日本語教育通信 文法を楽しく「表現意図 -義務-」

文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

表現意図 -義務-

 「表現意図」シリーズ3回目の今回は、「義務」について考えます。
 義務とは、「人が人として、あるいは、立場上、身分上、当然しなければならないこと」を指します。義務には法律的な義務と、道徳的な義務がありますが、ここでは特に区別せず、「義務」として取り上げます。
 会話(1)では、話し手BはAに対する答えを、自分の「意志」として表したり、「義務」として表したりしています。

  1. (1)
    A:
    もうこんな時間ですね。どうしますか。
    B:
    1. a.あ、もう帰ります。
    2. b.あ、もう帰ったほうがいいでしょう。
    3. c.あ、もう帰らなければなりません。
    4. d.あ、もう帰らないといけません。
    5. e.あ、もう帰らなくてはなりません。

 aは帰ることを自分の「意志」として表現し、bはもう少し客観的に、他者から見てそのほうがいいだろうという判断を加えています。c~eは帰ることを自分としてしなければならない「義務」としてとらえています。
 では次に、すべて義務表現を用いて自分の判断を表している例をみましょう。「義務」も自分自身に向けた場合と、他者に向けた場合があります。1.には話し手自身に向けた義務表現を、2.には他者に向けた義務表現を取り上げます。

1.話し手自身に向けた義務

 会話(2)は会社の中での池さんと林さん会話です。2人はあるプロジェクトに関わっていて、林さんはそのプロジェクトのリーダーです。

  1. (2)
    池:
    林さん、課長への説得はうまくいきそうですか。
    林:
    ええ、そうですね…、少し難しいかもしれません。
    1. a.でも、リーダーとしてやらなければなりません。
    2. b.でも、リーダーとしてやらないといけません。
    3. c.でも、リーダーとしてはやらなくてはなりません。
    4. d.でも、リーダーとしてやらざるを得ません。
    5. e.でも、リーダーとしてやらないわけにはいきません。

会社員2人が会話をしているイラスト

 会話(2)のa~eは、リーダーの林さんが課長への説得を自分自身の義務と考えて発した文です。a~eの義務表現を整理すると次のようになります。

    1. 1)~なければ+ならない、~なければなりません
    2. 2)~ない+と+いけない、~ないといけません
    3. 3)~なくては+ならない、~なくてはなりません
    4. 4)動詞ナイ形+ざる+を+得ない、~ざるを得ません
    5. 5)動詞ナイ形+ない+わけにはいかない、~ないわけにはいきません

 1)の「~なければならない」は義務表現の代表的なものですが、やや形式的で硬い響きがあります。もう少し自然な形として、また会話体として、2)の「~ないといけない」がよく用いられます。ただし、「~ないといけない」は「いけない」(例:タバコはいけない、居眠りをしてはいけない)を含んでいるため、禁止のニュアンスがあり、やや強く響きます。
 3)の「~なくてはならない」と、1)の「~なければならない」はほぼ同じ意味になりますが、前者のほうがやややわらかく、口語的な響きがあります。
 4)「~ざるを得ない」は書きことば的な表現で、意味としては「そのほかに選択肢がないから」「仕方がないから」そのことをするというニュアンスを持ちます。dでは、「課長への説得はしたくないけれど、自分はリーダーなのだからやるほか仕方がない」という意味になります。
 5)の「~ないわけにはいかない」は、常識や社会通念、過去の経験に照らして「そうしないのは不可能だ→そうしなければならない」という意味になります。リーダーというものに対する社会通念から考えて、課長への説得はリーダーとしての義務だということになります。

2.他者に向けた義務

 次は、池さんが、林さんにではなく、他のメンバーの畑(はた)さんに相談した場合の会話です。

  1. (3)
    池:
    林さんが課長を説得したほうがいいですか。
    畑:
    1. a.ええ、(林さんが)リーダーとしてやらなければなりません。
    2. b.ええ、(林さんが)リーダーとしてやらないといけません。
    3. c.ええ、(林さんが)リーダーとしてはやらなくてはなりません。
    4. f.ええ、(林さんが)リーダーとしてやるべきです。

 会話(2)と比べると、(3)では、(2)d「~ざるを得ない」と(2)e「~ないわけにいかない」がなくなり、fとして「~べきだ」が加わっています。ここから、「~ざるを得ない」と「~ないわけにいかない」は他者に向けた義務表現として使いにくく、話し手自身に向けたものであることが分かります。一方、(3)f「~べきだ」は話し手自身の義務表現として使いにくく、他者に向けた義務表現であることが分かります。
 「~ざるを得ない」「~ないわけにいかない」を他者向けに用いる場合は、次のように表す必要があります。

    1. d’ええ、林さんはリーダーとしてやらざるを得ないでしょう
    2. e’ええ、林さんはリーダーとしてやらないわけにはいかないでしょう

 一方、「~べきだ」を話し手自身向けにするためには次のような修正が必要です。

    1. f’ええ、(私は)リーダーとしてやるべきかもしれません

 d’e’には話し手が林さんの気持ちを推し量る「でしょう」を、f’には話し手の婉曲的な判断を表す「かもしれない」を付けましたが、それらの代わりに「(だろう)と思う/思います」なども使うことができます。

 会話(2)(3)に出てきた義務表現をまとめると次の表のようになります。最後の2行に「わがこと」「ひとごと」とあるのは、話し手自身の判断や気持ちに用いられる場合を「わがこと」、他者への判断や気持ちに用いられる場合を「ひとごと」と表したものです。上に述べた「~ざるを得ない」「~ないわけにはいかない」は「わがこと」で、一方、「~べきだ」は「ひとごと」で用いられやすいことを表しています。〇印が両方ともある「~なければならない」「~ないといけない」などは、「わがこと」「ひとごと」どちらにも用いられることを表しています。

義務表現において話し手の表現意図を左右する7つの要因(ⅰ~ⅵ)のうち程度が高いものを示す表。「~なければならない」は実現性、明確性、丁寧度、プラス評価、わがこと、ひとごと。「~ないといけない」は、実現性、明確性、話しことば、わがこと、ひとごと。「~なくてはならない」は実現性、明確性、話しことば、プラス評価、わがこと、ひとごと。「~ざるを得ない」はわがこと。「~ないわけにはいかない」は実現性、話しことば、わがこと。「~べきだ」は実現性、明確性、プラス評価、ひとごと。

 表の1行目の「主観的」には〇が付いていませんが、a~fの義務表現は主観性が低く、何らかの考え・通念に照らしての判断ということが分かります。「~ざるを得ない」はⅰ~ⅵでは〇がありませんが、それは「~ざるを得ない」が客観的なとらえ方で、実現性、明確性、丁寧度については中立的で、書きことば的であり、マイナス評価のとらえ方だということが分かります。

3.他の義務表現の用法

 立場上、身分上しなければならないという「義務」ではないが、「そういう運命・宿命にある」という意味で義務表現を使うこともあります。次は祖母が亡くなった「母と子」の会話です。

<祖母が死んだということを聞いて>

  1. (4)
    子:
    おばあちゃん、死んじゃったの?
    母:
    1. a.そうよ。でもね、人間はいつかは死ぬのよ。
    2. b.そうよ。でもね、人間はいつかは死んじゃうのよ。
    3. c.そうよ。でもね、人間はいつかは死ぬものなのよ。
    4. d.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななけりゃならないのよ。
    5. e.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななくちゃならないのよ。
    6. f.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななきゃならないのよ。
    7. g.そうよ。でもね、人間はいつかは死なざるを得ないのよ。
    8. h.そうよ。でもね、人間はいつかは死なないわけにはいかないのよ。

 a~cは義務表現ではありませんが、d~hには会話(2)(3)で取り上げた義務表現が用いられています。
 (4)のbdefでは短縮形が使われています。標準の形にすると次のようになります。

    1. b.そうよ。でもね、人間はいつかは死んでしまうのよ。
    2. d.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななければならないのよ。
    3. e.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななくてはならないのよ。
    4. f.そうよ。でもね、人間はいつかは死ななければ/死ななくてはならないのよ。
母親の発話なのでa~gは女ことばになっていますが、男ことばにする時は、会話開始時の「そうよ」を「そうだよ」に、終了時の「のよ」を「ん(の)だよ」にするとよい。
参考文献
砂川他(1998)『日本語文型辞典』くろしお出版 165 −174

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

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