日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第9号(1999年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート

調査研究報告


論文要旨

オーストラリアにおける小学校教師用リリース教材の開発
−教室での日本語ティーチャートークをめぐって−

キャシー・ジョナック/根岸 日実子/古川 嘉子

シドニー日本語センターが先に行った、オーストラリアの小学校の日本語授業における教師発話(ティーチャートーク)に関する調査(Jonak and Negishi 1997)では、多くの教師が、目標言語によるティーチャートークの重要性を認めながら、実際の授業では量 的に限られた日本語しか使用していないという結果を得た。さらに、彼らは授業が指導不能な状態に陥ることを避けるためしばしば英語を用いるという。シドニー日本語センターは上記調査結果 に加え実際のオーストラリア人教師による授業の文字化資料を分析した結果 に基づき、教師用リソース教材を開発した。本稿では、その開発の背景と内容を報告する。

制作した教材の目的は、教師の授業における日本語使用を促進することである。授業で日本語のティーチャートークを増やすためには以下の要素が必須であろう。(1)授業の中で適切な時を選んで随時日本語を選択して使用していくために、教師自身が、進行中の授業のプロセスや実際場面 での日本語使用を常に意識する。(2)教室活動方法指示のディスコース修正など、適切な教授ストラテジーを用いる。 教材では、(1)に関して、教師の意志決定過程の意識化をはかるためにチェックリストを採用し、また、授業で起こりうる様々な場面 に対応して、日本語でどのように言うか考えるタスクを取り入れた。(2)については、活動指示過程を簡略化するための準備方法を提示した。これらの過程を通 して、教師自身が統合的に日本語使用を増やしていけるようにすることを目指した。

最後に、制作教材の持つ制約とともに、今後の改善の可能性を提起した。

パフォーマンス・チャートの実践 −外交官・公務員日本語研修における自律学習−

上田 和子/羽太 園

関西国際センターでは、1997年10月より9カ月間、外交官日本語研修および公務員日本語研修を実施した。同研修では学習者の多様な背景やニーズに応え、継続学習に向けた自己学習能力獲得を支援するために、「パフォーマンス・チャート」を作成し、運用した。

パフォーマンス・チャートとは、目標言語技能(ターゲット・スキル)を項目別 、到達レベル別に分類し、「———ができる」という具体的な記述で行動目標を明示したもので、これにより学習者は自分で学習目標を立て、それを実現していく過程がわかる。パフォーマンス・チャート作成にあたっては、はじめに過去の研修参加者及び現職外交官への聞き取り調査を行い、職務場面 、日常生活場面での言語使用状況を得て、そのニーズにもとづき目標言語技能項目を立てて系列化した。

研修中、パフォーマンス・チャートは日本語研修のイメージ作り、短期、長期目標の設定、到達度の確認、授業の選択のめやす、学習カウンセリングなどの場面 で活用された。また大使館実習では学習者自身が、日本語ニーズを分析し、継続学習を計画する際に利用した。

実践を通じて以下の点からパフォーマンス・チャートの有効性が認められた。まず、(1)学習者が最も必要とする職務的日本語領域を自分で見きわめ、そのために必要な項目を選択するという学習における「意志決定」が容易になる点、(2)シラバス、カリキュラム、評価などコース設計の各場面 での目標が明確になり、研修内容の一貫性が維持しやすくなること、(3)学習カウンセリングの場面で、パフォーマンス・チャートの具体性が教師と学習者に活発な議論をもたらし、両者がインターアクションする場を提供していた点である。

学習者が自律的に日本語学習を進めるためには、学習スタイルも含めたより広い枠組みでパフォーマンス・チャートをとらえ、その内容や運用方法について検討し、さらに改良していかなければならない。

インプットの効果を高める教室活動:日本語教育における実践

横山 紀子

小論は、第2言語習得研究の分野で、教育が習得に与える効果 を追求した文献を概観し、日本語教育への応用を考えるものである。Ellis(1994,1995)の習得モデルを基盤にすると、習得のプロセスの中で教育が関与できるのは、(1)インプット、(2)顕在的知識、(3)アウトプット、(4)フィードバックの4点であろう。

これらの中から(1)インプットに焦点を当て、効果的なインプットの与え方を考察する。特に、最近の理論研究、実践研究の中からinput enhancementという概念に注目し、その実践方法を日本語教育への応用例を交えて紹介し、考察を加える。

マルチメディアを利用したプロジェクトワーク
−海外日本語教師長期研修における試み−

久保田 美子/八木 敦子

日本語教育において、現実社会で通用するコミュニケーション能力を養成するために従来プロジェクトワークが行われてきたが、今回、一層効果的な活動を目指して、マルチメディアを取り入れたプロジェクトワークを実施した。

本プロジェクトワークは国際交流基金日本語国際センターにおける海外日本語教師長期研修の中級クラスを対象に、一週間(15時間)を利用し、日本語国際センター館内放送用ビデオ番組「センター周辺の案内」の制作を最終目標として行われた。この活動により学習者は、教室内で学習した項目を実際に日本社会に出て使用する機会を得、日本語の知識の確認や定着、ことばの実際使用に伴う様々な問題解決の経験をした。また、マルチメディアを取り入れることにより、表現手段として、ことばだけでなく映像や音を同時に活用し、機械操作という共同作業によって教室では学習できない様々な機能の日本語を使用するなど、一層効果 的な学習ができたと考える。

今後検討すべき課題としては、学習者の日本語運用力を考慮したテーマの設定、機械利用に関するスケジュールの組み方の再考等があげられる。課題の解決を図りながら、今後もこうした活動を授業に取り入れていきたいと考える。

カウンセリング理論を応用した「聴解口頭表現」授業の一例

斉藤 三千代/柴原 智代

外国語学習では、情意面のコミュニケーションが特に困難であることが指摘されている。 1997年度海外日本語教師長期研修の「聴解口頭表現」授業では、カウンセリング理論を応用した活動を取り入れることを通 して、多国籍からの研修生の異文化環境下における上記コミュニケーション能力の開発を試みた。

方法としては、研修生が来日以後経験する異文化適応の各段階に、グループ・エンカウンターとカウンセリング・マインドの概念を具体化した活動を取り入れた。

活動に対する評価は、授業開講中の研修生の感想や変化と、帰国直前のアンケートから考察した。その結果 、活動を通して研修生の不安感の解消や低減、意欲・積極性の促進、孤独感の癒しと感情の共有などが観察された。一方、講師のメッセージと評価の識別 の困難さが指摘された。

この試みから、カウンセリング概念を応用した活動は情意面のコミュニケーション開発の一方向となりうると考えられた。日本語教師には、異文化適応における言語使用面 からの支援がいっそう求められると同時に、カウンセラーとの協力体制が重要度を増すであろう。今後、日本語の習得と実際使用のために、カウンセリング理論の応用と具体化が一段と進められることが望まれる。

司書日本語研修修了者の追跡調査 −中国人研修参加者の場合−

Gehrtz-三隅友子/廣利正代

国際交流基金では平成2年度から、司書に対して日本語を中心とした研修を実施している。この司書とは、海外の高等教育機関や公共図書館等で日本語の図書や資料の整備に従事する者であり、彼らは所属機関からの要請に基づいて研修に参加する。研修実施から8年が経過し、1998年9月現在修了者総数は95名、その出身も24ヶ国となった。またこの研修は、平成9年度より浦和の日本語国際センターから関西国際センターに移管された。

本稿は、この95名のうちの約3割を占める中国人修了者の17名に対して、現在の日本語使用状況を調査したものである。調査は、修了者へのアンケート及び機関訪問によるインタビュー形式で行った。本稿は特に調査から得た図書館内での日本語使用状況、さらに修了者の日本語の継続学習について報告する。またこの調査結果 から以下の課題を考えるきっかけ及び資料を得た。

  1. (1) 司書の専門性と日本語との接点を考えた専門日本語教育の内容と方法
  2. (2) 職務に必要な日本語を継続して学習する力
  3. (3) 修了者同士及びまた所属機関と日本の図書館を結ぶネットワークの可能性

韓国の高校日本語教師の教授スタイル調査

藤長 かおる/中村 雅子/長坂 水晶/王 崇梁

本稿は、日本語国際センターで実施した1998年度大韓民国高等学校日本語教師研修に参加した韓国の現職の日本語教師45人の日本語の教授スタイルに関する調査の中間報告である。本研究の目的は、(1)教師の教授スタイルを把握できるような質問紙を作成すること、(2)実際に質問紙を使って調査し研修参加者の教室現場での活動を把握することの2点である。

前回の調査(王・長坂・中村・藤長1998)では、「学習者中心」「コミュニケーション重視」の日本語教育が強調されている1996年の韓国の高校教育課程の改訂に伴い、教師の教授意識には変化が見られたが、実際の授業では「学習者中心」「コミュニケーション重視」の活動が充分には行われていない点が指摘された。

今回の調査では、さらに詳しく現場の教授/学習活動を探るため、「学習者中心」「コミュニケーション重視」という観点から多肢選択式の質問紙を作成し、調査を行った。質問項目は「活動の種類」「活動形態」「リソース」「教室内の日本語使用」「学習者の興味と役割」「社会文化能力」に関するものである。本調査の集計結果 はグラフ化し、被調査者の全体的傾向を読みとることを試みた。

今後の課題は、質問紙そのものの信頼性を高めること、さらに多面的な分析を行うこと、の2 点である。その上で、この調査紙を教師研修の事前調査票として活用し、将来的には研修参加者に反復調査を行う縦断的研究にも繋げていきたい。

JET青年の日本語ニーズ −「JET青年日本語使用実態調査」より−

前田 綱紀/下山 雅也/伊島 順子/木谷 直之/根津 誠

JETプログラムで招聘されるJET青年に対して、公機関により様々な日本語学習の機会が設けられている。しかしJET青年の日本語ニーズや日本語使用の実態は、従来明らかではなかった。国際交流基金日本語国際センターでは、1998年夏に埼玉 県JET青年に対してアンケート調査を実施した。その結果から、 JET青年の日本語ニーズの特徴として以下の点があげられる。

  1. (1)大多数のJET青年が日本語学習の必要性を感じており、定期的な、あるいは集中的な形での日本語の授業を希望しているが、現状ではそのような環境が整っているとは言えない。
  2. (2)日常生活場面での日本語の必要性の高さに比べて、現在の仕事でのそれは高くない。職場では狭義の外国語教授活動での必要性よりも、業務をより円滑に、より充実したものにするための同僚や生徒とのコミュニケーション手段としての必要性が高い。日常生活場面 では、丁寧な表現を使うということの必要性が高い。
  3. (3)技能別ニーズでは「読み書き」能力よりも「聞き話す」能力の方が重要と考えられている。また多くのJET青年が日本文化について関心を持ち、その知識や情報を求めている。
  4. (4)日本語運用力を帰国後の仕事に生かしたいと考える者も多い。また割合は小さいが、日本語教師になりたいという動機を持つ者も確実に存在する。