日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第7号(1997年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート

調査研究報告


論文要旨

自己修正と日本語の運用力の関係について

小坂 昌子

O'Connor(1988)は、アメリカ人学習者のフランス語中間言語(以下、仏中間言語)に現れた自己修正(self repair)をACTFL OPI(Oral Profocoency Interview)のデータを元に分析した。その結果 確認した、学習者の運用力と自己修正の相関関係について次のように発表した。語彙の交換や音声又は語彙の訂正など、発話文の構造上の正確さを求める訂正的修正(corrective repair)は運用力の低い学習者のデータに多く、反対に上級以上の学習者のデータには、挿入や言いよどみといった、談話上の計画的または予測的な修正(anticipatory repair)がより多く見られた。

本研究はO'Connor(1988)のモデルと用語に基づいて、アメリカ人の日本語学習者がOPIの際に行った自己修正について、中級グループと上級グループに分けて談話分析を行った。その結果 、1)仏中間言語には見られなかった、語形や助詞に関する修正が日本語の中間言語(以下、日中間言語)では観察された。 2)日中間言語では、語彙を訂正の対象とする訂正的修正と、追加挿入を行なう談話上の予測的修正の二種類の修正が、中級と上級の両グループで数多く観察された。3)そこで、中上級の両グループにおける追加挿入の発現頻度について比較分析を行なったところ、中級グループと比較して上級グループの挿入の頻度は明らかに高くなっており、そこには運用力による差が認められた。

本研究は試論であり、限られた数の被験者によるデータだけで最終結果とするものではないが、O'Connor(1988)が述べる二種類の自己修正と外国語運用力の相関関係に関するモデルが日中間言語においても有効であり、日本語の運用力の違いと自己修正について関連性があることを報告する。

上級学習者における格助詞「を」「に」「で」習得上の問題点
−助詞テストによる横断的研究から−

生田 守/久保田 美子

本論文は上級レベルの日本語学習者の格助詞「を」「に」「で」習得上の問題点を解明することを目的としている。中、上級レベルの学習者は、同一の助詞が複数の意味機能をもつことや、類似した意味機能を複数の助詞で使い分けることを学習する。しかし、この分野の習得に関する実証的な調査はまだ少ない。本研究のための調査では、助詞の細分化した意味機能をできるだけ網羅したテスト問題を作成し、50名の被験者を対象に実施した。被験者は日本語能力試験1級レベルを基準として、合格者、もしくは合格者と同じレベル以上と判断した者に制限した。50名の国籍は17か国に及ぶ。

助詞テストは、格助詞「を」「に」「で」「へ」「と」「から」「より」と副助詞「まで」の格助詞的用法に関して行い、総問題件数は160件である。本論文では、上記の助詞の内、特に格助詞「を」「に」「で」に関する調査結果 について、分析、考察をおこなった。

助詞「を」は7、「に」は15、「で」は7つの意味機能に関してそれぞれ複数のテスト問題を作成したが、それぞれの意味機能別 の誤答傾向の分析から、次のことが帰結された。

  1. 〈1〉 対象を表す機能において助詞「を」の過剰一般 化がおこっている。
  2. 〈2〉 感情を表す助詞の対象を表す機能において助詞「を」「に」「で」の間に選択上の混乱がある。
    さらに、問題文別の誤答傾向の分析から、次のことが帰結された。
  3. 〈3〉 理解語彙の範疇にしかない語彙に対して助詞を選択する際、類似した意味機能において助詞選択の誤りが多く起こる。

これらの分析結果から、上級学習者の助詞の習得に関して、助詞ごとのおおまかな習得の状況ではなく、細分化した意味機能のどこに問題があるのか、ある程度解明できたものと考える。今後は今回とりあげなかった助詞に関しても分析を広げ、助詞の取得上の問題をさらに考えていきたい。

中等教育におけるアクティビティ中心の教室活動を考える
−オーストラリアのセカンダリースクールでの実績報告−

藤長 かおる

本稿の目的は、筆者が1994年にオーストラリアの中等教育の10年生を対象にして行った「テレビコマーシャル作り」というアクティビティをひとつのケーススタディとして、中等教育におけるアクティビティ中心の教室活動の意義と問題点を考えることである。

上記のアクティビティで評価される点としては、1)インプットに用いた生教材が学習者の興味を引き出し、認知面 でより高度な活動に対する学習動機を高めたこと、2)学習者が創造的な活動を通 じて自己表現の手段として生き生きと言語を使用したこと、3)学習者同士の相互作用が活発になり、協力して学習を行ったこと、4)学習者が映像や語彙の持つメッセージに注目し、言葉の役割や使い方に興味を持つようになったこと、が挙げられる。

一方、問題点としては、1)システムとしての言語(文型、文法)という観点に欠けていたこと、2)文型定着のための活動が十分に行えなかったこと、3)文化を伝えるものとしてのリソースの選択の視点が不明確であったこと、が挙げられる。

現在のオーストラリアの中等教育では、リソースやアクティビティのアイデアが増えてきているとはいえ、コミュニケーション力をバランスよく発展させつつ、子供達の知的・文化的成長を促すアクティビティ中心のコースデザインをすることは容易なことではない。現場の教師は、多様な学習者を前に、外国語学習の到達目標の何にどう焦点を当てどう総合発展させていくかを決定していかなければならないが、そのためにも、教育現場で行われるアクティビティに対する評価と経験の共有化を行なっていかなければならないと考える。

中国大学・学院日本語教師研修における〈課題研究〉について

木山 登茂子/高 偉建/篠崎 摂子

中国大学・学院日本語教師研修の「課題研究」科目は、これまでの海外日本語教師短期研修で設定されてきた、研修生が自主的に活動を行う授業枠を踏襲したものである。本稿では、1993年渡から1995年度までの研修を振り返り、中国の研修生にとってより有効で実際的な「課題研究」の実施方法を考察した。

本研修に参加する研修生の特性としては、全般的に日本語運用力が高く、特に読解による情報収集能力に秀でていることがあげられる。その一方で、来日経験や日本についての情報量 が少ないため、日本でどんなことができるか具体的なイメージが持ちにくく、日本で何をしたいかという明確な目的を持って来日するものが少ないという実情がある。そのため、「課題研究」科目のように、自分でテーマを決定して活動計画を考えるような自主的な活動には馴染みにくい側面 がある。このような点に配慮しながら、来日の機会を最大限に生かし、研修性各自が達成感を得られるような「課題研究」の方法を模索してきた。

そして、1994年度から採用しているのが、事前に用意されたいくつかの機関の中から訪問先を選択し、研修生だけで訪問調査を行い、その結果 を情報交換会で発表するという活動である。この活動では、読解能力が高いという中国人研修生の特性を生かして訪問先機関の資料を分析させるなど、訪問調査の前に十分な準備を行わせ、訪問調査の内容がより充実したものとなるように配慮している。また、事前に訪問先を確保することで、個人では交渉が難しい企業や大学、公的機関を訪問する機会を提供することができる。そして、このような一連の活動を通 して、研修生各自に日本理解の一つの方法を体得してもらいたいと考えている。

非母語話者教師研修における「聴解・口頭表現」授業の試み
−ディベート活動を通して−

野山 広/八田 直美/古川 嘉子/文野 峯子

国際交流基金日本語国際センターで実施している海外日本語教師長期研修では、現職の非母語話者教師の再研修の場として、多様な背景を持つ研修参加者が教師としての成長を遂げることを目標としている。ここで言う教師としての成長とは、教える対象としての日本語の知識や運用力の向上、教授知識や技能の拡充、研修活動全体を通 しての異文化間コミュニケーションの基本の理解、そして上記のものを総合して学習者にとってわかりやすい授業の計画・実施が行えるようになることであろう。

本稿では、長期研修の日本語演習科目の中の「聴解・口頭表現」授業を取り上げ、研修参加者が自己の日本語運用力の向上と異文化体験の方法としてのディベートをどのように評価したか、また教師として自国の日本語教育への活用に関してどのように判断したかを分析する。今回の分析を通 して、教師研修における日本語演習科目では、教授活動についての討論やアンケート、カウンセリングなどを用いて、研修参加者に活動の目的や意義及びその成果 を意識化させることが必要であるとの結論に至った。さらに、日本語演習科目が研修生にとって多様な教授・学習活動の体験の場となり、自己の授業改善の一助となるよう、授業内容・方法に検討を加えていきたい。

外交官の日本語使用実態調査
−外交官日本語研修における「学習目的重視の日本語教育」を目指して−

木谷 直之

外交官日本語研修では、外交官にとって職務遂行上必要になる専門日本語とは、具体的にどのような日本語なのか、9カ月という研修期間でどの程度教授するのが適当なのか、また専門日本語と一般 日本語のバランスをどう考えればいいかなど大きな問題になってきた。この問題を解決するためには、日本で働く外交官の日本語使用の実態を調査し、その結果 に基づき教育内容を再検討することが必要であると考え、1994年から1995年にかけて、「外交官の日本語使用実態調査」を行った。その結果 、外交官研修の教育内容の再検討に際して考慮するべき点として、以下のような点が明らかになった。

  1. (1) 4技能の中で「話す」「聞く」技能を優先する。「読む」技能は、実際の職務遂行には不可欠であるが、9カ月の研修期間では「漢字」の習得も含めて、職務遂行に必要なレベルに到達するのは、ほとんど不可能である。新聞や雑誌の見出し、簡単な日本語で書かれた招待状や案内状の読解ができるような日本語運用力の育成を目指す。
  2. (2) 過度に高度な「専門日本語」の導入・練習を目指すより、できる限り「一般 日本語」との融合を目指した教育内容を考える。若手外交官にとっては、「政治」や「経済」「外交」などの「専門日本語」よりも、「領事」「文化広報」などの職務に関わる「一般 日本語」の領域に近接した分野の日本語、例えば、観光や地理、歴史、料理などの日本語をどれだけうまく運用できるかの方が重要であり、9カ月で達成できる現実的な目標としては、後者の方を優先するべきである。
  3. (3) 敬語を中心とする待遇表現や公的なスピーチなどでよく用いられる常識表現、自国事情説明の際の、ある程度の長さをもった、内容のある独白的叙述が外交官のための日本語教育の中で重要であり、その点を配慮した教育内容を考える必要がある。

GOETHE-INSTITUTにおけるnon-native教師研修コース

大関 真理

調査研究部会は、他の機関のカリキュラムを 比較検討することで、日本語国際センターの教師研修のカリキュラムの見直しを行っている。本稿は、他機関調査の一環として、GOETHE-INSTITUTにおける外国人ドイツ語教師研修コースの調査出張を行った際の出張報告書の一部をカリキュラムを中心にまとめたものである。GOETHE-INSTITUTは機関としての性質も日本語国際センターに類似しており、non-native教師研修という同一目的の研修を行っている。聞き取り調査及び入手資料をもとに、GOETHE-INSTITUTの教師研修コースを紹介し、日本語国際センターの教師研修との比較考察をした。参加資格として、高いドイツ語運用力を求めていること、ドイツ事情を重要視ししていることなど、GOETHE-INSTITUT教師研修コースのコースのデザインの特徴をまとめた。