日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第5号(1995年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート


論文要旨

起点を表す「から」と中国語の「从」について

王 崇梁

日本語の「から」と中国語の介詞「从」は、両者とも起点を表し得る点で共通 する。しかし、同じ起点を表しても、使い方などすべてが対応するものではない。日本語の「から」一語がもつ意味と機能を、中国語では「从」だけで対応できる場合と「从」だけでは対応できず、ほかの語と一緒に「从……里」「从……起」等の形で対応する場合とがある。そのほか、「从」はまったく使えず、「之后」「萬」「由」などの形で対応する場合もある。

本稿では、「から」と「从」の以上のような相違を日本語の小説の中国語訳等から多くの例を用いて、比較・対照を行った。その結果 、「から」と「从」はどちらも場所・時間・変化の起点を表すものであることが確認された。しかし、名詞の性質や動詞の種類によって、日本語の「から」は変わらないが、中国語との介詞「从」はいろいろな組み合わせが出てくることが分かった。そして、その「从」の組み合わせが日本語の「から」とはどのような関係であるのかもいくつか明らかにした。

クイーンズランド州ブリスベンメトロポリタン地域における日本語教師再教育プログラム
−運用力向上のために−

藤長 かおる

クイーンズランド州教育省では、LOTE CENTRE所属の各外国語のアドバイザーが中心となって、初等中等教育レベルの公立校の現職の外国語教師を対象に、各種のイン・サービス・プログラムを実施してきた。イン・サービスは、教材の使用法や教え方の向上と、運用力の向上という二つの目的を併せ持つが、従来の1日~3日というイン・サービスの方法では、外国語の運用力そのものを高めることは大変に難しい。  このような状況の中で、1994年には、従来のイン・サービス・プログラムに加えて、運用力の向上を目的とした、特別 の「再教育コース」を設けることになった。この「再教育コース」は、(1)遠隔地の教師対象のtele-learningコースと(2)ブリスベンメトロポリタン地域の教師対象の通 常のクラスコースの二つのわかれるが、現在、2週間に1回、全9回の1学期のコースが終了し、2学期のコースが継続中である。

本稿は、後者のメトロポリタン地域の教師対象の「再教育コース」に焦点を当て、その計画実施過程を振り返り、今後のあり方を模索するものである。クラスの時間数も少ない「再教育コース」では、(1)コースの継続性を最大限に生かしたクラス外での自己学習を積極的に支援するプログラム作りと、(2)学習者のタイプやレベルを考慮したさまざまなアクティビティのアイデア、そして、(3)学習者同士が協力して学び合える場の提供、さらには、(4)学習者自身が研修コースを作り上げていけるような学習を支援する者と学習者の協力体制の確立が重要かと思われる。

コース途中のレポートであるが、よりよい「再教育プログラム」を模索する一助になれば幸いである。

米国における中等教育日本語教師研修
−ロス・アンジェルス日本語センター夏期研修の報告−

横山 紀子/兜森 公子/古山 弘子

国際交流基金ロス・アンジェルス日本語センターにおいて行った中等教育日本語教師を対象にした5日間の夏期研修について、研修目標と研修内容を報告し、研修の分析と評価を試みた。

研修の目標は、次の理由から自己の教授活動を客観的かつ批判的に見る「自己評価」の視点を育てることとした。1)教育の画一化、統一化を好まない米国の土壌を考慮し、参加者自らが自分の教授環境に最も適当な教授理念と教授方法を模索できるようにすること。2)教授活動を本質的に支える分析力、考察力、判断力などの開発のために自己評価の機会を提供することは効果 があるのではないかと考えたこと。

研修内容の概要は次の通りである。研修開始前の予備活動としては、各自の授業を録音/録画したものをもとに自己評価を行うという課題を課した。研修中の活動としては、まず、コミュニケーション能力育成のための言語教育に対する理念をAlice Omaggio(1993)の「仮説」を土台に話し合い、各自の言語教育に対する考え方を確認した。次に、その理念を実践するための教授活動の枠組みやチェックポイントを教室活動のデモンストレーションを通 して考えた。さらに、その枠組みやチェックポイントをもとに各自が授業計画をたて、模擬授業を行った。最後に、模擬授業の録画を視聴して自己評価を行った。

研修開始前と研修中の2回の自己評価を比較・分析し、また研修最後に参加者に記入してもらった研修評価のためのアンケートの結果 も考慮して、本研究の成果と課題をまとめた。

外国人日本語教師のための日本語クラスについての試み

八田 直美

日本語国際センターで実施している外国人日本語教師のための短期研修では、教授法や日本事情に関する授業に加えて、研修生自身の日本語運用力を高めるクラスを設けている。本稿では、能力別 に分けられた日本語クラスの中で、運用力が低い研修生を対象とした話題シラバスの日本語クラスについて報告する。  話題シラバスによる授業を行うようになったのは、研修生にとって、技能別 ではなく、4技能を統合した教授法が必要だったこと、コミュニケーション活動を通 して日本語を学ぶことが求められていたこと、日本文化や現代の日本人の生活について研修生が強い関心を持っていたことなどからである。話題には、「私の家族」や「一日の生活」、「食事」など日常生活に関わる9つを取り上げた。  この話題シラバスによるクラスは、研修生には概ね好評であったが、研修生からの反応として、文法への強い関心と教授法や教材への関心が示された。文法知識は教師として自信を持って教えるためであり、教授法や教材への関心は自己の授業技術の向上、改善のためだと考えられる。運用力の低い研修生にとって、まず必要なのは運用力の向上であるが、さらに、教師研修の視点から、文法教育と教授法を取り入れ、実用的な研修作りを考えていきたい。

大韓民国高等学校新「教育課程」と模擬授業の試み

坪山 由美子/前田 綱紀/三原 龍志

日本語国際センターでは、「大韓民国高等学校日本語教師研修」が1994年度に引き続き実施された。本稿の目的は、同研修において力点を置いた教授法科目の一つである「総合教授演習」の模擬授業を、どう構想し実施し、結果 は如何であったかを報告することにある。

同研修においては、初年度から一つの目標としたことがあった。韓国では、日本の文部省にあたる教育部が1996年度から高等学校教育課程(指導要領)を改定することを決定している。その中の日本語Ⅰの「方法」の部分に、「聴解発話に重点を置く」「教師と生徒及び生徒と生徒の間の活動を展開する」「生徒に能動的に表現しうる機会を与える」という内容が盛り込まれている。目標は、その実現の可能性を模索させることである。そのため、研修生に自己の授業を振り返り、他者の授業を参考にし、諸々の技法に関する情報を収集する機会を提供する科目を設定した。それが模擬授業である。  模擬授業は、少人数で実施した。その際昨年度の反省に鑑み注意した点は、模擬授業を全員に課すこと、グループの構成を少人数にすること、マイクロティーチングを強調すること、全員にフィードバックの時間を設けることであった。この方針の下に模擬授業を実施した。今後の課題は、相互啓発を目的としたグループ活動を徹底させること、教授法関連用語の確認作業を組み込むことがある。また問題点は、模擬授業で日本語として不適切な表現が散見されたことがある。

研修の結果、事後アンケート調査を見ると、具体的な教授活動についての言及が増えていた。これは、模擬授業を全員に課したことと、フィードバックを徹底したことの現れであると推測される。また研修修了後授業見学を行ったところ、できる限り日本語で授業を進行させようとしていること、生徒を視野に入れていることが看取された。

日本語口頭能力テストに関する考察
−今後のテスト開発に向けて−

笠原 ゆう子/木山 登茂子/八田 直美/浜田 麻里/古川 嘉子

海外日本語教師長期研修では、研修生の口頭表現力の向上が課題となっている。研修生の口頭表現力の伸びを図るために、これまで研修の始めと学期の終わりに定期的に口頭テストを実施してきた。長期研修の口頭テストの目的は、研修生のその時点でのレベルを判断し、前回のテストからの変化を見て、さらに上のレベルへいくために必要なフィードバックを行えるようにすることである。この目標に鑑みて、長期研修の口頭テストを目標準拠テストに改訂していきたいと考えている。目標準拠テスト作成準備のために、まず、口頭テストでどんな能力を測るか検討しなければならない。また、どのように測り、どのように評価するかも検討する必要がある。本稿では、テストの測定対象として想定される能力を規定するために、主な言語能力や言語能力のモデルを概観する。また、測定や評価の方法の検討のために、ACTFL-OPI、FSI言語口頭試験、ミドルベリーカレッジ夏期集中講座プレースメントテスト、長期研修口頭テストの4つのテストを取り上げ、比較検討する。さらに、今後のテスト改訂に向けて課題の提言を行う。

内省活動を取り入れた教授法授業
−長期研修 日本語教授法授業再考−

笠原 ゆう子/古山 嘉子/文野 峯子

海外日本語長期研修の日本語教授法授業では、研修生が客観的に自分を分析できるようになることを目標としてきた。模擬授業や教育実習等の実践的活動を行い、それを内省することで、目標の達成をはかろうとしてきた。しかし、1993年研修においては、実践的活動と内省が効果 的には連動していないことが観察された。そこで、まず初めに、これまでの教授法授業と教育実習の軌跡をたどり、教授法授業の目標とアプローチの検証を行った。次に、1993年度研修での教育実習反省会での話し合いを分析し、その結果 、そこでの話し合いが、目標とする自己の客観化にはつながらず、内省の場として機能していないことがわかった。さらに、その原因をさぐるため、1993年度研修の教授法授業の内容と方法を分析した。そこで、教授法授業のインプットが実用的知識に偏っており、内省に必要な理論的知識が不足していたことが明らかになった。以上の分析により、今後の教授法授業の改善にあたっての方向を提言する。