日本語教育通信 海外日本語教育レポート 第19回

海外日本語教育レポート
このコーナーでは、海外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

第19回  タイ国日本語教師会JTATによる、教師と学習者のための活動
-日本語ドラマコンテストの開催-

スニーラット・ニャンジャローンスック
タマサート大学  教養学部  日本語学科助教授
タイ国日本語教師会JTAT運営委員

  2008年3月22日、タイ国日本語教師会(Japanese Teacher Association of Thailand: JTAT)主催によるドラマコンテストが開催された。

1.JTATの特色

  タイ国日本語教師会(JTAT)は、タイ人日本語教師を中心として2003年7月5日に設立された研究会である。教育機関の枠を超えてタイ人日本語教師が中心となって学べる研究会を作ろうという声が上がったことから、設立準備が始まった。現在会員は約70人で、高校・大学などの教育機関で日本語を教えているタイ人教師が中心である。タイ人教師のみならず、日本人教師も若干会員になっている。2003年10月の第1回セミナー以降、年2回のセミナーと運営委員会が開催され、将来的には、「タイ国日本語教育学会」に発展させることも視野に入れた活動を続けている。

  タイにおける日本語教師会は他にもあるが、教師会において役員などを経験した者によると、会員がタイ人・日本人といるため、打ち合わせなどの時に日本語・タイ語両言語の使用が必要となり、また、タイ人教師の日本語能力は様々であるため、ある程度両言語を使いこなせないと、会の進行が滞ってしまう恐れがある。そのため、タイ人教師の参加が少なくなってしまう。この教師会はこのような問題をふまえ、運営委員は全てタイ人教師で、顧問は日本人教師で構成されている。タイ語を主に使用するという特色は、これまでの教師会とはやや異なる運営方式といえよう。

2.JTATの教師のための活動

  第1回目のセミナーでは、その年に日本語が初めて入試制度に導入されたことから、大学側、高校側の関係者を招き、それぞれのカリキュラムやこれからの対策についての情報や意見を交換した。それ以降のセミナーのテーマに関しても、発音、漢字、作文、翻訳、観光日本語など各科目の教え方、教材、評価法など、全てタイ人教師が求めているテーマに沿って行われた。日本語教育に関する知識だけでなく、日本事情や日本文化も取り入れたセミナーもあった。特にタイ人教師にとっては、日本語の授業のため、日本語・日本語教育のみならず、日本事情・日本文化に関わる知識も必要であると考えたためである。

  セミナー以外に今年初めて開催されたのは短期訪日研修というプログラムである。滞日未経験者を優先的に対象とし、2008年4月7日~21日に国際交流基金関西国際センターで研修が行われた。研修は受託研修形式で行われ、JTATが企画し、関西国際センターに委託して実施された。

  この研修の目的は、約2週間の日本滞在期間を活用し、(1)さまざまな日本の社会・文化に実際に触れることで理解を深め、(2)体験・交流を通して日本語力のブラッシュアップを図るとともに、(3)日本語教師として、帰国後の仕事に役立てるための教材やリソースを収集し、活用方法を考える機会とすることである。研修の内容は教室で活動に必要な日本語を学び、教室の外で日本語を使って体験・交流活動を行い、それを日本語でまとめて報告することである。

  この研修に参加した教師たちの意見としては、皆とても満足だと回答し、研修内容は日本語の授業にとても役に立ったと回答した。また、研修参加者から予想外のコメントもあった。研修参加者はタイの様々なところから来ているにもかかわらず、2週間一緒に過ごしたことで、親しくなり、お互いの授業について、現場の情報を交換したりアドバイスしあったりすることができたということである。このようにタイ人教師同士のネットワークができたことは何よりも重要な成果であろう。

関西国際センターで熱心に研修に取り組む教師たちの写真1 関西国際センターで熱心に研修に取り組む教師たちの写真2
関西国際センターで熱心に研修に取り組む教師たち

3.JTATによる学習者のための活動

  また、教師だけでなく、日本語学習者のための活動も行われている。その一例が、冒頭に述べたドラマコンテストである。このドラマコンテストは、国際交流基金バンコク日本文化センターの協力の下に、2006年10月14日に初めて開催された。第1回目の対象者は大学生のみであったが、第2回目の今回は高校生も参加した。参加チームは以下の通りである。

高校の部:8チーム
  高校 題目
1 チャロームプラキァット・ソムデットプラシーナカリン・ガンチャナブリ むかでのお使い
2 カンペンペットピッタヤコム シンデレラ エピソード2
3 ナリーヌクン ゴン・カオ・ノイ
4 ラチャウィニット・バンケーン あゆみとふしぎなかがみ
5 サトリー・ノンタブリー クーカム
6 シーアユタヤ だれですか
7 スアンクラープウィッタヤライ・ランシット さるとかに
8 トリアム・ウドムスックサー シンデレラ(新しい物語)
大学の部:5チーム
  大学 題目
1 ラチャパット・ナコンラチャシーマ しらなかったよ
2 ラームカムヘーン 二つの国の友情
3 ランシット 緑茶物語「かぐや姫」
4 シーナカリンウィロート 馬面ゲーオ
5 タマサート おばけか

  ドラマの内容は童話やタイの民話などのストーリーをそのまま使用したり、あるいはアイディアと工夫を凝らしてオリジナルの作品を作ったりと様々であった。

  審査のポイントは日本語、演技、ストーリーの構成、内容であった。また、今回は会場での人気投票も行った。

  結果としては、高校の部の1位はウボンラチャタニー県(タイの東北地方)にあるナリーヌクン高校であった。同校の演目は「ゴン・カオ・ノイ」(小さいもち米入れ)という東北地方の民話である。

  また、人気投票でナンバーワンになったのは、バンコクにあるトリアム・ウドムスックサー高校で、世界中で知られているシンデレラを演じたが、一般的なイメージを裏切るユニークな王子が登場し、爆笑を招いた。

  高校生の日本語能力は初級レベルであるものの、限られた時間(10分)の中で分かりやすい日本語で物語を構成しており、高校生と思えないほど演技力も優れていた。

  大学の部の1位はパトゥムターニー県にあるランシット大学で、「緑茶物語『かぐや姫』」を演じた。これは「かぐや姫」のストーリーを使って、「ドラえもん」ののび太や「ドラゴンボール」の孫悟空、タイの有名な文学作品の主人公であるプラアパイマニー王子などが次々に登場して、姫にプロポーズするというパロディである。最近、タイで話題の「緑茶ブーム」を基にして、日本文化とタイの事情・文化をミックスして練り上げられた創作ドラマであった。

  また、人気投票でナンバーワンになったのは、バンコクにあるタマサート大学で、「おばけか」という作品を演じた。これは、「リング」で有名な化け物・貞子が登場する学園が舞台の恋愛・ホラーのストーリーであった。

  優勝したチームには、賞状、DVDプレイヤー、「エリンが挑戦!日本語できます。」(国際交流基金日本語国際センターの日本語学習教材)、日本の小説のタイ語訳版が贈られた。

  タイでは、日本語学習者のための活動が様々な機関によって行われている。スピーチコンテストをはじめ、カラオケコンテスト、漢字コンテスト、日本に関する物知りクイズなど、例を挙げれば十指に余るほどである。しかし、本格的なドラマコンテストはこれまで行われていなかった。

  スピーチやクイズのような活動では比較的個人的な作業が多いのに対し、ドラマは一人だけではできない活動である。この活動を通して、参加者は日本語能力だけでなくチームワークの力を伸ばすことが期待できる。また、台本を作るため、教室で習った日本語を生かして、様々な場面を表現したり、オリジナルの場面を作るために想像力を働かせるなど、日本語学習を促進する多様な能力を引き出すと考えられる。

  また、この活動にはタイ人だけでなく、タイ滞在中の日本人も多く参加したことから、日タイ両国の文化交流を図ることにもなったといえよう。

  タイ国日本語教師会(JTAT)は、まだ歴史の浅い研究会であるが、今後、他の機関や研究会等との連携を深めながら、タイ人日本語教師及びタイ人学習者のためによりよい学びのチャンスを提供していくことを期待するものである。

高校の部で優勝したナリーヌクン高校の演技の写真1 高校の部で優勝したナリーヌクン高校の演技の写真2
高校の部で優勝したナリーヌクン高校の演技

日本語教育国別情報【タイ】
http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2006/thailand.html

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