了要件とすることの3つの提言をした。

JF メキシコにおける日本語学習者の特性
―ビリーフ調査結果を中心に―
本文【PDF: 1,077KB】
髙﨑 三千代

本研究は、メキシコの初級日本語学習者が上達させたいと考える言語能力・技能と、彼らの言語観・言語学習観(以下、ビリーフ)について、その特徴を考察したものである。上達させたい言語能力では、会話が最も高いことは想定範囲内だったが、その強さの程度や会話以外の言語・技能への希望は地域や学校種別によって異なった。
ビリーフ調査で見いだされた特徴は、教室内外を問わず日本語での会話や交流を楽しみにしていること、聴解や話す活動は好むが、語彙や読解等の文字を行動対象とする学習指向は低いこと等である。加えて、言語学習について楽観的で教師の直接指導に対して期待が高いことも窺えた。
近年メキシコで需要が高まっている通訳、翻訳、日本語教師など日本語での就業可能な能力に達するには効果的・効率的なコースへの改定が必要だが、教師が学習者の希望を把握し特性を生かす教授活動を行うことが並んで重要であると考えられる。

実践報告

インドにおける非母語話者教師向けオンライン日本語研修
―遠隔地を対象としたブレンディッドラーニング―
本文【PDF:1,568KB】
竹村 徳倫

近年インドでは日本語学習者数が増加し、同国内では各地に「日本語教育新興地域」と呼ぶべき地域が出現したことで大都市圏の教師だけでなく、遠隔地に分散する教師への支援も必要となってきた。そこで、国際交流基金ニューデリー日本文化センターは従来のe−Learningによる教師研修を発展させて、2013年4月と8月に日本語教育新興地域のグジャラート州とラジャスタン州の教師を対象に、言語運用能力の向上を目指し、遠隔授業とMoodle上の自学自習コンテンツによるブレンディッドラーニングの「オンライン日本語教師研修」を実施した。その結果、遠隔地の教師も参加可能な教師研修のモデルを示すことができただけでなく、遠隔地に分散する教師のネットワークづくりにも同研修が役立つことが示唆された。また、研修に取り入れた新たな試みによって、以前の教師研修で報告されていた時間経過による参加者のMoodle利用離れ、参加者のe−Learningへの適応問題などの問題にも改善がみられた。

経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人・フィリピン人看護師・介護福祉士候補者を対象とする日本語予備教育事業の成果と展望
本文【PDF:1,070KB】
登里 民子・山本 晃彦・鈴木 恵理・森 美紀・齊藤 智子・松島 幸男・青沼 国夫・飯澤 展明

国際交流基金では経済連携協定に基づいて来日するインドネシア人・フィリピン人看護師・介護福祉士候補者を対象とする来日前の日本語予備教育事業を実施している。本稿では2010年から3回にわたって実施した日本語研修の概要と成果を紹介する。
本研修のコースデザインは、「初級からの専門日本語教育」「自律学習支援」等の考え方をベースに、特に「縦型アーティキュレーション」に配慮して組まれている。カリキュラムは「日本語授業」「自律学習支援」「社会文化理解」に大きく三分される。
3回の研修を通して7割以上(マッチングが成立し来日した者に限ればほぼ8割以上)の候補者が学習到達目標に達していることから、本研修は看護師・介護福祉士国家試験に向けての日本語能力向上に貢献したと言えるだろう。今後はポートフォリオ等を見直し、現地研修から国内研修への「学習の連続性」をさらに強固なものにしていきたい。

JF日本語教育スタンダード準拠コースブックを使用した教師研修
―『まるごと 日本のことばと文化』(入門 A1 かつどう)教師研修の実践―
本文【PDF:1,380KB】
早川 直子・カルメンシータ・ビスカラ・中込 達哉

本稿はマニラ日本文化センターで実施された『まるごと 日本のことばと文化』(入門 A1 かつどう)を使用した教師養成について述べる。2012年4月、センターでは新規講座である「まるごとA1コース」が開講された。開講してすぐに、次に開講するのは継続コースのA2コースか、より多くの新規学習者を開拓するA1コースかという選択に迫られた。「JF日本語講座講師訪日研修」に参加したわずか2名の講師体制では両コースを同時に開講することはできず、センター内で新たに「まるごとA1コース」の担当講師を養成することにした。本稿では「まるごと教師研修」が始まった経緯と研修の内容、さらに文型導入から基本練習という流れの授業になじんでいた実習生たちが「まるごと教師研修」を通してどのような気づきや自己変容への認識を得たかを報告する。

少ない学習時間で学ぶ学習者のための日本語教材開発報告
―タイ国中等教育機関の日本語選択コース用教材―

本文【PDF:955KB】
三浦 多佳史・プラパー セーントーンスック

国際交流基金バンコク日本文化センター(以下JFBKK)では、タイの中等教育で、週1、2回の少ない時間で日本語を学ぶ学習者を対象にした新しい教材の開発を進めてきた。『こはるシリーズ』と呼ばれるその教材に関し、ひらがな教材『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』についてはすでに開発過程の報告を行ったが、本稿では続いて出版された場面会話と日本文化を学ぶ教材についての開発過程を報告し、拡大する中等教育段階の日本語学習者に必要とされる教材とはどのようなものかについて考察した。この教材の完成によって、タイの中等教育では、たくさんの時間を使って学ぶ学習者向けの教材と、少ない時間を使って学ぶ学習者向けの教材の2種類が用意されたことになる。

中国中等教育日本語教師研修における観察型教師研修の意義
―中国東北三省・内蒙古自治区高校生プロジェクトワークでの教師の気づき―

本文【PDF:1,251KB】
松浦 とも子・柳坪 幸佳・鈴木 今日子

中国の中等教育日本語教師研修は、2003年から中国教育部直轄の教科書出版社である人民教育出版社と国際交流基金北京日本文化センターが共催で実施している「春季・夏季全国中等教育日本語教師研修」、及び当センター主催で2011年度から始まった「東北三省・内蒙古自治区高校生プロジェクトワーク」と並行して引率の教師に対して行われている「観察型教師研修」がある。「観察型教師研修」での教師の視点と気づきを分析した結果、視点は「生徒」と「内容」に向けられており、その分析レベルの多くは、「生起している事実」「観察者の印象や価値判断」に留まっているものの、内省と改善への意志に結びついていることがわかった。
「観察型教師研修」のようなタイプの研修と、従来からの全国研修はそれぞれに果たす役割があり、今後は各研修の特徴を生かし、地域や参加者、内容を系統立てて実施していくことが求められる。本稿では「観察型教師研修」の意義を確認すると共に、中国における中等教育日本語教師研修について整理し報告する。

『まるごと 日本のことばと文化』における海外の日本語教育のための試み
本文【PDF:2,102KB】
来嶋 洋美・柴原 智代・八田 直美

『まるごと 日本のことばと文化』は国際交流基金が開発中の相互理解のための日本語教科書である。本稿では『まるごと』が、日本語の運用力と異文化理解をどう捉え、教材化したかを述べた。まずJF日本語教育スタンダードで従来の日本語教育におけるレベル設定を見直し、これまで認識されていなかったA1レベルという熟達度を取り入れた。また、学習目標は具体的な言語行動の形(Can-do)で表わし、これによって運用力も評価する。次に日本語の教え方を見直し、学習活動を考える上では習得の認知的プロセスを参照し、言語インプットを重視した指導法を取り入れた。異文化理解能力を養うためには、知識、技能、態度の側面に働きかけた。さらに本稿では相互理解につなげるために『まるごと』で学習する談話の例についてもとりあげる。現在、海外で本書を試用している教師からは、学習者に聴解力がついてきた、積極的に話そうとするなど、肯定的な反応を得ている。

理工系大学院留学生の日本語使用に関する一調査
本文【PDF:2,437KB】
羽吹 幸・篠原 亜紀

国際交流基金日本語国際センターは、放送大学との共同プロジェクトとして「理工系大学院留学生のための日本語オンライン教材」の開発を進めている。教材を開発するにあたり、理工系大学院留学生が大学生活や日常生活においてどのように日本語を使用しているかを探るため、アンケート調査を行った。また、アンケート調査の結果に基づき、理工系大学院留学生のグループプロファイルを作成した。グループプロファイルから、理工系大学院留学生の日本語使用場面は幅広く、さまざまな場面で日本語の使用が求められていることがわかった。研究生活で英語を使用している留学生であっても、指導教員や研究室メンバーとの研究以外のコミュニケーションにおいては主に日本語を使用している。日常生活においても人との交流のために日本語の使用が必要とされている。また、手続き等で書類に必要事項を記入するという言語活動が多く見られた。

報告

第1回全豪日本語教育シンポジウムの報告
本文【PDF:745KB】
中島 豊

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