日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第6号(1996年3月発行)

目次

(各論文タイトルをクリックすると、それぞれの論文要旨にジャンプします。)

研究論文

研究ノート

調査研究報告


論文要旨

アクセント型の意識化が外国人日本語学習者の韻律に与える影響

磯村 一弘

外国人日本語学習者の産出する日本語のアクセントについて調べた。学習者が日本語のアクセントに関する理論的知識を得て、アクセント型の違いを実現しようとした場合の発音の韻律的特徴について、アクセント型の違いを意識しなかったときの発音と比較した。学習者の発音は、アクセント型の差異を意識する前は、名詞のアクセント型にかかわらず全ての名詞がほぼ共通 の傾向を示したのに対し、アクセント型の違いを意識させた後では、名詞によって異なる様々な韻律の形を用いるようになるのが観察された。このとき、学習者の発音には、次のようないくつかの傾向が見られた。

  1. ほぼ母語話者に近い韻律の形でアクセント型の違いを区別できる。
  2. アクセント型の違いを区別しようとするが、不十分である。
  3. 母語話者とは異なる方法で、アクセント型の違いを実現しようとする。
  4. 異なる様々な韻律の形を使ってみるが、アクセント型に合ったものを選択できない。

アクセントの意識化が、全ての学習者において、程度の差はあるがこれまでよりも日本語の正しい韻律へと近づくきっかけとなったことがわかった。日本語のアクセントについて理論的な知識を得て、目標言語の音声を明確に意識化することが、日本語の正しい韻律の習得には有益であるといえる。

学習者が述べた第2言語習得歴の事例分析
−「インプット仮説」とその批評をめぐって−

横山 紀子

Stephen Krashenの「インプット仮説」の枠組みを利用して学習者自身が述べる第2言語習得歴の分析を行った。Krashen(1994、inpress等)は、言語習得にとって唯一の不可欠な要素は「理解可能なインプット」であるとし、それに対して、これまでの言語教育において重要な要素だと考えられていた「アウトプット」「アウトプット」「意識的学習」「誤用訂正」はごく限定的な役割を果 たすにすぎないと主張している。小論では、34の事例に述べられた言語学習/習得の要素を「インプット」「意識的学習」「誤用訂正」の4つに分類して分析し、「インプット仮説」と同仮説をめぐる様々な批評を視野に入れながら分析結果 を考察した。

分析の結果、まず、言語運用力養成にとって最も重要な要素は多量の「インプット」であるという点が確認され、「インプット仮説」の基本的な主張を裏付けた。

「アウトプット」については、半数弱の事例がアウトプットを有益な要素であるとしていた。しかし、アウトプットとインプットを峻別 すること自体が問題を含んでおり、むしろアウトプットの機会がインプットをより理解可能にするために有益になりうるのではないかと述べた。

また、文法学習などの「意識的学習」については、意識的学習は後に目標言語でのコミュニケーションの機会を得た際に習得を促進する効果 があるとする事例が数多く観察された。

以上の分析結果を踏まえ、日本語教育の実践において、1)インプットの効用を再評価する必要性と、2)学習者の興味や学習スタイルに応じてアウトプットやインターアクション、意識的学習などを柔軟にとりいれる必要性を述べた。

海外における若手non-native教師養成のための日本語Team Teaching

百瀬 侑子

Team Teaching(TT)による日本語教育は学習者にとって有効であるだけでなく、現場の教師養成のためにも有効である。ガジャマダ大学では日本人派遣専門家(native教師)と経験の浅いインドネシア人教師(non-native教師)がチームを組んで一年生を対象にTTによる日本語教育を行ってきた。TTがnon-native教師にもたらした成果 は、1.日本語力の向上、2.対照言語学的視点の拡大、3.自己の教授活動の内省、4.教授技術の向上、5.教師としての自信の深まり等である。問題点としては、1.教師への時間的な負担、2.相互理解の難しさ、3.授業に関するフィードバック時間の不足等が挙げられる。

native教師とnon-native教師が協同で行うTTにおいては、両者の持つ特性に注目して、それぞれの特性を生かすことが重要であり、それにより複眼的な質の高い教授活動が実現できる。また、non-native教師は自己の役割の重要性を認識することによって、教授活動への意欲と自信を深めることができる。

TTによる教師養成を海外で成功させるためには、計画性と目標設定、コースデザインの協同実施、TTシステムの効率的な管理運営、人間関係の構築等、いくつかの必要条件がある。条件が整えば、TTシステムの循環・発展の中で、non-native若手教師は教師として成長を重ね、次世代の教師を育成する指導教師になりうる。すなわち、native指導教師に頼らないnon-native主導型の教師養成システムが実現できる可能性があるのである。

「初中級日本語学習者のコミュニケーション能力についての一考察
−話し手としてのコミュニケーション・ストラテジーの観察−

藤長 かおる

本稿は、初中級日本語学習者の話し手の方策としてのコミュニケーション・ストラテジーを観察することによって、そのコミュニケーション上の問題や特徴を探ろうとするものである。

94年度冬期短期研修研修生初等中等教育教員グループ1クラス16名を対象にして行った最終インタビューを発話標本として、Faerch,C. and G. Kasper(1983)のコミュニケーション・ストラテジーの類型を参考に、学習者が使用した発話ストラテジーを分類・記述した。

今回の資料においては次のことが観察された。

  1. (1) 聞き手に会話の完成を求めたり、自分の発話の正確さや理解の確認を求めたりという、対話者との「共同解決型」のストラテジーが多く使われている。
  2. (2) 聞き手との間に目標言語以外の共通語が存在する場合には、それに依存した「コード・スイッチング」が多く見られる。
  3. (3) 「パラフレーズ」や「代用・言い換え」といった「目標言語指向」のストラテジーは上手に使える段階に到達していない。
  4. (4) 話題が高まった場合、(3)とは対象的に、「形式の簡略化」や「伝達内容の簡略化」のストラテジーを用いることによって、コミュニケーションの当初の目票を縮小・調整しながら会話を維持している。

以上の観察結果から、初中級学習者の話し言葉は聞き手依存度が高いといえるが、それだけにコミュニケーション・ストラテジーの有効な使用が、運用力の不足を補い会話を維持していくためのひとつの鍵になっていると言えよう。

中級文型格付けの試み(2)
−新聞・雑誌の文中表現の頻度調査から−

荘 由木子/綛田 はるみ/簗島 史恵

中級の読解の授業において、取り上げられている文型の数が非常に多いために教師も学習者も困惑してしまうという現状がある。筆者らは、この現状を改善するために調査研究を続けてきたが、その一貫として、『日本語国際センター紀要』第4号において、既存の中級読解教科書における文型の出現頻度を調査した。そして、その結果 に基づいて、360文型を抽出するとともに、それらを頻度順に5つのランクに仮に格付けした。

本稿では、現実のデータに基づいた中級文型の絞り込みのために、学習者が目にする機会の多い新聞および雑誌を対象に、この360文型が実際にはどのような頻度で現れているのかを調査し、紙上では上位 100文型を報告した。これらの文型の特徴としては、1.時、原因・結果を表す文型や情報伝達に必要な文型など、報道関係の文章の特徴と見られるもの、2.条件を表す文型、3.助詞相当句が多いことが挙げられる。また、いわゆる初級文型との重なりを指摘するとともに、それらの中級での扱いについて再検討の必要性を述べた。さらに、360文型の新聞、雑誌間での出現度を比較することにより、それぞれの文章ジャンルに特有だと思われる文型についてまとめた。

一方、前回の調査と今回の調査の両方またはいずれかで出現度が低かったものについて考察し、中級読解における重要度があまり高くないと思われる文型について言及した。

今後も調査対象の文章ジャンルを広げ、より信頼性のある中級文型の作成リストを志したい