日本語教育通信 海外日本語教育レポート 第28回

海外日本語教育レポート
このコーナーでは、海外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第28回】世界に広がる「JF講座」

国際交流基金 日本語教育支援部
JF講座チーム

1.JF講座の始まり

 国際交流基金(以下、「基金」)では、2011年度より海外拠点を中心に、一般学習者向け日本語講座を拡充していくという新たな事業を立ち上げました。これは、世界全22か所の拠点と、さらに日本人材開発センターにおいて、基金が日本語講座を運営するものです。この講座が、「JF講座」です。
 JF講座は、2020年度までの10年間で、30か所に開設すること、年間受講者数を3万人にすることという目標を設定しています。2013年10月現在、27か国、30か所に開設されており、受講者数はのべ約1万6千人(2013年度年間予定)となっています。
 ※日本政府が相手国政府との合意のもと、現地人材育成のために設立した機関で、8か国、9都市で運営されています。

2.JF講座の目指すもの

 JF講座では、第一に「JF日本語教育スタンダード」(以下、「JFスタンダード」)(http://jfstandard.jp/top/ja/render.do)の考えに基づく日本語教育の普及・定着を目標としています。
 基金が開発したJFスタンダードは、日本語のさらなる国際化のための基盤整備として、世界で通用する日本語の教え方、学び方、学習成果の評価の仕方を考えるための枠組を示すものです。JF講座は、このJFスタンダードの理念である「相互理解のための日本語」を実現するため、理念に沿った新たなモデル講座として運営しています。そしてJF講座での実践を通して、JFスタンダードの考え方に基づく日本語教育が各国・地域の他の日本語教育機関に波及していくことを目指しています。
 もう一つ重要なことは、言語運用能力の向上のみならず、日本理解、さらには異文化理解能力を高めるためのプログラムも開発し、日本語学習者の裾野を広げるとともに、日本語学習者の日本文化への関心、理解を深めることです。基金では、事業の三本柱として「文化芸術交流」、「日本語教育」、「日本研究・知的交流」をあげてきましたが、JF講座ではこうした三本柱を有機的に統合した講座運営に、意欲的に取り組んでいます。

3.JF講座の概要

 JF講座の中心である一般日本語講座では、原則としてそれぞれのコースにJFスタンダードに沿ってA1~C2のレベル表示をしています。学習目標をJFスタンダードに基づくCan-doによって設定し、学習成果の評価はCan-doを参照したパフォーマンス評価によって行うことを目指しています。また、講座では、JFスタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下、「『まるごと』」)を使っています。A1レベルでは先ごろ市販された「入門(A1)」を、A2レベルでは「初級1(A2)」、「初級2(A2)」、「初中級(A2/B1)」の各試用版を使用し、今後はBレベルについても教材が制作され次第、順次導入していく予定です。
 また一般日本語講座以外にも、日本文化に結びつけた文化日本語講座や、日本語能力試験体験講座なども実施されています。

 以下、3拠点で行われているJF講座の様子を紹介します。

<マレーシア/クアラルンプール日本文化センター>

 クアラルンプール日本文化センターのJF講座は、「入門」から「上級2」までの9クラスがあり、合計117名の受講生が日本語を勉強しています。「相互理解のための日本語」を目指して、1.できる 2.つながる 3.体験する 4.きづく 5.ふりかえる という5つのキーワードをもとに、講座を展開しています。
 受講生は、ほとんどが社会人で、中には日本企業で働いている人もいます。講座では、日本旅行の体験、盆踊りで初めて浴衣を着た感想、最近食べたおいしい日本のチョコレートの話など、さまざまな話題が飛び交います。マレーシアでは日本企業が身近な存在であるため、講座以外の場でも日本の文化(特に食文化)に触れる機会が多く、受講生たちはそれぞれの日本文化体験を楽しんでいるようです。
 各学期に一度、日本人ボランティア数人がクラスに入って受講生と交流をするビジターセッションも、受講生が楽しみにしているイベントのひとつです。自己紹介に始まり、決められたテーマ(結婚観、日本人の職人など)について、最初は少し照れながらも日本語を使って伝えたいことを一生懸命に、うれしそうに話している姿がとても印象的です。
 年に4回実施する文化日本語講座も人気があり、すぐに定員に達します。毎回、アンケートの結果をもとに参加者の顔を思い浮かべながら次回の企画を考えますが、8月には「包む文化 ふろしき」をテーマに開催しました。現代人の私たちがどんな場面でふろしきを使えるのかを紹介し、ふろしきに包んだものを見せ、どんなふうに包んだのか考えてもらいました。その後、チームに分かれて実際に色々なもの(スイカ、中華鍋、バトミントンのラケット、ペットボトルなど)をふろしきで包んでみるという活動を行い、とても盛り上がりました。
 日本語を漠然と学ぶだけでなく、学んだ日本語を通して新しい何かを発見する。そんな機会をこれからもJF講座で提供していきたいと考えています。

クアラルンプール日本文化センターのJF講座の写真1

クアラルンプール日本文化センターのJF講座の写真2

クアラルンプール日本文化センターのJF講座の写真3

クアラルンプール日本文化センターのJF講座の写真4

<フランス/パリ日本文化会館>

 最初の頃は少しはにかんだ笑顔で「こんばんは」、日本語に慣れてくると爽やかなウインクつきの「こんばんは!」と言って教室にやって来るマダム、ムッシュー、マドモワゼル。
 パリ日本文化会館のJF講座はA1からB1/B2まで、平日は18時からと19時半からの2クラス、土曜日も含めると計15クラスを開講しています。学習者は1クラス15人前後で、社会人が中心です。
 受講生はまさに老若男女、興味も学習のきっかけもばらばらです。原宿ファッション、アニメ、マンガ大好きな中高生、夏目漱石を原文で読みたい大学生、日本人配偶者のために学習する人、小津安二郎が専門の映画研究者に、浮世絵や日本旅行が大好きな定年を迎えたご夫婦など、とっても多彩です。
 フランス人と聞くと、ちょっとすましたイメージを持つかもしれませんが、教室はいつも明るい声でいっぱいです。授業では、練習問題の答えあわせや会話練習だけでなく、導入の部分から受講生が推測力を発揮して、積極的に発話をしています。自分で日本語の使い方や文型に気がつくように、できるだけ受講生の発言を多く引き出すように心がけています。フランス語や日本語で冗談を言い合い、会話練習では教科書のやり取りから発展してどんどん会話を進めていく。フランス人の陽気でおしゃべり好きな性格が、講座を盛り上げ、日本語力の向上にもつながっているように思います。
 そして、『まるごと』の特徴のひとつでもある「生活と文化」のページを学ぶ場面では、日本とフランスを比べて意見を述べ合ったり、また、世代の違いから生じたさまざまな意見が飛び交ったりしています。そう、フランス人は議論好きのおしゃべりでもあるのです。
 21時にクラスは終了。毎時00分に点滅するエッフェル塔のイルミネーションを眺めながらエントランスまで受講生を見送ります。笑顔で手を振りながら「こんばんは~」と去っていく受講生。フランス語の「Bonsoir」は「こんばんは」にあたるのですが、フランスでは、人に会った時、別れる時の両方に使います。そんな彼らに「はい。さようなら」と返しつつ、辞書には載っていない使い方の違いに彼らはいつ気がつくかなと期待をするのでした。

パリ日本文化会館のJF講座の写真1

パリ日本文化会館のJF講座の写真2

<アメリカ/ロサンゼルス日本文化センター>

 ロサンゼルス日本文化センターでは、2012年1月に、18歳以上の成人を対象としたJF講座を開講しました。日本人移民のルーツであり日系の施設や店舗があつまる「リトルトーキョー」と、当センターがあり美術館やエンタメビジネスの集まる「ミラクルマイル」と呼ばれるエリアの2か所に教室があります。

ロサンゼルス日本文化センターのJF講座の写真1

ロサンゼルス日本文化センターのJF講座の写真2

 ひらがな・カタカナと簡単なフレーズを学ぶ「入門」コースから、日常会話を学ぶ「初級」コース、そして中・上級者向けにビジネス日本語に特化したコースまでを提供しています。それぞれ週1回、各2時間、全8週間のコースです。各クラスの定員は16名ですが、人気の高いコースは定員以上の受講生が集まることもあります。
 コースの特徴は、JFスタンダードに基づいて具体的なテーマとゴールを掲げていること。例えば「パーティーで友達を作る」「街へ出かけて食事・買い物をする」「健康・美容法を勧める」「初めての日本旅行」など、さまざまな場面に合わせて、すぐに使える実践的な日本語を学びます。写真や絵がふんだんに盛り込まれた教科書『まるごと』を使用するほか、実際の地図やパンフレットなどの生教材も活用して、いきいきとした日本語の授業を行っています。
 ロサンゼルスならではの多文化社会にあって受講生たちのエスニシティ(人種や文化)も多彩。年齢や職業もさまざまです。俳優や美術館学芸員、主婦や学生、定年退職された方など、いろいろな層のクラスメートが机を並べて仲良く学んでいます。時には、教室外で自主学習をするグループも誕生するなど、受講生たちはとても熱心です。
 レギュラーコースは、春・秋・冬学期に開講しますが、各学期の前後には、日本語を母語とするボランティアの方々と会話を楽しむイベントや、寿司作り、日本の年末年始体験など、日本文化も同時に学べるワークショップも展開しており、広く日本・日本文化ファンのリピーターが生まれています。

ロサンゼルス日本文化センターのJF講座の写真3

 また、夏の間は高校生向けのサマーキャンプ「Discover Little Tokyo」を開催しています。リトルトーキョーという立地を活かし、教室の外に飛び出して街を歩き、日本人移民の歴史を学んだり、日本料理店などの人たちと日本語で会話したりする内容の濃い5日間のプログラムです。その他、日本語能力試験体験講座や親子寿司作りクラスなど、幅広く日本語・日本文化に触れることができる場を提供しています。

 『まるごと』については、「日本語教育ニュース」(2013年9月30日更新)、「本ばこ」(2013年9月30日更新)でも紹介しています。

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