日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第4号(1994年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート

調査研究報告


論文要旨

学習者ストラテジーと言語習得
−外交官日本語研修における調査から−

折笠 摂子/浜田 麻里

外交官日本語研修の研修生が日本語の習得に成功するか否かを決定づける要因の一つとして、本研修での授業の形態に適応できたかどうかということが深く関係している。それを確かめるためには、研修生各自の学習行動と習得の過程を観察する必要があるが、その際に「学習者ストラテジー」という視点からの調査が有効であった。ここで筆者らが考える「学習者ストラテジー」とは「学習者が(授業その他でさまざまな)インプットと接する際に採用する行動の型」のことである。それは学習者の背景によって決定され、またそれはインプットおよびその提示のされ方に合わせてある程度調節されるものである。しかし、その調節が適切に行われないとストラテジーとインプットおよびその提示のされ方の間に不適合が生じ、言語習得は進まない。本稿ではこの仮説にしたがってモデルの試案を提出し、研修生への実際の調査結果 を当てはめてその有効性を検討するとともに、それを用いて「学習者ストラテジー」に配慮した教授活動と学習者への支援をどのように行ったらよいかを考察した。

中級文型の格付けの試み
−既刊教科書における頻度調査に基づいて−

来嶋 洋美/簗島 史恵/楠本 はるみ/荘 由木子/福谷 正子

筆者らは、『日本語国際センター紀要』第3号において、「中級読解教材の文末表現」と題し、1.中級(主に読解)教材の現状と傾向について、その文型練習を中心に調査し、2.生の文章の一例として新聞の書評について、その文末表現の調査、分析を行った。そして、既刊教科書において練習させている表現は数多いが、複数の教科書に共通 のものは大変少ないことがわかり、それらを何らかの方法で整理する必要があると述べた。

本稿は、前回得た結果を基にし、中級の文型を絞ることを試みた。その一試案として、既刊の 中級教科書で扱われている「文中」の文型を取り上げ、頻度の高い360文型を抽出し、その頻度を参考に5つのランクに格付けを行った。

また、今回の調査では、中級文型の特徴として、1.助詞相当句と呼べるもの、2.否定の呼応表現、3.初級文型に新しい情報を付加した形で提示されているもの、が多いことを指摘した。と共に、初級文型との重なりにも注目し、それらの文型の扱いに関する考察を加えた。今回の調査結果 を生かし、今後更に「中級」全体像の構築を計りたい。

聴解テストの条件

笠原 ゆう子/木山 登茂子/浜田 麻里/古川 嘉子/横山 紀子

海外日本語教師長期研修では、能力に開きのある研修生を適切にクラス分けするために、これまで第1学期開始時にプレースメントテストを行ってきたが、このテストにはテストでの聴解活動と実生活での聴解活動が一致していないという問題点があった。そこで、テストという制約の中で、テキストやタスクの「自然さ(authenticity)」を高め、テストにおいて実生活での聴解能力を測れるようにすることを目標に、1992年度第1・2学期の期末テストを作成した。

本稿では、作成した聴解テストの内容的妥当性について検討するため、まず、「自然な聴解とは何か」について考察し、その結果 得られた「テキストの自然さ」「聞き手の役割の自然さ」「タスクの自然さ」の観点から、3つのテストが「自然な聴解活動」をどの程度反映しているかをチェックした。構成概念妥当性については、Rost(1990)の考える聴解スキルを聴解能力と規定し、それぞれのテスト問題がどの聴解スキルをどの程度測定しているかを検証した。その結果 、内容的妥当性に関しては成果を得られたが、構成概念妥当性に関しては未解決の問題があることがわかった。

また、さまざまなレベルの研修生の伸びを測るためには、さまざまな難易度の問題を用意する必要がある。そこで、3つのテスト分析の結果 や先行研究を参考に、難易度に関わると思われる要素を調べて、これからのテスト作りへの指標とした。

「組み込み型協同研修」の実施と今後の課題
−1992年度クイーンズランド州日本語教師研修をふりかえって−

嶋津 拓/坪山 由美子/簗島 史恵

日本語国際センターではオーストラリア・クイーンズランド州教育省と協同で、1992年夏の2カ月間、初等中等教育レベルの公立学校に勤務する現職教員を対象に、再養成のための研修を行なった。この研修は同州の全1年間の研修のうち第3学期を日本での6週間の授業と1週間の旅行に当てたもので、「組み込み型協同研修」としてセンター初の試みである。

研修内容は、あくまでも訪日の前後の研修との関連性を重視し、クイーンズランド側との協議を重ね、本研修のためのシラバス(週ごとにトピックを設定してそれに四技能の習得を連動させたもの。研修生の現地教育事情を踏まえている。)を用意した。更に、「日本事情」「課題演習」「個別 指導」などの科目で、実際に教壇に戻った時点での訪日経験の意義を考えた内容を計画した。

研修をふりかえって、このような「組み込み型協同研修」における今後の課題をまとめると、次のような点が挙げられる。まず、研修生集団の共通 項が多いため、研修目的や内容は絞りやすく具体的に設定しやすい反面、研修生の要求も強くなるので、事前にどの程度必要な情報を得られるか、そしてそれをいかに整理し活用できるか、が研修生の達成感を大きく左右する。更に、特定の国の教師養成に関わる際には、センターの既存の教師研修に比べて、よりセンター側(日本側)の立場を明確にする必要に迫られる。特に研修生自身と当該国や派遣元の機関のニーズに齟齬が生じた場合、センターとしてはどう対処すべきか、今後、検討を重ねていく必要がある。

昨今、各国で現地主導の教師養成が進められており、センターがそれらに個別 の協力を求められることも多くなってきた。本稿に述べた今回の研修実施における過程と結果 が、そのような協力方法を模索する一助となれば幸いである。

大韓民国高等学校日本語教師研修における「総合教授演習」授業について
−日常の教授活動からの一歩−

荒川 みどり/三原 龍志

本稿では、1993年夏に2カ月間にわたり実施された大韓民国高等学校日本語教師研修で試みた「総合教授演習」の授業枠の考え方、計画準備、そして実際の授業の運営経過と、その成果 、課題について述べる。

この研修は、韓国の高校の教師だけを集めて行われた初めての研修であり、従来の短期研修では実現できなかった研修生集団の等質性が、母語、教授対象、教授歴、カリキュラム他教育現場の諸条件、使用教材などの諸点で実現した点に大きな特徴がある。研修授業の準備担当者は、このような研修生集団の等質性を最大限活かし、1996年度実施予定の韓国の新教育課程への橋渡しとなるような授業プログラムを考えた。

その柱となる授業が『総合教授演習』である。これは、教師が提示する課題を個人やグループで解決しながら、今、自分がどのような教師であるか、どんな授業をしているかを振り返り、さらにどんな考え方が効果 的なのか、どのようにして学習者の意欲を高め、会話の力を上げる授業が実現できるか等、各自が望ましいと考える授業をそれぞれの現場の状況で実現する方策を探る時間である。

授業は第1期と第2期に分かれ、第1期では、オリエンテーションや準備が行われる一方で、研修授業の他の授業枠で、教材の使い方に関する必修の授業を受けて、本格的なグループ作業に入る素地を整え、第2期の3週間で授業の目標設定、略案、細案作成等、模擬授業を目指して作業が進められた。総計33時間の短いコースであるため、研修授業最終日の模擬授業の発表と自己評価をコースの一応の到達点としたが、帰国後今回の授業の成果 が日常の授業を見直していくきっかけとなることも期待したい。

終了後の研修生の声からは教え方や教授技術の工夫の必要性に気づいたとか、補助教材の活用等具体的な方策に手がかりやヒントを得たといった成果 が読み取れる。

授業を担当した教師の所感としては、当初の目標の一つであった、自己の教授活動を変えていく必要性や、その可能性に気づかせるという点では明らかな成果 が得られたが、授業そのものの運営方法、特にグループ作業になれていない研修生をどのように活性化させるかといった点は、まだ今後の課題として検討しなければならないと思われる。

タイ国における日本語学習経験者の日本語使用状況

北村 武士

本稿は、タイ国チュラロンコン大学文学部日本語講座受講性の卒業後の日本語使用状況などについての調査報告である。調査は卒業生へのアンケート形式で行い、「来日経験」「現在の職業」「日本語を仕事でどのように利用しているか」「役に立っているか」「どんな技能が必要か」「卒業後、向上した技能・低下した技能」「仕事以外ではどのような目的で日本語を使用しているか」などについて質問した。それらの調査結果 の数値を示し、それについての解説および分析を行った。その過程で、仕事で使用する日本語技能と卒業後の日本語力の変化の関係について見たり、習得希望の日本語技能と職業の関係などについて見たりした。

「海外の中等教育機関における日本語教育の現状と教材制作への方向性」
−教材制作のための事前調査を終えて−

坪山 由美子/向井 園子

韓国をはじめとしてオーストラリア、インドネシアなどのいくつかの国で日本語を初等・中等教育レベルの正規の教科の一つとして扱っていることからもわかるように、初等・中等教育レベルでの日本語学習者が急激に伸びている。一方で、日本語を教え、学ぶための環境(教師、教材を含む)がその学習者数の伸びに追いついていないのが現実である。

日本語国際センターでは、そのような状況に鑑み、後期中等教育レベルの学習者向けに日本語教材を開発することとなった。教材制作の指針の設定に当たっては、資料調査、ヒアリング調査を行ったが、更に、その教材作成の指針の妥当性を諮ることならびに、シラバスや教材のデザインを決定する上で参考となる情報を得ることを目的として、アンケート型式による事前調査を実施した。調査項目は、学習環境、学習者像、教師像を把握できるような22項目を設定した。

本調査は、その目的や規模からして、海外の日本語教育機関の現状およびニーズに関する全体像を得ようとするものではないが、調査の集計結果 の分析から教材開発の方向性を探る手がかりを得ることができたと考えられる。