日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第3号(1993年3月発行)

目次

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論文要旨

中級読解教材の文末表現
−海外司書日本語研修の読解教材開発に向けて−

簗島 史恵/来嶋 洋美/楠本 はるみ/荘 由木子/福谷 正子/山崎 深雪

日本語国際センターにおける「海外司書日本語研修」は、本年度で3年目を迎えた。海外の図書館司書にとって、読解が必要となるのは、日本語図書のパンフレットなどを読んで収書をしたり、入手した本を目次や「はしがき」を参考に分類し目録を作成したりする場合で、その分野や内容は多岐にわたっている。現在、司書研修では、司書のために作成した独自の読解教材を使用しているが、その際に既刊の教科書を調査、吟味し、その結果 、多くの読解教科書の中で行われている非常に多数の文型練習が、果たして、生の文章を読む際に本当に役に立っているのか、という疑問をもった。そこで、生の文章に接する際により役立つような中級読解教材の開発のための基礎調査として、1.中級(主に読解)教材の現状と傾向について、その文型練習を中心に調査し、2.生の文章の一例として新聞の「書評」について、その文末表現の調査、分析を行うこととした。

その結果、2.既刊の中級読解教科書においては、非常に多数の表現を文型として練習させているが、複数の教科書に共通 して現れているものは大変少なく、また実際には語彙レベルの表現であると思われるものが数多くあった。2.書評の文末表現についても、私達が「文型」と考えるものはそれほど多くはなかった。しかし、読解指導の際に、それぞれの文章における語彙レベルの表現まですべて取り上げるのは不可能であり、効率も悪い。従って、教材を通 して指導すべき項目をもっと限定する必要性を感じる。今後も、今回の調査結果 をもとに、より短時間で、より効率の高い中級読解教材の開発、および指導のあり方の検討を進めていきたい。

日本語教育における日本人アシスタント導入の意義と可能性
−91年冬期の実践をもとに−

八田 直美/山口 薫

80年代に入り、日本語教育におけるコミュニケーション能力育成の重要性が強調されるようになるにつれて、教室だけを言語学習の場と捉えず、教師以外の日本人も学習者の学習を援助できるという考え方が広まってきた。そのような理論に基づいて、多種多様の教科書や教材が作られ、国内外の日本語教育機関でも様々な活動が報告されるようになった。

拙論では、学習者と日本語でコミュニケーションを行うことにより、学習を援助する役割を果 たす教師以外の日本人を、「日本人アシスタント」と呼び、日本語教育において日本人アシスタントを導入することの意義や可能性について考察を重ねる。具体的な実践例としては、91年冬期の海外日本語教師短期研修を中心に報告し、その他の日本語教育機関の取り組みについても紹介する。

過去の短期研修の研修生から、日本人と日本語で話をする機会がもっと欲しかった、という意見が多く出された。これは研修生が日本語国際センターに滞在している限りは、挨拶や簡単な受け答え以外で、日本語を使って意見を述べたりする機会に乏しいからであろう。先行研究でも、意味のあるインプットとアウトプット、即ち目標言語を使った自然な状況でのインターアクションが、言語の習得において重要な役割を果 たすことが示されている。

91年冬短期では、「課題演習」というワークショップ型式の授業に日本人アシスタントが加わり、日本語を使って日本語や日本社会に関する情報提供を行った。研修修了時には研修生と日本人アシスタントとにアンケート調査を行い、幾つかの改善すべき点を除いて全体的には良かったという評価を双方から得た。

日本人アシスタントの確保や維持、活動の評価、学習者の運用力と実際の活動に必要な言語能力とのギャップ等、検討すべき課題は依然として存するものの、日本人アシスタントの導入は、多くの可能性を秘めている。

コミュニケーション・ストラテジーを意識化させるために
−外交官日本語研修における「実用練習」を振り返って−

藤長 かおる

日本語の言語能力がまだ不十分な外国語話者が母国語話者との「接触場面 」でコミュニケーションを成功させるためには、コミュニケーション・ストラテジーを有効に利用することが必要である。コミュニケーション・ストラテジー能力は、教室外での学習の機会を増大させ、動機づけを高める上でも重要な役割を果たしている。

本稿では、外交官日本語研修の「実用練習」の一環として行った「電話番号案内」「問い合わせ」という電話を使ったタスクの実践過程を振り返り、研修生のコミュニケーション・ストラテジーについて観察・分析し、今後の指導のあり方を探った。

研修生が示したコミュニケーション・ストラテジーについては、話し手としては、不正確な発音を補うために、他の語句での補足・説明というストラテジーを使用した。聞き手としては、相手の発話に対する理解度を示し、理解可能な発話を引き出すために「聞き返し」のストラテジーを使用した。「聞き返し」のうち、予測した情報についての聞き取りの能力を補うための「聞き返し」はかなり習得されているが、予測されない発話に対する内容理解能力を補うための「聞き返し」では困難な場合が多かった。形式としては、「すみません。もう一度言ってください。」のように相手に全文反復を要求するものと、聞き取った部分を繰り返すものがほとんどで、丁寧さや明示性では課題が多い。

今回の試みは、研修生自身が自己の言語能力の不足を学習課題として認識できたこと、コミュニケーション・ストラテジーの有効性について体験でき、自分の日本語にある程度自信を持つことができたという意味で有意義であった。今後、言語能力の訓練とコミュニケーション・ストラテジー能力の訓練をコース・デザイン全体の中でどう関係づけ、どのような方法で段階的に行っていくかさらに研究したい。

ソレガについて

浜田 麻里

本稿は指示詞ソレと助詞ガの単純な和では説明できない接続語としてのソレガの機能と基本的な性質について考察するものである。

ソレガは「PソレガQ」のPの内容から予想される結果が後続のQ部の内容と異なっていることを、事柄の生起の順に、話し手の判断を交えず述べていく逆接の機能がある。対話で用いられる場合には、ソレガは相手が持つ期待に反する内容の発話をすることを示す。また、逆接以外の機能として、情報が続けて提示される時に後続部が情報価値の高いものであることを示すというものもある。これらは全てソレガが「物語性」という特性を持つことにより説明される。

このようなソレガの機能に共通する基本的な性質は「ここからあなたの知らない話を始めるよ」ということを話し相手に伝えることである。