日本語教育通信 本ばこ
『留学生の見た漢字の世界―漢字学習への創造的アプローチ―』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

学習者と漢字が「友達」になるには
『留学生の見た漢字の世界―漢字学習への創造的アプローチ―』

『留学生の見た漢字の世界―漢字学習への創造的アプローチ―』表紙の画像

編著:林 さと子・関 麻由美・齋藤 伸子
出版社:春風社
発行日:2017年12月1日

ISBN:978-4-86110-568-5
判型・頁数:B5判 108ページ

 本書の紹介文には、「わたしは漢字が好きですが、漢字はわたしを嫌いです」という、留学生のことばが書かれています。どうしたら学習者が漢字と「友達」になれるのか、悩んでいる先生たちは多いのではないでしょうか。本書は、そんな先生方にぜひ手にとっていただきたい、漢字クラスの実践報告とその背景にある理論を紹介した参考書です。

留学生の漢字マップ作品集

 本書の構成は、第一部「漢字学習と創造性をめぐって」(筆者らによる座談)、第二部「留学生の見た漢字の世界<作品集>」、第三部「漢字学習の実践と理論」(論文、実践報告)となっていますが、本書の大きな魅力は、第二部の「漢字マップ」の作品集です(下の図参照)。
 筆者らのクラスでは、学生は毎週、生活の中で見つけた漢字語彙を使って「漢字マップ」を作り、発表しています。「漢字マップ」には、中央に選んだ漢字語彙を書き、その周囲に漢字の字形の分析や読み方、意味、そして学生自身のエピソード(「どこで見つけたか」「なぜみんなに紹介したいか」など)を並べ、結び付けます。

  • P11 日本人学生に教えてもらった難しい漢字「鬱」の画像
    P.11 日本人学生に教えてもらった難しい漢字「鬱」
  • P39「指輪」をもらって車で教会に行くイメージの画像
    P.39「指輪」をもらって車で教会に行くイメージ

 丁寧に描かれ、きれいに色づけされた作品から、一人ひとりの生活やさまざまな思いが見えてきます。自分の「漢字マップ」を作るだけでなく、授業でほかの学生の作品を楽しみながら、学生と漢字の距離がどんどん縮まっていったことが想像できます。

創造性(creativity)に着目した漢字学習とは?

 本書で報告されている実践のキーワードは、副題にもある創造性です。第三部で、筆者らは漢字学習における創造性とは「学習した漢字を自分なりに再文脈化すること」(p.90)だと述べています。まず、学生は自分が選んだ漢字の「漢字マップ」を描くときに創造性を発揮しますが、作品を見せながら、その漢字語彙を見かけた場所や、自分との関係などのエピソードを発表すること、お互いに質疑応答をすることもまた創造性に関わります。さらに、授業では、発表の後で、その日の漢字語彙を全部使って、学生たちがひとつのストーリーを作ります。例えば「私にとっての<桃源郷(とうげんきょう)>は、<殲滅(せんめつ)>も<絶望(ぜつぼう)>も<梅雨(つゆ)>もなく、<可愛い(かわいい)>猫がいっぱいいて、みんなが<爆笑(ばくしょう)>している<楽園(らくえん)>です」(p.75、< >内はその日に紹介されたことば)のように、何のつながりもなかった漢字のことばが、学生たちの想像力と創造力によって、新しい文脈の中に位置づけられます。

 こうした活動を通して学んだ学生は、教室の外でも漢字に注意を向けるようになり、ほかの学生が選んだ漢字語彙を、興味を持って学んでいたそうです。筆者たちは、この実践が学生の相互学習のネットワークや協働的な学びにもつながっていったと分析しています。
 本書を読めば、さらに、学生たちの作品を見れば、創造性が漢字に対する心理的な距離感や苦手意識を減らし、漢字と「友達」になるためのひとつの鍵になるということが理解できるはずです。

(八田 直美/日本語国際センター専任講師)

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