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C1レベルのロールプレイができました!
-JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテストマニュアル改訂-

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

日本語国際センター 教材開発チーム 専任講師 長坂水晶

やりとりのイラスト

 JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテスト(以下JFロールプレイテストhttp://jfstandard.jp/roleplay/ja/render.do)は、学習者の口頭能力を測ることができるテストです。これまで公開していたA1~B2レベルに、新たにC1レベルのロールプレイが加わり、JFロールプレイテストのマニュアルが改訂されました。
 この記事では、JFロールプレイテストについて、簡単に説明した後で、C1レベルの特徴とC1レベルのロールプレイの内容を紹介します。また、JFロールプレイテストをテスト以外で活用する方法も紹介します。

1. 「JFロールプレイテスト」ってどんなテスト?

 「話す力をできるだけ簡単に測りたい!」という、現場の先生方の声に応えて開発されたテストです。次のような特徴があります。

  1. 1.JF日本語教育スタンダード(以下JFS)のレベル基準を使って判定できる
  2. 2.ロールプレイを通じて「口頭でのやりとり」能力を測ることができる
  3. 3.短時間(約15分)で実施できる
  4. 4.テスト用キットを利用して準備すれば誰でもテストが実施できる
  5. 5.ロールプレイの話題や内容、テストの進め方を教育現場に合わせて変えることができる

 詳しくは2014年の記事(https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/news/201410.html)をご覧ください。
 このテストは、テスターと受験者がロールプレイを行い、タスクの達成度をみることで、学習者の口頭でのやりとり能力についてレベル判定をします。JFロールプレイテストではA1からC1の5つのレベルのロールプレイがあり、「A1未満」「A1」「A2」「B1」「B2」「C1以上」の6つのレベル判定ができます。C2レベルのロールプレイはありませんが、C1レベルのロールプレイの達成度によって受験者の力をおおよそ把握することができます。

2. C1ってどんなことができるレベル?

 JFロールプレイテストは、CEFRの尺度を基準にしています。CEFR (※1)では、言語の熟達度を大きくA,B,Cの3つの段階に分けて捉えています。

CEFR版のイラスト

※1 CEFRとは「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)」の略称です。

 C1は「熟達した言語使用者」のレベルです。どのようなやりとりができれば「熟達した言語使用者」なのでしょうか。CEFRでは、C1レベルの「口頭でのやりとり全般」のCan-do(※2)を次のように記述しています。

ほとんど努力する必要がないくらい、らくらくと流暢に、自然に言いたいことを表現できる。幅の広い語彙が使いこなせ、間接的な表現を使って即座に対話の隙間を埋めることができる。見て分かるような表現探しや、回避の方略はほとんどない。概念的に難しい話題だけが自然でスムーズな言葉の流れを邪魔する。

CEFR Can-do C1「口頭でのやりとり全般」>

※2 Can-doとは言語の熟達度を「~ができる」という形式で示した文です。

 日本語を使ったコミュニケーションでは、こうしたC1レベルの特徴は、どのような場面での、どのような口頭でのやりとりに現れるのでしょうか。JF Can-do(日本語を使ってどのような課題がどのぐらいできるかを例示した文)を見てみましょう。

企業の採用面接などで、社会問題とそれについての見解を問われたとき、幅広い視点から流暢に明快に答えることができる。相手の対抗的な質問や別の角度からの質問にも的確に対応することができる。

CEFR Can-do C1「インタビューする/受ける」>

 日本語によるC1レベルのやりとりは、採用面接のようなフォーマルな場面で流暢に受け答えができ、広い視点から物事を捉える必要のある話題について、意見や情報の交換が明快にできるレベルです。

3. C1レベルのロールプレイって?

【C1レベルで測定する能力】
 2で見たように、CEFR Can-doとJF Can-doにもとづき、ロールプレイテストで測定する能力を次のように設定しました。

C1 社会的な話題を扱ったフォーマルなインタビューで流暢に明快にやりとりができる

【C1のロールカード】
 C1レベルのロールカードを見てみましょう。C1レベルでは全部で6枚のカードを公開していますが、必ず、この①のロールカードから始めます。

ロールカード1の画像

【C1のタスク達成の手がかりとして引き出す内容】
 ロールプレイの中で、C1レベルのタスクが達成できる、つまり「社会的な話題を扱ったフォーマルなインタビューで流暢に明快にやりとりができる」と判定するためには、その証拠を引き出す必要があります。 その証拠となる内容が<C1のタスク達成の手がかりとして引き出す内容>です。

<C1のタスク達成の手がかりとして引き出す内容>

  1. 問題の具体的内容を社会的な影響や背景と関連づけて流暢に筋道立てて詳細に説明できるか。
  2. 問題を解決するための取り組みを、Ⅰで説明したことと関連づけて具体的に提案し、その効果が説明できるか。提案ができない場合は、その理由が説明できるか。
  3. Ⅱでやり取りした内容について、更に掘り下げた質問や別の視点からの質問をされたとき、それまでの議論と関連づけて、自分の見解を、補強したり修正したりしながら筋道立てて詳細に述べ、議論を続けることができるか。

 サイトでは、C1レベルのロールプレイの音声サンプルを公開しています。C1レベルのインタビューがどのように行われ、どのような内容が話されるのか、イメージを掴むことができます。
 「C1 ○の例」http://jfstandard.jp/movie_c1_2/ja/render.html
 「C1 △の例」http://jfstandard.jp/movie_c1_1/ja/render.html

以下では、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの証拠を引き出すための、テスターの質問例をあげます。

なお、テスターは、面接官としてできるだけフォーマルな雰囲気でやりとりをします。

  1. 問題の具体的内容を社会的な影響や背景と関連づけて流暢に筋道立てて詳細に説明できるか。

(Ⅰを引き出す質問の例)

テスター:
面接の最後に社会問題についてうかがいます。○○さんの国のニュースとして大きく取り上げられている社会問題には、どのようなものがありますか。まずは3分ぐらいで簡潔に内容を教えてください。私は○○さんの国の事情についてあまり詳しくないので、一般的な事情も含めて教えてください。
受験者 :
私の国では、日本のような分別のシステムがなく、もっと積極的にとりくむべきだという報道をよく耳にします。ごみの分別が行われないことが大きな社会問題になっています。
テスター:
分別が行われないことがなぜ問題なのでしょうか。社会的にどんな影響があるのか、もう少し詳しく説明できますか。
受験者 :
社会的には、ゴミの収集や、処理コストの上昇、それから、再生可能な資源が 有効利用されないことによる損失が考えられます…(後略)
  1. 問題を解決するための取り組みを、Ⅰで説明したことと関連づけて具体的に提案し、その効果が説明できるか。

(Ⅱを引き出す質問の例)

テスター:
では、この問題を解決するために、今後は社会としてどのような制度を準備する必要があると思いますか。
受験者 :
そうですね、できるだけごみを分別するように気をつけるべきだと思います。
テスター:
それでは、社会の制度というより、個人の取り組みが中心になってしまいますよね。
受験者 :
いえ、個人が取り組めるような社会的仕掛けが必要なので、社会自体を循環型に変えていく必要があると思います。…(後略)
テスター:
今の提案は、先ほど説明された社会的な影響と、どのような関係があるんですか。…(後略)
  1. Ⅱでやり取りした内容について、更に掘り下げた質問や別の視点からの質問をされたとき、それまでの議論と関連づけて、自分の見解を、補強したり修正したりしながら筋道立てて詳細に述べ、議論を続けることができるか。

 テスターは、Ⅰ、Ⅱでのやりとりの内容によって質問を設定します。

(Ⅲを引き出す質問の例 ①具体的な方策を問う)

テスター:
では、どうしたら循環型社会に転換できるのでしょうか。
受験者 :
まず、始めの段階としては政府が…(後略)

(Ⅲを引き出す質問の例 ②別の視点からの見解を問う)

テスター:
資源の大量消費についても問題になっていると思うんですが、どうお考えですか。
受験者 :
確かに循環型社会に転換できたとしても、その一方で資源が大量消費され続けるのは、やはり問題だと思います。再生可能エネルギーの活用など、考えていく必要があると思っています。…(後略)

 この他にも、反論に対する見解が言えるかや、関連する事柄についての説明ができるかなどを見る方法もあります。

【達成度を判定するための資料】
 A1~B2レベルと同じく、C1レベルも「使っている語彙の難しさ」「文法や音声の正確さ」といった分析的な観点ではなく、「タスクがどの程度達成できたか」という総合的な観点で判定します。タスクの達成度を判定する時に参考にするのが、C1レベルの<判定の指標>です。

判定の指標の画像

 この他、テスト実施手順の詳細は「テスター用マニュアル」に出ています。また、「テスター用ガイドライン」には、テストの中に必要な情報がレベル別にまとまっています。

「テスター用マニュアル」
https://jfstandard.jp/pdf/roleplay/JFS_roleplaytest_manual_20170131.pdf
「テスター用ガイドライン」
https://jfstandard.jp/pdf/roleplay/JFS_roleplaytest_guidelines_20160331.pdf

テスター用ガイドライン C1テスター用ガイドラインの画像

4. ロールプレイテストの活用方法はテストだけではありません!

 今回の記事は、C1レベルのロールプレイテストの解説が中心でしたが、ウェブ上にはA1~C1の全レベルのマニュアルやロールカード、そして音声サンプルを公開しています。このJFロールプレイテストを日々の教授活動に活用する方法を紹介します。
 まず、普段の授業の中で、学習活動としてロールプレイをそのまま使ってみることができます。学習者のレベルに応じたロールプレイを実施し、結果を学習者同士で評価し合い、会話能力について考える機会にするのも良いでしょう。
 他には、次のことができます。
1.Can-doにもとづいて新しいロールプレイを作れる:
 マニュアルにはJFロールプレイテストの作成過程を紹介しています。各レベルのロールプレイがCan-doにもとづいて、どう作成されたか、どのようなテーマ・内容・構成で作られ、どのように判定するのかを参考に、ロールプレイなどの活動を考えることができます。

2.JFSのレベル基準という「評価のものさし」が持てる:
 JFロールプレイテストのマニュアルに挙げられた判定の実例や音声サンプルを使って、各レベルで何がどの程度できるかを観察・確認することで、教師自身がJFSのレベル基準という「評価のものさし」を持つことができます。教師同士でタスクの達成度や、レベルごとの特徴を話し合うこともできます。その結果、学習者の会話能力を判断する基準を共有し、学習者の目標レベルや、学習者の課題はどのようなことなのかを把握する助けになるのではないでしょうか。

 JFロールプレイテストは、それぞれの現場の先生方が便利に使うことを目的に開発したものです。実際に使ってみた感想や意見を、是非jfstandard@jpf.go.jpまでお寄せください。(メールを送る際は、全角@マークを半角@マークに変更してください。)

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