日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第2号(1992年3月発行)

目次

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論文要旨

教師研修における教師の「意識開発」の必要性
−1990年度(平成2年度)「海外日本語教師長期研修」における教育実習を振り返って−

阿部 洋子/三原 龍志/百瀬 侑子/横山紀子

本稿では、筆者たち4名が担当した1990年度「海外日本語教師長期研修」において実施された教育学習についてまず事実報告を行い、次のその結果 と問題点の整理分折を通して今後の展望と問題点の解決について考える。

当センターで行っている「海外日本語教師長期研修」は、海外の若手日本語教師を日本へ10か月間招聘し、日本語運用力の充実と日本語教授法の基礎を集中的に研修することを目的としている。本研修のカリキュラムは大きく「教授法関連科目」と「日本語演習科目」に分けられる。そして研修の最終段階でそれまでに習得した日本語や日本語教授法に関する知識や技術を実践の場で試し体得するために、また、実践の中から教師としての視野を広げ意識を深化させるために約3週間の教育実習を行っている。

教育実習は、研修生が国で教えている環境と比べて多くの特殊性を持っている。研修生からの反応は、実習を自己観察の機会として、また相互学習の機会として評価する声があった一方、その特殊性を理由に実習の意義を疑問視する声もあった。しかしながら、実習の特殊性の分析を経てみると、自己の教育現場とは異なった体験をすることはマイナスの要素を持ちながらも、よりダイナミックで意識の深部に届く体験となりうることもわかった。そこで、研修生への十分な動機付けを行うために、実習の利点を積極的に生かした「実習の意義」を具体的に提示することが肝要であることを確認した。そして、そのためには実習に至るまでの教授法授業の段階から研修生の「意識開発」や教授活動に必要な「視点作り」に焦点を当てることが重要であると考えた。本論ではその具体的な方法を現在開発中の「研修用教授法教材」を通 して紹介したい。

教師研修における<ワークショップ>の成果と可能性
−海外日本語教師短期研修の場合−

赤羽 三千江/古川 嘉子/堀内 まり

日本語国際センターでは、1990年春期研修から1991年夏期研修までの短期研修で、合計4回の〈ワークショップ〉を実施した。これは研修生が自主的にテーマを決め、計画を立てて作業を遂行していく形態の授業で、日本語、日本に関する調査・研究または教材作成を通 じ、研修生間の情報交流を促進すること、各研修生の教育現場で役立つ作品を完成させることを大きな目的としていた。この授業は研修生にも好評であり、67件の作品が完成した。しかし、具体的な作業の進め方、担当講師の役割、オリエンテーションや発表会の実施に関する問題など、さらに検討すべき点もある。ここでは、4回の〈ワークショップ〉の経緯を振り返り、上記の問題点を検証して、教師研修における可能性を探った。

海外日本語教師短期研修における<トレーニング>枠の考え方
−授業プログラム作成上の課題と提言−

荒川 みどり/笠原 ゆう子

国際交流基金日本語国際センターの海外日本語教師短期研修では、1990年度夏期から〈トレーニング〉が行われてきた。〈トレーニング〉では、期によって取り上げ方の重点が異なるものの、発音練習等の音声指導や、漢字習得を中心とする文字表記の指導が行われており、その在り方は各期で異なっている。

〈トレーニング〉は開始当初授業枠外で設定されていたが、1990年度冬期に正規の授業枠内に組み入れられた。それによって授業時間・客員講師配置・研修生に対する動機付けの配慮等授業の在り方に違いが生じ、指導内容・クラス編成・授業の回数や総時間数・講師配置・クラス間の統一性等考慮しなければならない点が増えてきた。

本稿では1990年度夏期から1991年度夏期までの5期について、各期の〈トレーニング〉枠がどのように設定・実行されたかを振り返る。また、目的と実際の成果 、問題点等を整理し、それらの問題点を授業部門プログラム作成の在り方と関連付けて考える。さらに、5期の〈トレーニング〉の相違や問題点のおおもとにある授業部門プログラム、ひいては短期研修全体についての考え方や在り方を見直すために必要な課題と提言を行う。

海外向け日本語モジュール教材『ようこそ』の制作について

飯田 恵己子/八田 直美

国際交流基金日本語国際センターは、国立国語研究所と共同で、海外向け日本語モジュール教材『ようこそ』の制作にあたっており、制作は1990年度より5か年計画で進められている。本稿では、教材の制作背景と基本方針について述べ、教材の使い方にも触れた。

この教材を制作する背景には、日本語学習者の急増によって引き起こされた問題がある。特に初等・中等教育レベルの日本語学習者の、全体に占める割合は高くなっており、(1)中等教育レベルにおける日本語教材の不足、(2)日本語講座の開設、増設に伴う日本語教師の不足や日本語教授経験の少ない教師の研修の問題などが指摘されている。このような問題に対応するための支援の方法として考えられるのが日本語モジュール教材の開発である。

モジュールというのは本来「基本単位」という意味であるが、本教材では、ある話題を中心としてまとまりを持つ教材の単位 を表す。この単位を学習者の興味やレベルに応じて選択し、組み替えができる教材は、学習者の多様化に対応するひとつの方策であると考えられる。話題や内容を中心とした本教材は、学習者が活動や課題解決を体験することによって言語学習を進めていくという特色がある。また、学習者が学習に主体的に関わるために、課題の前に自己目標を、課題の後に自己評価を設定した。

モジュール教材は視聴覚教材や印刷教材などを含む複合教材である。本教材の特徴は上記のモジュール性、内容中心、活動中心、学習者中心であるが、リソース性も挙げられる。これはモジュール教材を原教材と考え、多様な教育現場に適応すべく、改編・改善することを前提としている教材だからである。日本語教師がこの教材を現場に合うように加工し、使用することによって、学習者の活動を中心とした言語学習を体験することができ、本教材が教師の研修の役割を果 すことが期待される。

教材を制作する立場からは、海外の多様な教育の現状と動向を常に把握しつつ、海外との連携をよくして、現地での改編・加工のための支援をしていかなくてはならない。

日本語初級教科書における片仮名の扱い

酒井 和子

近年の片仮名語の氾濫に対して種々な意見が交わされているが、日本語教育の初級テキストにおいて片仮名はどのように扱われているのだろうか。

十二種の初級テキストを比較調査した結果。片仮名で表記される語は数例を除いて

に留まった。この中でも擬声・擬音語を取り扱わないテキストも多く、片仮名は結局外来の語及び音の表現としての役割でのみ使用されている場合が多いことがわかった。

また、テキストに出された片仮名語の提出順序を調べると表記の点からも、語彙数の課による偏り具合からも必ずしも易から難へというように配列されているわけではなく、目的やニーズの緊急性が優先されることが多いようだ。

更に、テキスト中の片仮名語中に出現する全ての音をもってしても、外来の語や音だけでは全音韻をカバーしきれていなかった。その上原音に対する特有の表記も加わるから、外国人学習者への片仮名指導を今以上に重視すべきではないだろうか。

次にどんな語が初級テキストで扱われているかを調べたところ、各々のテキストによって下記のようなかなり対照的差異が見られた。

  1. (1) 基本的な語彙を採用する
  2. (2) 時代の動向を反映した語彙を多く採用する

このどちらの姿勢でテキスト作成がなされるかは出版年代もさることながら、テキスト使用者のニーズが大きく関与している。

以上の考察から私自身は今後

  1. (1) 片仮名教育は初級で体系的に行うこと
  2. (2) 語彙の拡大を図り、多分野から積極的に採り入れること

が必要なのではないかと考える。