日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第37回

日本語・日本語教育を研究する
このコーナーでは、これから研究を目指す海外の日本語の先生方のために、日本語学・日本語教育の研究について情報をおとどけしています。

一橋大学留学生センター 石黒 圭

接続詞の難しさ

1.はじめに

 接続詞というのは、なかなかやっかいな品詞です。第二言語の場合はもちろん、母語習得でも難しい部類に入ります。接続詞は、幼児期の言語習得でもっとも遅く習得される品詞の一つとされていますし、小学生の作文でも、「そして」や「それから」のような、一つか二つの決まった接続詞しか使えないために、単調で読みにくくなっている文章をしばしば目にします。

 日本語学習者の作文を読んでいても、接続詞は、日本語教師が手を入れたくなるところの上位に入るでしょう。とくに、上級・超級学習者の作文で誤りが目につきます。これは、もちろん、上級・超級学習者だけが接続詞を間違えるということではありません。初級・中級学習者の作文では、助詞をはじめとする他の文法的な誤りが多く、相対的に接続詞の誤りが目立ちにくいこと。また、初級・中級学習者は難しい接続詞を避けるためにかえって間違わないことなどの理由があるのでしょう。

 日本語教師だからといって、接続詞に自信があるわけではありません。不自然な接続詞を添削し、学習者に返却したところ、「なぜこの接続詞でないといけないのですか」と言われ、絶句することもしばしばです。学習者の指摘どおり、よく考えたらその接続詞でも大丈夫な気がしてくるときもありますし、どうしてもダメだという場合でも、その理由をきちんと説明することは困難です。また、専門家の記述を参考にしようとしても、接続詞の研究自体が遅れており、参考にすべき研究がなかなか見つからないのが現状です。

 ただ、2000年代に入り、ようやく接続詞研究が質・量ともに徐々に増えるきざしが見えてきました。今回は、私自身の研究を例に、日本語の接続詞研究の一端を読者のみなさまと共有したいと思います。

2.接続詞の出現頻度

 「文章で使われる接続詞は、総文数の何割ぐらいにつくのですか」と私は学生たちに聞くことがあります。みなさまはどのくらいだとお考えになるでしょうか。

 この質問には、日本人学生は3~5割、留学生は2~4割と答えることが多いようです。現実には1~3割ですから、いずれもそれを上回っているのですが、留学生のほうが正解に近いことがわかります。外国語として見ているほうが正確に対象化できるのでしょう。

 私が調べた範囲で接続詞の頻度がもっとも高いのは、①講義(36.9%)、つぎは②論文(25.5%)です。以下、③エッセイ(13.3%)、④新聞の社説(12.2%)、⑤小説(10.4%)、⑥新聞のコラム(7.9%)、⑦ドラマのシナリオ(3.0%)の順になります。極端に多い独話の講義、極端に少ない対話のシナリオは別として、書き言葉ではせいぜい10%前後、もっとも多い論文でも全体の4分の1にしか接続詞はつきません。接続詞のこうした実態を知っておくことは、作文指導のさいの教師の武器となるでしょう。

 また、ジャンルによる違いはあるのですが、どのような接続詞が実際に使われることが多いのでしょうか。これについても調べたところ、以下のようになりました。

  社説 コラム 論文 講義 エッセイ 小説 シナリオ
1 しかし だが しかし しかし しかし でも
2 だが しかし また それから  そして そして だから
3 また ただ そして そして だが だが じゃあ
4 さらに だから さらに つまり ところが  それから  それで
5 いっぽう  もっとも  たとえば  だから だから すると だって
6 ところが でも つまり でも また でも しかし
7 ただ さて すなわち ところが でも だから
8 しかも ところが したがって ですから つまり ただ けど
9 まず では まず んで たとえば また それから 
10 とくに なのに そこで それで そこで それで それに

 ご覧のとおり、講義以外はすべて逆接の接続詞がトップに来ています。また、社説とコラム、論文と講義、エッセイと小説の接続詞の分布が似ていることもわかり、どのジャンルが近い関係にあるかも見えてきます。さらに、日本語教科書、とくに初級学習者向けの教科書に出てこない接続詞も散見され、接続詞の導入に再考の余地があることもわかるでしょう。

 接続詞研究では、こうした基礎的なデータの整備が急務になっています。

3.接続詞の組み合わせ

 接続詞にかんして、留学生の作文を添削していてよく思うのは、列挙の接続詞(正確には序列副詞)の組み合わせの難しさです。以下の(1a)と(2a)は、いずれも下線を引いた接続詞がどこかおかしい気がします。

  1. (1a)共働きの夫婦がうまくやっていくのには、三つのポイントがあるように思う。はじめに、家事は無理に分担せず、気づいたほうがやる。第二に、相手の仕事に口は出さず、グチは聞く。最後に、相手が何かしてくれたら、感謝の言葉を忘れない。この三つを守れば、きっとうまくいく。
  2. (2a)ご飯を鍋で炊く手順は以下のとおりです。第一に、吸水させた米を入れた鍋を沸騰させます。沸騰までの時間は10分がベスト。つづいて、沸騰したら、弱火にして15分ほど加熱します。第三に、火を止めて、10分ほど蒸らせばできあがりです。

 じつは、(1a)と(2a)は接続詞を入れかえればうまくいきます。次をご覧ください。

  1. (1b)共働きの夫婦がうまくやっていくのには、三つのポイントがあるように思う。第一に、家事は無理に分担せず、気づいたほうがやる。第二に、相手の仕事に口は出さず、グチは聞く。第三に、相手が何かしてくれたら、感謝の言葉を忘れない。この三つを守れば、きっとうまくいく。
  2. (2b)ご飯を鍋で炊く手順は以下のとおりです。はじめに、吸水させた米を入れた鍋を沸騰させます。沸騰までの時間は10分がベスト。つづいて、沸騰したら、弱火にして15分ほど加熱します。最後に、火を止めて、10分ほど蒸らせばできあがりです。

 じつは、列挙の接続詞は、三つの系列があります。「第一に」「第二に」「第三に」の系列と、「はじめに」「つづいて」「最後に」の系列、そして「まず」「つぎに」「さらに/そして」の系列です。

 「第一に」「第二に」「第三に」の系列は、列挙の順序を入れかえてもよいときに使われます。(1b)の「家事の分担」「相手の仕事」「感謝の言葉」の順序は、この順でなくても論理的に問題ありません。「相手の仕事」のことが先でも、「感謝の言葉」が先でもかまわないのです。

 それにたいして、「はじめに」「つづいて」「最後に」の系列は、列挙の順序が入れかえられないときに使われます。時間的な前後関係があるときや、ランキングなどの順位をともなうときがその典型です。(2b)のご飯を炊く手順は「強火」「弱火」「蒸らし」が基本です。この順序を入れかえると、論理に破綻を来します。

 いっぽう、「まず」「つぎに」「さらに/そして」の系列は、いずれの場合でも使用可能です。そのため、この組み合わせを教えておけば、日本語学習者が列挙の文脈で間違えるおそれは格段に下がるわけです。(1c)と(2c)で確認してください。

  1. (1c)共働きの夫婦がうまくやっていくのには、三つのポイントがあるように思う。まず、家事は無理に分担せず、気づいたほうがやる。つぎに、相手の仕事に口は出さず、グチは聞く。さらに、相手が何かしてくれたら、感謝の言葉を忘れない。この三つを守れば、きっとうまくいく。
  2. (2c)ご飯を鍋で炊く手順は以下のとおりです。まず、吸水させた米を入れた鍋を沸騰させます。沸騰までの時間は10分がベスト。つぎに、沸騰したら、弱火にして15分ほど加熱します。そして、火を止めて、10分ほど蒸らせばできあがりです。

 文章を箇条書き的に整理して示すことは、論文やレポートを書くときに欠かせない技術です。そのとき、列挙の接続詞の組み合わせ方を知っていれば、日本語学習者の文章構成力に格段の差が生まれます。

4.おわりに

 このように、接続詞の研究には、学習者の作文からヒントが得られる研究の鉱脈がまだ豊富に眠っています。さらに多くの研究者が研究を重ね、研究の層が厚くなることを一日本語教師として願っています。

 最後に接続詞の考察のヒントになりそうな文献をご紹介します。接続詞の定義やバリエーションの数え方にもよりますが、ふだん目にする接続詞だけでも、その数はゆうに100に上るので、辞書的なものが1冊あるとよいと思います。新しいものでは、たとえば日本語記述文法会編(2009)が役に立つでしょう。また、接続詞の研究を始められる場合は、馬場俊臣氏作成の「接続詞関係研究文献一覧」が有用です。このウェブサイトでは、接続詞の膨大な先行研究が網羅されていて、必要な文献が容易に検索できるようになっています。

接続詞にかんする参考文献・ウェブサイト

  • 石黒圭(2005)「序列を表す接続語と順序性の有無」『日本語教育』125
  • 石黒圭(2008)『文章は接続詞で決まる』光文社新書
  • 石黒圭・阿保きみ枝・佐川祥予・中村紗弥子・劉洋(2009)「接続表現のジャンル別出現頻度について」『一橋大学留学生センター紀要』12
  • 日本語記述文法会編(2009)『現代日本語文法7 第12部 談話 第13部 待遇表現』くろしお出版
  • 馬場俊臣「接続詞関係研究文献一覧」 接続詞関係研究文献一覧
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