日本語教育通信 日本語の教え方 イロハ 第13回

日本語の教え方
このコーナーでは、基本的な教授理論、教授知識を解説します。
日本語教授法に関する基礎固め、知識の再点検にお役立てください。

【第13回】文字・語彙を教える

日本語国際センター専任講師 木田真理

 日本語の文字・語彙の学習は、どちらも覚えなければならないものが多いという特徴があります。学習者は、日本語学習初期から、ひらがな、カタカナ、そして漢字に向き合い、地道に努力を重ねる必要があります。皆さんの学習者は、どのように文字・語彙の学習に取り組んでいますか?単調になりがちな文字・語彙の学習では、学習者がただ暗記するような学習方法以外にも、いろいろな方法があることを知り、自分に合う学習方法を見つけ、自律的に学習を進められるようになることが重要です。
 ここでは、そのための具体的な導入例や教え方のポイントを紹介します。

ひらがな・カタカナ

 ひらがな、カタカナの学習目標は、1つ1つの文字の読み書きができるようになることですが、教える観点からは次の2つに目標を分けて考えるとよいでしょう。

  • かなの字形を見て、音がわかること(読み)
  • 音を聞いて、かなが書けること(書き)

 かなの「読み」の導入には、「五十音表」やいろいろな「文字カード」などが使われますが、ここでは、「連想法(アソシエーション法)のカード」を紹介します。

チェコ語の連想法のカード
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 ひらがな・カタカナ(文字)の連想法は、文字の字形を短期間で覚えられるように工夫した記憶術です。学習者の母語で語頭にその文字に近い発音を持つことばを、絵で学習者に提示します。その絵には、日本語の文字が重ねて書いてあり、絵から音と字形を連想させることによって、印象深く覚えることができ、学習者の記憶を助けると言われています。例えば、チェコ語が母語の学習者に「く」という文字を導入する際に、日本語の「く」の音に近い音を語頭に持つ「kukačka」(クカチカ・意味は「カッコウ」)という単語を絵で示しながら、日本語の「く」の音を聞かせます。学習者は、「く」という文字を見たときに、この絵とともに、「kukačka」の「く」の音を思い出します。連想法のカードは、すでに英語、韓国語、タイ語、インドネシア語、ポルトガル語、ドイツ語、アラビア語など、いろいろな言語で作られています。下のカードは、「く」の、英語(ワライカワセミ)、韓国語(曲がった道)、タイ語(掘る)の例です。学習者に、自分の母語を活用したカードを作ってもらう活動もよいでしょう。

 かなの「書き」の導入には、指や筆を使う方法などが多く使われていますが、体全体を使う方法もあります。指で背中に文字を書く「背文字あてゲーム」や、体操やダンスのように体を動かすことで、文字を空中に描く活動などがあります。また、ひらがなは、曲線的な丸い形、カタカナは、直線的で角ばった形という特徴を利用して、「ひらがな太極拳」「カタカナ空手」などをやってみることも、体全体で日本語の文字の形や書き方の特徴が実感できる活動です。学習者の年齢や好みによって、いろいろな導入方法を試みてはいかがでしょうか。

漢字

 漢字の教え方を考える上で重要なキーワードは、「画数、筆順、パタン(パターン)、部首、音符、字源」などです。ここでは、パタンについてとりあげます。

 学習者の中には、漢字を、複雑に線が入り組んだもののように見ている人もいます。そのような場合は、漢字をパタンに分けてみる練習をするとよいでしょう。パタンは1つの漢字を2つの部品に分ける分類方法で、左右型・上下型・構え型・全体型の4種類あります。左右型は、「外・休・行・校」、上下型は、「学・見・書・毎」、構え型は、「間・国・道・店」のように外(囲み)と中に分けることができ、全体型は、「上・中・下・九」などの分けられない漢字です。右図のような練習があります。
 漢字学習は、「導入期」、「漢字を整理しながら増やす時期」、「自律的に漢字を増やす時期」と、段階に分けて考えることができます。100字程度ぐらいまでの「導入期」では、1字1字を丁寧に指導するだけでなく、学習者が漢字や漢字学習に興味を持てるようなきっかけを用意する必要があります。またその後の学習に役立つ基礎的な知識や便利なツールを知らせたりすることも必要です。次の「整理しながら増やす時期」は、新聞に使われる漢字の80%という目安でもある500字程度と考えます。覚える漢字が増えていくこの時期は、機械的に暗記し続けるのではなく、記憶に残りやすくする工夫が必要です。漢字の部首の意味を教えたり、反意語や同音異義語、送り仮名などを意識させたりして、学習者に漢字の持つ意味に注目させるとよいでしょう。そして、学習した漢字が500字を超え、1,000字、2,000字と増える「自律的に漢字を増やす時期」では、これまでと同様に学習を積み重ね、習得した漢字やその知識について整理する必要があります。「漢字」を「語彙」として捉え、学習を進めていく、すなわち、漢字とともに語彙を学ぶ、語彙とともに漢字を学ぶという観点も必要です。

語彙

 みなさんは、授業の中で、学習者に新出語の意味をどのような手段で伝えていますか。
 「母語の訳語(母語で対応する語)を与える」、「実物、写真、絵、図表、ビデオ、動作などで示す」、「日本語で言い換える、日本語で説明をする」など、意味を伝える方法はいろいろあり、1人の教師も、ことばによって教え方を変えたり、方法を組み合わせたりしていると思います。それぞれの長所、短所を整理し、その特徴を生かして、いろいろな方法を試してみましょう。
 また、新出語を導入するときに、すぐに意味を教えるのではなく、まず学習者に意味を考えさせ、そのあとで正しい意味を教えるという方法もあります。このような方法は、意味を与えずまず考えさせるので、学習者はその語に注目します。そして、その語について深く考えることにより、記憶に残りやすくなります。さらに、学習者が意味の推測を経験することで、どのような手がかりに注目し、どのように推測すればいいのか意味推測のための知識と方法を深めることもできます。
 意味推測の手がかりは、「温暖化」と「走り出す」などの、「~化」「~出す」といった語形から推測可能なものと、「支度」や「あわてる」など、単語だけでは、推測が難しいものがあります。そのような場合は、次のようなわかりやすい文脈の中で推測させるとよいでしょう。

  • 私の家では、食事の支度は母がするが、食後の片付けは子どもたちがすることになっている。
  • 電車の中で眠ってしまった。目が覚めたら電車は見慣れない風景の中を走っていた。今日は大事な試験がある。あわてて次の駅で飛び降りたら、かばんを電車の中に置き忘れてしまった。

 新出語の意味を推測させる活動は、読解や聴解の授業でも行うことができます。読解や聴解の力をつけるためには、わからない語が多少あっても、それを推測したり、無視したりして、全体の内容を理解しようとすることが重要です。ただし、全ての新出語について意味推測をさせたほうがよいわけではありません。読解や聴解の授業で新出語を扱うときの目安として、次のような考え方があります。

読解や聴解の授業で新出語を扱うときの目安の図

 以上のように、文字や語彙の学習は、学習段階や目標の目安、学習方法などを具体的に示し、学習者が自分で学習方法を工夫できるような力を身につけさせることが重要な視点です。皆さんも、実際の授業でさまざまな活動を取り入れ、工夫してみてください。

【参考文献】
国際交流基金(2011)『国際交流基金日本語教授法シリーズ3 文字・語彙を教える』ひつじ書房

画像の出典

  1. (1)チェコ日本語教師会(2007) Obrázková HIRAGANA-Zábavná učebnice japonského slabičného písma, チェコ=日本友好協会、Czech.
  2. (2)Quackenbush H.andM.Ohso(1999)HIRAGANA/KATAKANA in 48 minutes teacher guide, Curriculum Corporation, Melbourne, Vic Australia.
  3. (3)大韓民国教育部(2001)『中学校生活日本語-こんにちは-』大韓教科書
  4. (4)The Japan Foundation Bangkok(2009)『絵と音で楽しくおぼえよう ひらがなカード』国際交流基金(非売品)
  5. (5)西口光一監修、新矢麻紀子・古賀千世子・髙田亨・御子神慶子著(2000)『みんなの日本語初級Ⅰ漢字 英語版』スリーエーネットワーク
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