日本語教育通信 本ばこ 『自発学習型 異文化コミュニケーション入門ハンドブック』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

異文化について身近な例から自分の答えを探すための練習帳
『自発学習型 異文化コミュニケーション入門ハンドブック』

編著者:
中村良廣著、石丸暁子編
出版社:
松柏社(http://www.shohakusha.com/

『自発学習型 異文化コミュニケーション入門ハンドブック』表紙

書籍情報: http://www.shohakusha.com/detail.php?id=b0000000701
発行日: 2014年9月
ISBN: 978-4881987018
判型・頁数: A5判 77ページ

 異文化コミュニケーションについて考えることは、言語の学習者・指導者、とりわけ日本語教師にとって、とても大切なことです。
 本書は異文化に接した体験があまりない大学生(日本人)を対象に、専門用語や理論的説明を抑えて、著者自身の体験に基づいた具体例から異文化コミュニケーションについて考えさせるための教材です。

本書の構成

本書は15章で構成されていて、各章のタイトルは以下の通りになっています。

第1章 文化って何だろう
第2章 見える文化と見えない文化
第3章 カルチャーショック
第4章 ステレオタイプ
第5章 価値観の違い
第6章 間のとり方と話し手の交代
第7章 文脈の重要性
第8章 集団主義と個人主義
第9章 異文化に慣れる
第10章 差異を楽しむ
第11章 外国語の学習
第12章 聞く力と伝える力
第13章 交渉する力
第14章 異文化コミュニケーション・スキル
第15章 静かな教室と白熱する教室

 各章にはトピックごとの解説にまじって、1つから6つのエクササイズ(5から15分の時間制限付き)があります(全部で48)。そこでは異文化コミュニケーションに関する自分の体験や考えを列挙したり分析したりして書き込むようになっています。
 例えば、第9章の「異文化に慣れる」では、「街中で道に迷っている外国人を見かけました。あなたはその時どうしますか。」とか「異文化に慣れるために、どのような方法が考えられますか。思いつくままに記述してください。」というようなエクササイズがあります。
 また、各章最後には「英語の表現も学ぼう」という日英語で併記した専門用語のリストと、その章で学んだことや思ったことなど自分の意見を書き込むOpinionという欄が設けられています。

「自発学習型教材」

 本書の狙いは、異文化コミュニケーションの理論や用語を講義のように教えるのではなく、学生が、身近な具体例から自分で自分の答えを探すことができるようになることです。その意味で、「自発学習型教材」という言葉が書名に使われています。
 エクササイズは一人で答えるには難しいものが多く、解答例もないので、独習には向かないと思います。教室で用いる場合、指導者は十分なインプットを行ない、学生が答えやすい環境も作らなければなりません。また、学生から出た答えにどう反応し、最終的に学習させたい事項にどのように関連させるかなどの準備も入念に行う必要があるでしょう。指導者の力量が試されるところですが、「学習者中心」に重きを置いているという点では興味深い1冊です。
 本書の対象は主に日本人大学生ですが、学習者の興味や教授トピックにあわせてエクササイズを適宜変えることによって、対象を拡大することも可能でしょう。
 また、本書の説明やエクササイズはアメリカ社会・文化との比較が中心ですが、よりグローバルな視点から考えさせることも必要でしょう。

『自発学習型 異文化コミュニケーション入門ハンドブック』6ページ『自発学習型 異文化コミュニケーション入門ハンドブック』7ページ

(生田 守/日本語国際センター専任講師)

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