日本語教育通信 日本語の教え方 イロハ 第12回

日本語の教え方
このコーナーでは、基本的な教授理論、教授知識を解説します。
日本語教授法に関する基礎固め、知識の再点検にお役立てください。

【第12回】教え方を改善する—授業をふり返る—

日本語国際センター専任講師 古川嘉子

 「授業が何だかうまくいかない」「学習者の日本語がなかなかうまくならない」など、教えていると様々な悩みが出てきます。そのような悩みを解決するためには、まず、教師が自分の教え方をふり返って問題や課題を発見し、問題の原因を明らかにすることが必要です。さらに、その問題を解決するための新しい方法を取り入れて実行すること、そしてその効果を確認することが必要だと思います。ここでは、教え方の改善の一歩となる授業のふり返りの具体的な活動をご紹介します。ご紹介する活動は、一人でも、また同僚や教師仲間との勉強会でも利用できます。

「教え方を改善する」とは

 「教え方を改善する」とは、今の教え方よりも効果的な教え方を考えて実践する(=実際に教える)ということです。教え方を改善するために必要なのは、(1)日本語教育や学習について新しい知識や技能を学んで身につけることと、(2)自分の教え方をふり返ることの2つにまとめられます。図1の(2)に、教え方を改善する4つの段階をまとめました。4つの段階とは、①問題の発見、②改善の計画、③改善の実行、④改善の評価・行動のふり返りです。
 教師は、自分の授業をふり返り、教え方を改善する経験をくり返しながら、成長していくものだと考えます。自分が考えたことや実際にやったことについて、あとでふり返って考えることを「内省」と言います。筆者は、日々の授業などの際にふり返ることを通して、教え方を改善するための内省ができるようになり、教師として成長していくと考えます。
 ここでは、(2)を取り上げ、ふり返りの具体的な方法や教え方をふり返り、改善に結びつける流れを見てみます。

教え方の改善の図

日本語の授業をふり返る

 ただ、ひと口にふり返ると言っても、何を、どのようにふり返るのかよくわからないという人もいるかもしれません。まず、何をふり返るのかについては、以下の3つが考えられます。

  1. 自分の教え方と学習者の学び方
  2. 地域や社会の中での学習者や日本語教育の役割
  3. 日本語教師としての自分のこれまでとこれから

 上の中のどれか1つに焦点をあてて考えると、具体的にふり返ることができるでしょう。そして、コース全体か、ある1回の授業かなどふり返る期間や範囲を考えたり、どのような方法でふり返るかを考えたりします。
 自分の教え方をふり返る場合、教師にとって一番身近なのは毎日の授業をふり返ることだと思います。そのために、授業日誌を書いたり、教案にメモをしたりしている人もいるでしょう。毎日の授業をふり返る方法の1つとしてチェックリストがあります。
 チェックリストは、授業をする上で自分が大事だと思っていることや、その日の授業の目標などをリストにしたもので、それを使って、授業が終わってから、計画したことが実行できたか、目標が達成できたかを確認することができます。 どのように利用するのかをA先生の例で見てみましょう。
 A先生は、大学の日本語専攻の2年生を担当しています。教えはじめて5年目です。初級の日本語を教えることにはあまり問題がないと思っていますが、なんとなくこれでいいのか、何か改善できることがありそうだと感じています。そこで次のようなチェックリストを作って、3週間続けてみました。以下は、そのチェックリストの一部です(国際交流基金2010、p.29-30)。

チェックリスト
  月日
2月16日 2月19日
授業の内容 『みんなの日本語Ⅱ』38課 『みんなの日本語Ⅱ』39課
1)授業はうまくいったか ロールプレイが予定通りできた。 語彙の質問で時間がかかった。
2)学習者は目標となることを学んでいたか 1つのグループが、ロールプレイを終えられなかった。 ×質問に答えていて時間がなくなり、ロールプレイができなくなった。
3)学習者全員が授業に参加していたか みんな積極的に参加していた。 質問はたくさん出た。
4)学習者にとっておもしろい授業だったか みんな積極的に参加していたから、多分おもしろい授業だっただろう。 ビデオを見ているとき日本について質問が出た。

 A先生は、授業がうまくいったか、授業の目標を学んでいたか、学習者が授業に積極的に参加しているか、おもしろい授業だったかをチェックリストで確認しようとしています。それぞれについて、教師としての自分や授業中の学習者のどんな行動で確認できるでしょうか。
 まず、1)「授業はうまくいったか」については、その授業で予定した内容を全部教えることができたか、だいたい教師の予想通りの展開だったか、予想外のことがあっても授業の目標を変更することなく授業が進められたか、特に問題になることがなかったかなどから総合的に判断できます。また、2)「学習者は目標となることを学んでいたか」については、学習者がその授業の目標達成を確認する活動がどのぐらいできたかで判断できます。3)「学習者全員が授業に参加していたか」については、教師の質問に対する学習者の反応や発話量でわかるでしょう。そして、4)「学習者にとっておもしろい授業だったか」は、学習者の表情や授業への参加度からある程度判断することはできますが、学習者の本当の気持ちまではわかりません。4)について詳しく知りたい場合には、学習者にアンケートをするという方法も使えるでしょう。このように、ふり返る方法を工夫していくことで、ただ教師としての自分の印象を思い出すだけではわからない情報を得ることができます。そこでわかったことについて考えることで、自分の教え方にどのような課題があるかがはっきりとしてきます。そして、その課題がどんなことに関係しているのかを考えていきます。それは、自分の学習内容についての知識や教授技術、さらに目標の設定、そのコース全体の進め方などをふり返ることにつながります。このように毎回の授業でのふり返りを繰り返していくことで教え方の改善案が見えてきます。

ほかの教師とともにふり返る

 読者の中には、自分だけでは何が課題かわからない人もいるでしょう。そのような場合、より効果的に、そして客観的にふり返るためには、ほかの教師とともにふり返ることをお勧めします。ほかの人に説明することで自分の問題がはっきりしますし、相手からアドバイスをもらえるかもしれません。また、自分の課題がはっきりわかっている人でも、ほかの人と話し合うことで、それぞれの人が持ついろいろな角度からの見方が参考になったり、自分では考え付かない解決策を得られたりして、改善に役に立つと考えます。たとえば、教師同士の勉強会や研究会を開くのは、みんなでふり返るためのよい機会となるでしょう。もっと簡単な方法として、職場での同僚の教師とのおしゃべりも大切なふり返りの機会につながります。
 ぜひ、無理なく、楽しくできるふり返りの方法をみつけて、教師としての学習を続けていってください。

【参考文献】
国際交流基金(2010)『国際交流基金日本語教授法シリーズ13 教え方を改善する』ひつじ書房

ページトップへ戻る