日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第11号(2001年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート


論文要旨

語の意味の習得におけるインプットとアウトプットの果たす役割 本文【PDF:38KB】

横山 紀子

「インプット仮説」は、「理解可能なインプット」が十分与えられれば、インプットだけでも習得は十分可能であり、アウトプットや意識的学習はごく限定的な役割しか持たないと主張する。一方、「アウトプット仮説」は、アウトプットの機会が「気づきの機能」及び「中間言語の仮説検証の機能」を担うとし、「理解可能なインプット」は必要だが十分ではないと主張する。本稿は、語の意味の習得においてインプットとアウトプットがもたらす効果を調査した結果を報告する。

物語のテープを聞く過程で、インプットを得ただけの語とインプットに加えてアウトプットの機会のあった語について習得のあり方を調査した結果、インプットだけを得た語についてもアウトプットの機会があった語についても、一定の意味の習得が生じた。一方、インプットだけの場合と較べて、アウトプットの機会があることの効果は現れなかった。これらの結果を両仮説との関連において考察する。

インターネットを利用したConstructivistタスク型教材
−“WebQuest”の紹介と実践− 本文【PDF:64KB】

島田 徳子/リチャード・ハリソン

インターネットは巨大な教育資源であるといえるが、情報量はあまりにも膨大で、質的なばらつきもあるため、教師も学習者もその資源を効果的に使用するのは容易なことではない。しかし、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のバーニー・ドッジ教授が開発した‘WebQuest’(ウエッブクエスト)を利用すれば、インターネット上の情報を整理し、効率的な学習促進を保証しえる教材の作成ができる。ウエッブクエストとは、学習者が教師によって厳選された情報資源を活用しながら、問題解決型学習(タスク)を行うための教材である。1章では、そのウエッブクエストの理論的背景、定義、内容と構成について紹介した。

2章では、国際交流基金関西国際センターの外交官・公務員日本語研修プログラムにおいて開発し実践した、「DLGLに聞く」というウエッブクエストについて述べた。そして、この研修プログラムにコンピュータを導入する際に採用したCALL開発実施モデルを使って、実施したウエッブクエスト「DLGLに聞く」プロジェクト全体の見直しを行った。このウエッブクエストは、「学習者が、自国に対する日本人からの質問に対して回答し、インターネット上の関連情報も併せて提供する」ということを基本とした。実践の報告は、ファシリテーターとしての教師の役割と、学習者の個人差という観点から行った。3章の展望では、今後ウエッブクエストを開発し、実践してみたいと考えた場合に利用できるリソースを紹介し、またその際の教師支援の必要性についても述べた。

上級日本語学習者の口頭ナラティブ能力の分析
−雑談の場での経験談の談話指導に向けて−  本文【PDF:59KB】

木田 真理/小玉 安恵

従来の上級日本語学習者の会話指導は、日本の社会問題を扱うことによって、トピックを抽象度の高いものにし、かつフォーマルな場面における言語活動を扱うことによって、その抽象度の高い語彙や表現力を学習、習得させる方向のものが多い。しかし、日常的な言語活動では、インフォーマルな場面でくだけた表現でかわされる会話も多い。そこで本研究では、総合日本語の授業の中で、クラスメートとの雑談という場面設定で自分の経験談を話すという教室活動を行った。そして指導前の上級日本語学習者のナラティブ能力を調べると共に、自己の経験を語る際に、聞き手をひきつけるために使用される言語的評価装置を3例インプットし、インプットによる学習者のナラティブの変化を分析した。

の結果、滞日経験年数によって、指導前のナラティブ能力や口頭能力全般に差が認められた。滞日経験4年、20年の2つのケーススタディからは、経験談における言語的な評価装置の指導がその使用を促す効果があると思われた。一方、上級の学習者の中でも特に滞日経験が短い学習者(滞在経験1ヶ月以下)には、評価装置のインプット以前の問題として、文法、語用面やインフォーマルな場面でのくだけた会話表現の指導が必要な学習者がいる可能性あることもわかった。

ナラティブ分析によるビリーフ調査の試み
長期研修生への社会言語学的インタビューを通して− 本文【PDF:52KB】

小玉 安恵/古川 嘉子

長期研修では、従来、研修生の背景にある言語観、言語学習観を探るためにHorwitz(1987)のBALLI(Beliefs About Language Learning Inventory)に基づいたアンケート調査を行ってきた。しかし、アンケートの欠点として、状況やコンテクストが排除されているため、質問の解釈に幅がでることや被験者の解答の解釈がゆれる可能性があった。また、自分の正直な価値観よりも他者に見られたい自己像を選ぶ危険性もあった。一方、今回、注目したCortazzi(1993)の行った社会言語学的インタビューの方法では、ビリーフというものが必ずしも意識的にアクセスされるものではないという考え方から、被験者に正確な調査目的は告げずに、いくつかの具体的なモジュール質問をすることによって、被験者からナラティブを引き出している。今回、八人の長期研修生にCortazziと同様の方法を用いてインタビューを行ってみた。そして、その中でも対照的な二人のナラティブをラボビアンモデルを用いて分析、比較してみた結果、具体的な出来事や行動、計画に基づいたストーリーの中で語られるビリーフは、その状況やその価値観を持つにいたった経緯や背景について納得のいく情報を我々に提供してくれることが分かった。今後、アンケートでの調査を補う方法として注目される。

専門日本語教育のプログラム・デザイン
−外交官・公務員日本語研修における選択システムの実践− 本文【PDF:48KB】

上田 和子/羽太 園/和泉元 千春

外交官・公務員日本語研修では研修参加者の専門性に合った研修を実行するために、平成9年度以来<選択科目>などを開設し、学習者自身で学習がデザインできる環境設定を試みてきた。開設期2年間の研修参加者の反応から、研修参加者の中には選択科目について理解するものの、実際に選ぶ段階では様々な困難に直面している者があることがわかった。そこで、平成11年度の研修では、<選択システムの設定>と、<選択科目のカリキュラム調整>を行った結果、研修参加者個別の履修スタイルでの学習が可能になっていることが認められた。

この実践から、以下のことが認められた。

  1. (1) 選択システムの手順の中で学習者は自己の学習を評価し、教師と交渉を行い、学習計画の調整を行っていること
  2. (2) 選択科目の設定については技能別だけでなく、話題別、学習進度別などのクラスを設定することで、学習者各自のニーズにあった学習活動が可能になること
  3. (3) <選択>を可能にするためにはその前提として1学期の必修科目の学習が重要である。
  4. (4) プログラムの問題点を見出しより良い研修にするためには、研修の当事者である研修参加者と教師(および教師集団)が研修の場を共有し、そこで相互作用を行うことが必要であること
  5. (5) (4)を通して研修参加者と教師集団のそれぞれが行う内省が、プログラム・デザインの改善の循環を推進する力になっていること

多国籍教師研修における教授法のコースデザイン
−教師は何を共有できるか− 本文【PDF:45KB】

藤長 かおる

日本語国際センターで実施されている現職の日本語教師を対象とした教師研修は、研修参加者の国籍構成の面から国別研修と多国籍研修に分けられる。教授法のコースデザインに際しては、それぞれの国のガイドラインやシラバス、学習対象者の年齢・レベル・学習目的、教科書や教材、クラス規模や教育機器の使用状況など、研修参加者の教師がおかれている教授環境を考え、実践的なプログラム作りを行っている。しかしながら、このような教育現場重視(問題解決型)の教授法プログラムは、研修参加者の教授環境の違いが大きい多国籍研修の場合、共通の問題点を設定しにくいという問題が生じる。その一方で、研修参加者同士が教授環境や教授法の違いに刺激を受け、自分自身の教授活動をふりかえり、相互に高め合う可能性が高いということも利点として指摘されよう。経験のある教師が対象の現職教師研修では、この点を最大限に生かしていくことが、多国籍研修における教授法の基本ではないだろうか。

本稿では、多国籍研修における教授法のコースデザインのひとつとして、研修参加者である教師同士の教室活動のアイデア交換を主とする教授法授業の可能性を探る。そのために、筆者が授業を担当した2000年度の短期研修(春期)での試みを取り上げ、その計画、実施の過程をふりかえり、研修参加者の反応や評価をもとにして、その意義と問題点を明らかにする。