日本語教育通信 日本語教育レポート 第33回

日本語教育レポート
このコーナーでは、国内外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第33回】
CEFR/JFSを参照した実践例の紹介
龍谷大学交換留学生のための日本語プログラム"JEP Kyoto"
-プログラム開発と「ビジネス日本語」コースデザイン-

龍谷大学 特任教授 小松 知子
龍谷大学 非常勤講師 福田 えり

1. はじめに

 龍谷大学では、2015年4月に受入交換留学生を対象とした新たな日本語プログラム「Japanese Experience Program in Kyoto(以下、JEP KyotoあるいはJEP)」をスタートさせました。
 交換留学生とは、基本的に母国の大学で日本語を始め、半年あるいは1年間だけ龍谷大学で学び、所属校に戻っていく学生です。JEP Kyotoでは、その特性をふまえ、留学生がそれまで学んだことを大学の内外で実践し、様々な経験や交流を通して日本語力を高め、気づきを深めることができる「日本滞在のメリットを生かした活動型プログラム」を目指しています。また、交換留学協定校との連携を進めるためにはプログラムの透明性を高めることが重要であると考え、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)及びJF日本語教育スタンダード(以下、CEFR/JFS)を参照して開発を進めています。※1
 本レポートでは、まず、2章でJEP Kyotoのプログラム開発の概要について小松が紹介します。そして、3章でその授業実践例として、実社会のコミュニケーションタスクを授業の柱とする「ビジネス日本語」コース(B2レベル)について福田が報告します。

※1 従来の交換留学生プログラムについては参考文献(1)北川を参照。

2. JEP Kyotoのプログラム開発の概要

 JEP Kyoto の特徴を表す柱は、「京都体験型」「CEFR/JFS参照」「PDCAサイクル」の3つです。

2.1 京都体験型とは

 JEP Kyotoは、日本、とりわけ京都での“Experience(体験)”を重視しています。例えば、「総合」などの科目において、プロジェクトワークとして、社寺など歴史的遺産や祭りなどの伝統的な行事を見学して関係者から話を聞いたり、地域活性化に取り組む住民と交流したりして、日本語で実際に体験する活動を多く取り入れています。古い伝統的な面だけでなく、今起こっている京都の動向も体験を通して学べることを目指しています。
 下の動画は、地域住民と協力してかまど(おくどさん)でご飯を炊いて食べるというプロジェクトワークで、B2レベルの「総合」で取り組んだものです。地域のNPOと企画するところから学生達自身が主体的に関わり、地産地消活動をしている学生組織に依頼して食材を調達したり、大学の町家キャンパス(町家を改築して作られた学習及び交流施設)で薪割りをしたりする準備から最後のお礼状までの全てを学生達が中心になって実施しています。

https://www.youtube.com/watch?v=Gx_lX7qUx68
(プロジェクトワーク例「おくどさんプロジェクト@町家キャンパス」の紹介動画)

2.2 CEFR/JFSを参照するとは

 JEP Kyotoは、CEFR/JFSの理念に賛同し、参照してプログラムを設計しています。中心となるのは、以下の理念です。

CEFR/JFSの理念の5項目について、説明した表。(1)行動中心主義、(2)学習者中心主義、(3)肯定的評価、部分的評価、(4)複文化複言語主義、(5)自律学習、生涯学習の画像

 では、上記のそれぞれの理念がプログラムにどのように反映されているかを説明します。

(1)CEFR/JFSの共通参照レベルを参考にしたレベルを設定する

 各クラスの対象及び目標レベルと日本語科目構成の全体像は、表1のとおりです。
 ①行動中心主義の観点から、「何がどのくらいできるか」を共有するためにCEFR/JFSの共通参照レベルを参考にしてコースのレベルを設定しています。未習者を含むA1対象のクラス“JEP1”からB2以上を対象とする“JEP6”までの6段階となっています。下位レベルでは、「総合」科目が中心ですが、レベルが上がるにつれて、技能別科目が増えていきます。学部の授業も履修することができるJEP5,6では、「ビジネス日本語」のように目標・テーマを特化した科目を1コマ単位で開講することで、自分に必要な技能や関心に応じて選択的に履修できるようになっています。

表1_クラスレベルと科目構成(2015年度後期)の画像
表1:クラスレベルと科目構成(2015年度後期)

(2)授業目標をCan-doで記述し、活動を設定する

 ①行動中心主義の観点から、各授業科目で目標をCan-doの形で示し、「目標—授業活動—評価」の一貫性、透明性のあるコースを目指しています。目標や活動を設定するときには、②学習者中心主義の観点から、学習者を「Social Agent(社会で行動する者)」として捉えるようにしています。例えば、JEP5,6の「総合」では、区の図書館やブックカフェで開催されるビブリオバトル※2に参加したり、龍谷大学のサイトを留学生にとって役に立つ魅力的なサイトにするための提案を考え、実際にグローバル教育推進センター長に対してプレゼンしたりしています。
 ④複文化複言語主義の観点からは、日本文化だけでなく、他の学生の文化を含む異文化理解、自文化理解につながる話題や問いかけを意識した活動となるよう心がけています。例えば、JEP5,6の「ホームルーム(HR)」では、各国の言語や踊りやゲームを教え合う活動をしていますが、様々な国や地域の文化体験を通じて、広い視野と深い信頼関係が築けることを期待しています。

※2 ビブリオバトルとは、自分達が選んだ本を紹介するコミュニケーションゲーム。

  • 写真1_ビブリオバトルを主催したときに学生自身が作ったポスターの画像
    写真1:ビブリオバトルを主催したときに学生自身が作ったポスター
  • 写真2_韓国のボードゲーム「ユッノリ」を楽しむ学生の画像
    写真2:韓国のボードゲーム「ユッノリ」を楽しむ学生
(3)評価のしかたを根本から見直す

 交換留学生がいちばん最初に経験する評価は、来日直後のプレイスメントテストです。クラス分けに対する不満が学生の学習動機を下げ、その後の留学生活に影響することもあるため、テスト内容の改訂だけでなく、クラス分けのやり方自体を見直しました。

従来からJEP導入後の評価のしかたの変化をまとめた図

 これまでは、JLPTのレベルを参考に筆記試験を作成していましたが、①行動中心主義の観点、特に「目標-授業活動-評価」の一貫性という点から、CEFR/JFSのレベルを目安に見直しをしています。また、JFS準拠ロールプレイテスト(https://jfstandard.jp/roleplay/ja/render.do)を参考に個人面談(学生1人に対し教員2人)を取り入れ、面接の結果を柱にしてクラス分けをし、筆記試験を参考に調整を行うという方式にしました。言語知識とCEFR/JFSのレベルの関係性については、まだデータを集めている段階です。
 また、これまでは、学生は落第しない限り、次の学期に一つ上のレベルに自動的に進めましたが、毎回全員にプレイスメントテストを受けさせることにしました。このことで、一学期間の伸びが確認できるようになっただけでなく、各教員がつけた学期終了時の成績や評価方法が目標に対して妥当だったかどうかを振り返る機会ができ、教員は、「目標-授業活動-評価」の一貫性をより意識するようになりました。
 ③肯定的評価・部分的評価の観点から、技能による能力のばらつきを配慮して、異なるレベルの技能別科目を履修できるようにしています。また、クラス分け発表後にレベル異動を希望する学生には、クラス分けの根拠を十分に説明した上で、原則として本人の意志を尊重し、レベル異動を認めています。これは、⑤自律学習・生涯学習の観点から重要なことだと考えます。
 ⑤自律学習・生涯学習の観点から評価に取り入れたもっとも重要なものは、「自己評価表」です。大きく分けて3つの場面で自己評価が活用されています。

来日前から学期終了時までの自己評価をまとめた図

 上記(a)は、主にクラス分けの事前資料として使用することが目的です。(b)は、各科目の目標を始めに意識させ、終わりに伸びを意識するために使用されます。(c)は、各活動の評価基準を示し、それを意識して取り組むことを促します。実施後には、学生の自己評価と共に教員も評価し、それをフィードバックするためにも使用されます。
 自己評価は、学生の自律的学習意識を高めるためだけでなく、教員が自分の授業の目標を明確に意識し、評価方法と矛盾がないかを確認し、教員間で共有を図るためにも有効なものだと考えています。

2.3 PDCAサイクルとは

 JEP Kyoto開発に当たって3つめの柱としているのが「PDCAサイクル」です。これは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返すことによって業務を継続的に改善するためのシステムのことです。JEP Kyotoではこれを二つの次元で実施しています。

  • ①各授業、コースレベルでのPDCA
  • ②プログラムレベルでのPDCA

 プログラムは一度デザインすれば終わるというものではなく、常にPDCAサイクルの中で見直され、再デザインされ続ける必要があると考えています。その一環として、学生に対して毎学期、授業アンケートだけでなく、プログラムに関するWebアンケートを実施し、必要に応じて聞き取りインタビューも行っています。JEP5,6クラスで「ビジネス日本語」を開講したのは、調査結果で明らかになった「日本と関係ある仕事をしたい」という学生のニーズに応えたものです。学生には自分たちの声を聞いてもらえること自体が歓迎されているようです。
 CEFR/JFSを参照したプログラムを開発する上でもっとも重要なことは、継続的な実践の見直しと、それを共有するシステムの構築だと考えています。実際に授業を担当する教員一人一人が常に意識し、実践し、見直し続けることが求められるからです。そこで、計画と実行のみ(やりっぱなし)にならないよう、各学期の前と後に講師会を開き、CEFR/JFSの理念と実践を学ぶ研修会や実践報告会を開催しています。そして、これらの機会をできるだけオープンにして、学内の他の外国語担当教員や他大学の日本語教員と共に学び、共有を図るようにしています。

3. ビジネス日本語

3.1 コースの概要と目標の設定

 「ビジネス日本語」は2015年度より開講している科目です。ここでは、2015年度後期(9月~3月)に実施したJEP6の授業について紹介します。後期は日本人学生が就職活動を本格化させる時期ということもあり、「日本で就職活動をする」という大きなテーマを設定し、就職活動の典型的なプロセスに沿って授業を組み立てました。

<授業の流れ>

授業の流れを示した図。授業のテーマは、「日本で就職活動をする」

 この流れに沿って、全体の目標を9つのCan-doで設定しました。目標を記述するときには、「みんなの『Can-do』サイト」(http://jfstandard.jp/cando/)を使って、できるだけ社会で実際に行われているコミュニケーション場面を具体的に頭に描くことを心がけました。そして、Can-doには、「筋道を立てて説明すること」「説明に一貫性を持たせること」「相手を説得させること」など、B2の特徴を盛り込み、目指すべきレベルが伝わるようにしています。ビジネス日本語で学びたいことに「敬語」を挙げる学生も多いため、「社会言語的な適切さ」に関するCan-doも目標として挙げました。
 これらの目標は、初回の授業でコースの到達目標として学生に提示した上で、図1「コース前後自己評価表」を使って自己評価をさせています。

図1_コース前後の自己評価表の画像
図1:コース前後の自己評価表

3.2 授業活動例 —企業を分析してみよう—

 ビジネス日本語の授業概要は、表2のとおりで、授業は全15回、1回90分です。各授業の目標は、より具体的な場面とタスクを提示するため、4~5つのCan-doで記述するようにしています。目標は、授業の冒頭で学生に説明し、今日「何を学ぶのか」を意識化してもらうようにしています。

 では、「第5,6回 企業分析」の授業活動を具体的に見ていきたいと思います。

授業の目標:企業分析

企業分析(1)

  • 興味のある企業について、企業理念、事業内容、求める人材像、募集職種、その他気になる点などを、インターネットで情報を収集してまとめることができる。
  • 同業他社を2社選んで、企業理念や事業内容などを調べ、比較して、相違点をまとめることができる。

企業分析(2)

  • あらかじめ準備しておいたメモを見ながら、自分が興味のある企業について、理念や事業の特徴などを順序だてて分かりやすく述べることができる。
  • クラスメートの発表内容について分からなかったことを質問したり、詳しい説明を求めたりすることができる。
企業分析(1)自分の興味のある企業について調べてみる
【導入】社長のメッセージ動画をみる

 就職活動生向けに編集された社長のメッセージ動画をみて、採用に関係する語彙や表現を確認しました。たとえば次のようなものです。動画は、京セラや任天堂など京都に拠点を置く企業も扱っています。

採用に関係する語彙や表現例:
業界、設立、創業、ビジョン、事業内容、人材像、従業員数、事業所、勤務地、選考方法、選考基準、募集職種、福利厚生、初任給、社会貢献
「我が社が求める人材像は~」「~をご覧ください」「~を期待しています」「~を重視しています」など
【タスク1】自分の興味のある企業を選び、情報を集める

 就職してみたい、応募してみたい企業をそれぞれひとつ選び、(1)ビジョン、(2)事業内容、(3)求める人材像、(4)募集職種、(5)その他気になる点などを、企業ホームページや採用情報サイトなどで調べます。

【タスク2】同業他社を2社選んで、情報を集める

 タスク1で選んだ企業の同業他社を2つ選び、ビジョンや事業内容などを比較して相違点を見つけたり、業界の特徴を把握したりします。

企業分析(2)自分の興味のある企業について発表する

 タスク1,2で調べた企業について、発表し、クラスメートからの質問に答えます。メモを読みあげるのではなく、自分の言葉で伝えることを心がけます。

3.3 評価方法

 図2は、「企業分析」の授業後に用いた自己評価表です。授業のはじめに「目標」として説明したCan-doと同じ内容について、学生は5段階で「どのくらいできたか」を評価します。実際に授業で扱った内容が評価基準となっているので、自分のパフォーマンスがどの程度だったかをイメージしやすいようです。
 教員もこれと同じ評価基準を使って評価します。B2レベルの活動が達成できているか、つまり「要点を理解しているか」「共通点や異なる点を比較しているか」「順序だてて分かりやすく述べているか」がどの程度できているかを、ルーブリックを用いて重点的にチェックをするようにしています。教員の評価結果を学生が自己評価した横に記入し、次の授業で学生に返却します。自己評価と教員評価結果の差が大きい学生に対しては、このような評価になった根拠を伝えるなど個別にフィードバックするようにしています。これを繰り返すことで、学生の自己評価力を養うことができると考えます。

図2_JEP6ビジネス日本語「企業分析」自己評価表の画像
図2:JEP6ビジネス日本語「企業分析」自己評価表

3.4 学生からのフィードバック

 ビジネス日本語は交換留学生のニーズから開講された授業だということもあり、「日本と関係のある仕事がしたい」という目的意識をはっきり持った、学習意欲の高い学生が多く受講していたように思います。プログラムを考える上で、学生がどのような日本語学習動機やニーズをもっているのかという実態を把握することは重要だと思います。
 以下、学期の終わりに実施した授業アンケートより、結果を一部紹介します(原文のまま)

  1. 自分のやりたかったことを学んだ。
  2. 自分の興味ある企業を調べたのができてよかった。
  3. 企業説明会。日本人学生といっしょで、よかった。理解できてうれしかった。
  4. 敬語がちょとなれた。
  5. メールが難しい。まだまちがえるから、これから気をつけたい。
  6. これまで面接やったことがなかったから、いい勉強だった。

 また、コースの前後で行った自己評価表の結果を比べたところ、コース後の評価が平均1ポイントほど高い値となっており、「実際にやってみた」ことで、「できるようになった」と自信をつけた学生も多かったようです。ただし、企業とのメールのやりとりや就職面接など、実際に経験したことがない活動については、学期始めの評価を低く見積もる傾向があるように思われます。
 一方で、教師評価の厳しさに関しては不服な学生もおり、B2の目標や評価基準をより分かりやすく学生に伝え、より丁寧にフィードバックする必要性を感じました。さらには、実社会で要請されるレベルを学生が実感できるように、たとえば企業関係者にプロジェクトに参加してもらうなど、「Social Agent(社会で行動する者)」としての視点を取り入れた活動を工夫することが今後の課題と考えています。

4. 成果と課題

 JEP Kyotoは、スタートして4学期目に入ったところですが、徐々に日本語科目担当教員をはじめ、大学の関係部署の教員やスタッフの間でコースの目標や学生の状況をCan-doで共有できるようになってきたように感じます。また、これまで全く交流のなかった他大学の交換プログラム担当者とCEFR/JFSの研修等を通じて交流し、協働プロジェクトの企画ができるようになったこと、協定校の担当者との意思疎通がしやすくなったことなど、いくつもの収穫がありました。
 今回紹介した「ビジネス日本語」においては、就職活動というコミュニケーション場面を想定する時に、CEFR/JFSで公開されているCan-doはとても参考になりました。たくさんのCan-doを眺めながら、どれを授業の目標とするか考えながら選択することで、B2の特徴と目指すべきレベルを理解することができました。そして実社会でのタスクを授業活動に反映させたり、評価のしかたを考えたりする上でとても役立ちました。学生にとっても、目標が「〜ができる」という具体的な形で提示されることは、授業やタスクの目的をより深く理解する助けとなったようです。また、自己評価を積極的に取り入れたことで、自分のパフォーマンスを客観的に評価する力が少しずつ養われたように感じています。
 プログラム全体の今後の課題としては、(1)各レベルの留学生の言語使用場面調査や、(2)学生の作文や音声データなどを分析し、レベル観の理解を深めること、(3)自己評価、プレイスメントテストを含む評価方法を再検討する必要性を感じています。また、今後いっそう学内外の連携を図るためには、今回のようにCEFR/JFS理念の実践を報告し、オープンに話し合える場を作っていく必要があると考えています。

[参考資料]

  1. (1) 北川逸子(2010)「龍谷大学留学生別科における日本語教育の改革の取り組みについて」『龍谷大学国際センター研究年報』第19号、p.3-15
  2. (2) JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテストhttps://jfstandard.jp/roleplay/ja/render.do
  3. (3) みんなの「Can-do」サイト http://jfstandard.jp/cando/ (2016年11月閲覧)
  4. (4) 吉島茂・大橋理枝(訳・編),Council of Europe(著)(2008)『外国語教育Ⅱ―外国語の学習,教授,評価のためのヨーロッパ共通参照枠―』初版第2刷,朝日出版社
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