日本語教育通信 海外日本語教育レポート 第29回

海外日本語教育レポート
このコーナーでは、海外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第29回】アーティキュレーションを目指すための J-GAP 台湾のワーキンググループ
―現場の知見を共有することから―

J-GAP台湾委員会
陳淑娟(東呉大学)

1. 背景

 国際交流基金が2013年7月に公開した「2012年度日本語教育機関調査」によれば、台湾の日本語学習者数は世界第5位で、人口の割合からみると世界で第3位に入る1。台湾の高等教育機関では、専攻以外にも第二外国語として日本語(選択科目扱い)が履修されている他、初・中等教育機関ではクラブ活動として日本語教育を実施している。学校以外の補習班(日本語学校)、社区大学(コミュニティ・カレッジ)でも日本語のクラスが多く設置されている2。近年、学習の早期化が見られる一方で、政府による生涯学習の奨励で年長者のクラスも開かれるようになり3、学習者の年齢層の幅が広がっている。
 しかし、こういった学習者の年齢層の広がりや学習形態の多様化には、カリキュラム上大きな落とし穴がある。それは、異なる教育機関の間で日本語学習の縦の「つながり」を如何に構築するかという問題、つまり、「アーティキュレーション」の問題である。
 2010年に台北で行われた世界日本語教育大会(ICJLE)は、様々な意味で、外部から台湾の日本語教育界に多大な刺激をもたらした。當作靖彦先生(2010)が「中等・高等教育におけるアーティキュレーションの達成―今後の支援活動・交流活動のアクションプラン―」を提起され、香港、カナダ、欧州、タイの代表者がそれぞれの国・地域の日本語教育における中等教育と高等教育のつながりの問題や、ネットワークの確立に向け発表を行った4。これが契機となり、台湾内部で、異なる教育機関の日本語教育のつながりの問題が重要視されるようになった。

2. J-GAP台湾の活動

 J-GAPとはJapanese Global Articulation Projectの略称で、當作靖彦先生が提案し、総括ディレクターを務めるグローバルなプロジェクトである。台湾日本語教育学会は世界の9つの国・地域の学会、教師会から構成される日本語教育グローバルネットワーク(Global Network、以下GNと略す)のメンバーとして、2012年1月から、J-GAP台湾を運営するようになった。

2.1 目的

 J-GAP台湾は台湾日語教育学会の理事長、理事、会員をワーキンググループのメンバーとして発足した。このプロジェクトの理念に賛同し、月例会に毎回参加でき、協働作業として共に推進していける有志がメンバーになる。発足した当初は17名で、台湾の北、中、南の大学に所属する日本語教師が主だったが、後に、高校、職業高校、補習班の日本語教師も加わった。活動は現場の教師や研究者らが話し合いやワークショップを行う過程で、徐々にボトムアップ式に普及し、最終的に台湾における「日本語教育スタンダード」構築の実現を目指している。

2.2 2012年~2014年の活動

 2012年の3月から月例会を開き、異なるレベルの日本語教師間の語り合いから始めることにより、教師間のネットワークがまず築かれた。大型の共同研究を推進するためには、具体的な作業として異なる教育レベル間の教師同士の協力は重要である。そのため、頻繁に活動を行い、教師間で共有された知見に基づきシラバス、カリキュラムの連続性の問題を改善する。これは台湾の日本語教師の「自己成長」の場を提供するとともに、アーティキュレーションを図り、日本語教育の「質的向上」全体につながるとも考えられる。

【2012年度】
 1年目は、下記2つの研究課題に取り組んだ。

  1. (1) 台湾社会における日本語使用の実態調査
  2. (2) 台湾における日本語教育スタンダード研究

【2013年度】
 2年目にワーキンググループのメンバーが32名に増え、下記の3点を課題にした。

  1. (1) JF日本語教育スタンダード(以下、JFSとする)を活用して、機関のカリキュラムの開発・改善を継続的に実践する。
  2. (2) JFSに基づいて地域・教育機関独自のスタンダードを開発するモデルを作る。
  3. (3) 地域・機関の日本語学習の評価にJFSを活用する。

【2014年度】
 3年目の2014年現在ではワーキンググループのメンバーがさらに拡大し42名になった。これまでの蓄積を踏まえ、次の目標をたてた。

  1. (1) 1年目の「台湾社会における日本語使用の実態調査」結果を参考に『Can-do日語教学 Taiwan活動』集を出版する。
  2. (2) 国内・国際的シンポジウムを開催することによってJFS活用の実践研究の成果を分かち合う。
  3. (3) 高校、補習班の教師のためのA1,A2レベルの研修会を開催する。

2.3 活動内容

 上述の計画に基づき、2014年4月までの2年間、「勉強会」→「ワークショップ」→「シンポジウム」と定期的に月例会を開いた。最初の活動では内部の勉強会的な性質が強かったが、徐々に公開する講座が多くなった。メンバーが台北から高雄まで全国的に広がり、現職教師のためのJFS活用のワークショップを各地で開催することが可能になった。これにより教師間の相互評価及び問題点や解決方法の共有が可能になり、さらに回数を重ねることで、ネットワークが緊密になり、地域的な連携、中等教育と高等教育の連携、さらにはそれ以外の機関における連携に相乗効果が生まれてきている。活動は会議、勉強会、ワークショップ、フォーラム、発表会、シンポジウムの形で現在までに21回行われた。

J-GAPの連動図の画像
J-GAP の連動図

メンバーの話し合いの画像
メンバーの話し合い

 【勉強会】では、主にCommon European Framework of Reference for LanguagesCEFR)、アメリカのナショナル・スタンダーズ、JFS、「みんなのCan-doサイト」についての勉強会を開き、台湾における具体的なクラス活動での評価活動についても議論する。例えば、2012年度に行われた「台湾社会における日本語使用の実態調査」では、「高校生」「大学日本語専攻生」「大学第二外国語としての日本語履修生」「大学院生」「社会人」5つのグループを対象に日本語の使用実態についての調査項目を作成し、分担して作業を進めた。その結果、388の使用場面を集めることができた。2013年にこの使用場面から、JFSが提示する15のトピックを参考にして、台湾社会で実用的な主題(トピック)の項目を作成した。そして2014年に現場の教師がすぐ活用できる『A1,A2のCa-do Taiwan活動集』を17名のメンバーで編纂し、出版する予定である。

 【ワークショップ】は最も頻繁に行われる形態の公開型の活動である。現在までに、国際交流基金の専門家や、Can-doに基づいた教材開発の経験者、授業評価の専門家、當作靖彦先生を招き、1日~3日の研修会を開催した。これは台湾国内の教師間の情報交換に加え、日本の専門家と交流する機会となり、より具体的な実践可能な方法、評価基準についての話し合いができた。特に當作先生が担当された「言語能力の評価法」「日本語授業のバックワードデザイン」「ソーシャルネットワーキング」のワークが大きな反響を得た。受講している間、ペアで議論したり、グループで作業したりする機会が多いため、教師間の良い交流の場になる。開催数を増やすことで、知見を共有することができるようになった。

Can-do発表会終了後の画像
Can-do発表会終了後

當作先生を迎えてのワークショップの画像
當作先生を迎えてのワークショップ

 【シンポジウム】は、台湾日語教育学会の年度大会の翌日に行った。また、台湾日本語教育学会の春季、秋季の日本語教育実践会で「台湾における日本語使用の調査研究班」による発表を行い、2013年12月にはCan-doの実践発表会を行った。これは、J-GAP台湾が立ち上がって以来、各メンバーが現場で実践してきた具体例を分かち合う場でもある。それぞれの職場で、使用教材、進度、指導法、評価法が異なっているため、歩調を合わせなければならない。例えば文型中心の指定教材を使いながら、如何にCan-doの理念を活かした授業を展開するかといった実践例を報告する。2014年からは半年に1回行えるように計画を進めている。

3. 成果

 前述のように、これまで2年の活動は、台湾の北、中、南を巡回し、21回行った。J-GAP台湾のメンバーの成長が活動内容からも伺えるが、合わせて1000人を超えた参加者にも何らかの形で影響を与えていると考えられる。また実施後に行われたアンケート調査5によると、受講者は新しい知識、理念に触れ、満足と充実感を得、実践に移す意欲を感じ、参加する度に意識変化が見られた。また、「中等教育と高等教育のアーティキュレーション」の実現に期待と肯定的態度を持つというフィードバックが圧倒的に多いことも分かった6。しかし、教育、学習、評価の一貫したシステムの操作の煩雑さに不安を感じるという意見もある。
 この2年来アーティキュレーションのための「評価」を取り上げた論文7も増え、JFSを活用した実践研究8が口頭発表に留まらず、台湾国内の学会誌、機関誌9に散見されるようになったことも大きな成果と言える。
 最終的な「台湾の日本語教育スタンダード」構築までは、まだまだ道のりが遠いが、教師間のネットワーク形成により、少しずつではあるが現場の知見が共有されるようになってきた。今後も、ボトムアップの力で、継続していく価値があると考える。

4. 今後の課題

 台湾では、2014年8月以降、12年一貫の義務教育が実施されるという方針が固まっている中で、最近、外国語教育の政策に一つの変化が見られる。日本語教育を第二外国語として小学校から実施するという動きが予測され、より低学年での実施が計画されている。今後、日本語教育のアーティキュレーションの必要性がますます求められるようになるだろう。そのために基礎的準備と整備をするのが我々に課せられた責務である。
 バタバタしながら進んできたが、今後台湾の教育部の言語政策へアドボカシーを行っていく仕事も残っている。また、同じアーティキュレーションを目標とした諸外国のJ-GAPはどのように実践されているか、J-GAP関係の教育実践の経験を意見交換する国際的な場があれば、さらに相互に学び合うことが多いに違いない。方向性に間違いがないとすれば、一歩一歩継続的に進めて行けば、目標に到達できると期待している。

  1. 1 『2009年度台湾における日本語教育事情調査』によると、人口比率で見る日本語学習者の数値は韓国、オーストラリアに次ぐ世界第3位になっている。
  2. 2 交流協会『2009年度台湾における日本語教育事情調査』P.21-22
  3. 3 55歳以上の学習者のために学校内施設を利用した「楽齢大学」や「長青大学」のコ―スが目立つ。
  4. 4 『2010世界日語教育大会 大会手册』大新書局P10による。
  5. 5 2013年10月26日に文藻外国語大で開催された「日本研究国際シンポジウム」の会議で筆者は「J-GAP TAIWANは何ができるのか―参加者の日本語教師からの声と反省」でワークの受講者のフィードバック2回をまとめ分析した。
  6. 6 「日本研究国際シンポジウム会議論文集」P.25-30
  7. 7 羅暁勤と陳淑娟が2013年CAJLEでそれぞれ「ルーブリック評価の導入によるピアレスポンス活動の変化」と「形成的アセスメントの開発にあたって:台湾の日本語教育の実践」を発表した。
  8. 8 大学と高校の教師計9名による発表があった。
  9. 9 羅素娟(2012)「大学外文の新しい試み―JFSに基づく初級日本語の授業」『東呉大学外語学報』34号や、陳姿菁(2013) 台湾日本語教育学会「Can-doを利用した会話活動デザイン」『2013年度国際学術シンポ日論文集』、陳家蓁(2013) 「JFS授業設計を試案とした教育実習の実践例」『第4回日本研究年会「国際日本研究の可能性を探る―人文・社会・国際関係―」会議論文集』など。

<参考文献>

交流協会『2009年度台湾における日本語教育事情調査』

當作靖彦(2010)『2010世界日語教育大会 大会手册』政治大学、大新書局

當作靖彦(2012)『2012年日本語教育国際研究大会』報告日本語教育学会P.22

陳家蓁(2013)「JFS授業設計を試案とした教育実習の実践例」『第4回日本研究年会「国際日本研究の可能性を探る―人文・社会・国際関係―」会議論文集』P.165-179

陳姿菁(2013) 台湾日本語教育学会「Can-doを利用した会話活動デザイン」『2013年度国際学術シンポジウム論文集』P.83-94

陳淑娟(2013)「J-GAP TAIWANは何ができるのか―参加者の日本語教師からの声と反省」文藻外国語大学『日本研究国際シンポジウム会議論文集』P.25-30

陳淑娟(2013)「形成的アセスメントの開発にあたって:台湾の日本語教育の実践」『カナダ日本語教育振興会2013年度年次大会大会プログラム』

羅暁勤(2013)「ルーブリック評価の導入によるピアレスポンス活動の変化」『カナダ日本語教育振興会2013年度年次大会大会プログラム』

羅素娟(2012)「大学外文の新しい試み―JFSに基づく初級日本語の授業」『東呉大学外語学報』34号

盧錦姬(2012)「台湾の高校生の日本語学習における動機づけと学習態度―第二外国語として日本語を受講する学生を中心としてー」『台大日本語文研究23』P.215-242

<関連サイト>

J-GAPホームページ http://j-gap.wikispaces.com/Home

J-GAPホームページ内 J-GAP台湾 http://j-gap.wikispaces.com/%E5%8F%B0%E6%B9%BE

台湾日本語教育学会 http://www.taiwanjapanese.url.tw/

J-GAP台湾のホームページ http://web.nutc.edu.tw/~tetsu/

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