日本語教育通信 にほんごハローワーク 第10回

にほんごハローワーク

第10回勉強は楽しく!

Q1:現在のお仕事について教えてください。

 記者、ジャーナリスト兼フォトグラファーの仕事をしています。日本語で取材をして、写真を撮って、1ページから3~4ページくらいの記事を英語で書いて、海外の雑誌やWEBサイトに売り込みます。毎月記事を送っている雑誌もありますし、原稿を頼まれることもあります。

 航空会社の機内誌のための有名人のインタビューもするのですが、1時間半ぐらいの録音を全部翻訳するには1日から1日半くらいかかるんです。集中しないといけないので結構つらい仕事ですね。でも日本語で取材をする外国人の記者は少ないし、「外国人の記者に取材されたことないからやってみよう」という人が多いのか、日本人のフリーランスの記者だったら絶対取材できない人を取材できることもあるんですよ。

Q2:ジャーナリストになるまでの経緯を教えてください。

 1997年に大学を卒業後、イギリスとは違う文化を経験しようと思い、ロンドンで日本の英会話学校の面接を受けました。面接に合格して、英語の教師として愛知県の豊橋に派遣されて1年間仕事をしたのですが、大学ではラテン語を勉強していたので、日本語は全くわからなかったですね。

 その後は隣町の豊川にあるエンジニアリングの部品メーカーで1年半くらい、英語のカタログの文章を校正したり、展示会で海外のお客さんと話したり、ポスターを作ったりしていました。

 そろそろイギリスで仕事をしようと思って帰国し、ロンドンで銀行や旅行会社、日本大使館など日本語が使える仕事を探し、産経新聞の特派員の助手になりました。特派員というのは、政治もスポーツもその国の全部のニュースを担当しなくてはならないんですね。ウィンブルドンの取材から大臣のインタビュー、テロ事件やビジネスの取材まで何でもやったので、最高のジャーナリズム入門になったと思います。

 その仕事を始めてから、文部科学省の奨学金があることを聞いたんです。自分の日本語のレベルに納得できなくてもうちょっと勉強したいと思っていました し、東京に住んでみたかったこともあって応募しました。奨学金があるので、1年半くらい勉強だけできるのでいい制度ですね。

Q3:来日前の日本語に対するイメージはどのような感じでしたか?

 堅かったです。戦争映画で40歳、50歳の軍隊のおじさんがどなっている、変な言葉でしかなかったですね。実際に日本に来てみると、英会話学校の日本人の先生がみんな女性でしたので、やわらかい感じがして、これはきれいな言葉だなと思いました。あと、丁寧語があると知った時は面白い言葉だなとも思いましたね。

Q4:来日して戸惑ったことはありますか?

 初めて作った日本料理が焼きそばだったのですが、インスタント焼きそばの説明が読めないので、粉末ソースをお湯に入れて、鍋で麺を茹でてしまったんですね(笑)。"まずいなあ、日本食はもっとおいしいはずなのに"と思っていました(笑)。

Q5:日本語の勉強はどのようにしたのですか?

 最初の来日から半年間は、忙しくて勉強できなかったので、ただ聞いていただけでした。でも、言葉としてではなく音として聞いていればどんどん慣れてきますし、文法がわかるようになれば話せるようになるので、聞くことは大事なことだと思います。
エンジニアリングの会社で働いていた時は、わからない言葉で役に立ちそうな言葉があると単語カードに書いて、定期的に復習するということをずっと続けていました。この頃が一番勉強していた時期で、1年半の勉強で日本語能力試験の2級をとりました。日本語の教科書があまりなかった頃なので、買えるものは全部買って、模擬試験も全部やりましたね。

 勉強するときは好きな勉強をすればいいんです。教科書だけじゃなくて、簡単な小説を読んだり、好きな映画を何回も観て、出てくる言葉を勉強したり…。僕が大学で勉強していたラテン語は昔の言葉なので、ぱっと理解できなくて、同じ文章をずっと見てやっと理解できるんですね。ラテン語の先生に言われたのは、「1つか2つ好きな詩を見つけてベッドへ持っていって寝る前に読めばいい。好きにならないと勉強にならないから」って。

Q6:どんな本や映画で"好きな勉強"をしたのですか?

 初めて読んだ日本語の本は、友達が勧めてくれた相田みつをの本でした。読んでいくとわかりやすいものがありますよ。マンガは、同僚が勧めてくれた浦沢直樹の『MASTERキートン』。これは結構難しかったですね。『恋の門』はオタクのマンガなのですが、面白いんです。マイナーだけど、実はものすごく上手に書かれていて、漫画ですが文学みたいだと私は思っています。おすすめです。

 宮崎駿と小津安二郎の映画はほとんど観ています。小津の映画に出てくるのはシンプルで庶民的な生活が多く、日本人の考え方や家族に起きた社会的な変化を描いているので、映画を観ると、今の日本はどうしてこのようになったかが少しわかるようになると思います。北野武の『菊次郎の夏』をロンドンに帰った時に観たのですが、子供が行く田舎が豊橋だったんですね。現在の豊橋は愛知県で2番目に大きくて全然田舎じゃないのに、映画ではすごい山奥だったのが面白かったです(笑)。

思い出の本 左より、『にんげんだもの』『恋の門』『PLUTO』の写真
思い出の本 左より、『にんげんだもの』『恋の門』『PLUTO

Q7:日本語の勉強におすすめのマンガを教えてください。

 漫画が初めての場合、4コママンガが一番いいですね。元々短いし、時々言葉が入ってないものもありますし。それと『サザエさん』は昔の日本を描いていますが、わかりやすいので勉強になると思います。あと『ドラえもん』など子供のマンガもいいですね。

Q8:マンガやマンガ好きであることがお仕事に役立っているそうですね。

 ロボットの記事を書いていた時、日本人はどうしてそんなにロボットが好きなのか、日本人と西洋人のロボットのイメージが違うのはなぜかと思ったので、ロボットのマンガ『PLUTO』を描いた浦沢直樹さんにインタビューしました。

 あとは、日本の風刺漫画と政治の漫画の記事を書いた時には弘兼憲史さんにインタビューしましたし、『ブラックジャックによろしく』のように、よく取材されている、ジャーナリズムに近いマンガを読むと、記事のアイディアがよく浮かんで来るんですよ。

Q9:今、一番関心をもっていることは何ですか?

 色々なトピックをリンクすることです。たとえば、今、築地の市場が豊洲に移転するかどうかという問題がありますね。築地市場の移転は政治と関係があるので、築地に関する長い記事を書く場合、日本の食文化や歴史はもちろん、政治のこともわからないと記事が書けない。つまり、ひとつのトピックが他の話題とリンクして、どんどんつながっていくところがおもしろいですね。

 あとは職人さんの記事をよく書いています。最近取材した、富士山の絵を描く銭湯の絵師は、今2人しかいない。しかも、この2人の方がそろそろ引退しそう なのです。また、東京の船大工には弟子がいないそうです。なくなってしまうものを記録して、外国人のために記事を書いていきたいですね。

 多くの特派員は政治や経済の記事ばかり書いていますが、僕が書きたいのは日本人の生活です。普通に取材されない人やワーキングプアの問題なども取材しようと思っています。カメラを活かしながら文章も写真も使って、見えないところを読者に見せていきたいです。

歌舞伎の小道具を作る藤波小道具にて取材中のトニーさん ©Mattias Westfalk の写真
歌舞伎の小道具を作る藤波小道具にて取材中のトニーさん ©Mattias Westfalk

Q10:日本語を勉強中の方々へ励ましのメッセージをお願いします。

 海外での一番大きな問題は毎日日本語を使えないことだと思います。日本人の友達を作るとか、テレビや映画を観たり、J-POPなど音楽を聴くのもいいと思います。言葉の勉強は楽しみながらやる方がいいですよ。

関連ウェブサイト:

参考書籍情報:

  • 『新版 にんげんだもの 逢』
     相田みつを 著、角川出版社 刊、\480
     www.kadokawa.co.jp
  • 『恋の門』(全5巻)
     羽生生純 著、ビームコミックス 刊
     1・2巻 \924、3~5巻 \998円
     www.enterbrain.co.jp/comic/
  • PLUTO
     浦沢直樹、手塚治虫 著、手塚 真 監修、小学館 刊、\550
     www.shogakukan.co.jp

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