日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第12号(2002年3月発行)

目次

(各論文タイトルをクリックすると、それぞれの論文要旨にジャンプします。なお、<報告>分野の論文は本文のみ掲載しており、要旨はありません。)

研究論文

研究ノート

報告


論文要旨

ライフコースとしての日本語学習−ベトナム人日本語学習者の事例− 本文【PDF:52KB】

吹原 豊

本稿では、異文化間教育の視点から日本語教育を契機とする自他理解の道を探ることを目的としている。そのために5人のベトナム人日本語学習者を対象に、主として面接調査を行った。その結果から以下のことが導き出された。5人に共通するものとして、(1)マクロな社会の変動に個人の生活が影響されていること、(2)全員が来日後カルチャー・ショックを体験していること、(3)異文化接触を体験して自己変容をとげていること、(4)日本での日本語教育および教育環境に不満をもっていること。その他に、何人かに共通していたり、特に関心を引いたりしたものとして、(1)異文化に関連した差別や蔑視について、(2)家族との関係について、などについて理解することが出来た。

次に、調査の結果をライフコースの概念を手がかりにして分析してみたところ、筆者とベトナム人日本語学習者の双方が、社会は違っても共通する課題と歴史の違いからくる別々の課題を抱えていることに気づかされた。さらには、一人一人の学習者がライフコースとどう関わっていくかという点でいろいろな道筋があることもわかった。

インタビューによる相互作用が、学習者と教師の双方に自他理解のきっかけをあたえ、日本語教育が異文化間教育としてもとらえ得ることを実感出来た。

「ね」の習得 −2000/2001長期研修OPIデータの分析− 本文【PDF:50KB】

柴原 智代

2000年度長期研修生6名のACTFL OPIテストの文字化資料を対象として、宇佐美(1997)によるね」の5つの機能分類: (1)会話促進、(2)注意喚起、(3)発話緩和、(4)発話内容確認、(5)発話埋め合わせ、にもとづいて「ね」の習得状況を分析した。「来日時よりも帰国時の方が、『ね』の機能を多様に使うようになり、(1)会話促進の『ね』がもっとも多く使用され、(3)発話緩和の『ね』はもっとも少ない」という仮設を立て、6名について調べたところほぼ支持された。しかし、9ヶ月間滞在しても「ね」の使用例がほとんどなかった研修生が2名おり、プロトタイプから遠い機能はもちろんのこと、「ね」そのものの習得が難しいことが再認識できた。「ね」は会話を進めるにあたって不可欠な要素なので、今後さらに意識的な指導が必要だと思われる。

ケルン日本文化会館日本語講座受講者に対するアンケート調査結果報告
−学習者分析から新シラバスの提言へ− 本文【PDF:95KB】

久保田 美子/奥村 三菜子

ケルン日本文化会館・日本語講座では、2000年度、講座開始時の受講者対象アンケート調査に加え、講座終了時にもアンケート調査を実施した。本調査研究報告は、その結果を報告すると同時に、結果を分析し、新しいシラバスの提言を行うものである。調査内容は、受講者の基本的なニーズ・レディネス、講座運営に対する評価、既習の学習項目(文型、語彙、言語機能)に関する受講者の自己評価である。アンケート調査は講座開始時に140名、一年後の講座終了時には70名からの回答を得た。

本アンケート調査結果から明らかになったことは以下の6点である。

以上の結果から、従来から採用されている文型を中心としたシラバスを見直し、機能やトピック・テーマにも重点を置いたシラバスを取り入れる必要があることが明らかになった。現在新しいシラバスを作成し、その試行段階である。

専門日本語研修におけるコースデザインの検討
−平成12年度研究者日本語研修を一例として− 本文【PDF:532KB】

上田 和子/大隅 敦子

関西国際センター研究者日本語研修では、学習者それぞれの研究活動とそれに必要な日本語能力の多様性を分析し、その上で<研究活動に役立つコースデザイン>の策定が試みられてきた。

本稿は、平成12年度研究者日本語研修におけるコースデザインについて報告し、研修の評価と学習者と教師との間に設定された<対話>の場の重要性について考察する。

本研修では、(1)日本語、(2)日本語による情報収集、(3)日本語による発信技能の習得 のためのカリキュラムを<センター内>に、それらの成果を学習者自身が自己評価し、個人のニーズを把握するための場を<センター外>活動として配置した。その際、センター内外の活動を円滑に進めるための<学習支援>の場を随時設け、教師と学習者が話し合ったうえ最も適切な研修活動が設計、実行できるよう図った。

コースデザインが研修全体に果たした役割について考察するため、研修修了後も日本で研究活動を続けている<K氏>に対し詳細な聞き取り調査を行った。その結果、K氏は教師が意図していた「核としての教室内学習⇒教室外・センター内発信⇒センター外運用」への流れを意識し、専門的文脈など自己の置かれた状況に応じて、学習した技能や内容を運用しモニターしていたことがわかった。

学習者の自律性を引き出すためには、学習者自身が自分の日本語学習を<日本語による研究への過程>として捉えられる環境の整備が必要である。また、その活用には学習方策の提示や研修設計を相談する場として、学習者と教師との<対話>が重要であり、そこが軸となって<内>としての教室と<外>としての実践の場との間に循環が生まれていく。さらに、その対話には準備されたコースデザインの一つ一つを、学習者にとって意味のあるものとなすための重要な機能も存在すると考える。

双方向学習の試み −交流セッションから見えるもの− 本文【PDF:43KB】

Gehrtz三隅 友子/上田 和子

関西国際センターでは、多くの日本人との交流セッションを実施している。交流による様々な日本人との接触は、研修参加者にとって実践的な日本語使用を促し、また対話を通して日本人理解のきっかけともなる。一方、相手側日本人にとっての、交流セッションの意義とはどのようなものなのだろうか。

本稿では、外交官・公務員研修参加者と将来看護婦(士)を目指す日本人との交流セッションの事例により、日本人側の教育的意義を考察する。近年の医療活動では、患者を中心として、様々な専門家との連携が必要とされている。この交流セッションは単なる外国人との出会いの場ではなく、「人間関係論」という授業の中において教育的意義を持つ場として設定した。その結果、それが日本人側にとっても人間を理解すること、異文化をどのようにとらえるか等を考える第一歩となっていたことが報告された。

今後、交流セッションを企画、運営、評価をする場合、双方の教師(実施者)が互いの教育目標を明確にし、お互いにとってより有効なセッションを共に作っていくことが必要であろう。

意味のある学習環境の設計を目指したコースデザイン
−2000年度埼玉県JET青年日本語研修での実践− 本文【PDF:64KB】

有馬 淳一/島田 徳子

国際交流基金日本語国際センターでは、埼玉県の依頼を受けて、JETとOSET両プログラムにより埼玉県に招聘されている青年男女(JET青年)を対象として、1998年度より「JET(OSET)青年日本語研修」(JET研修)という短期集中日本語コースを実施している。

本稿は、その3回目にあたる、2001年3月26日から3月30日に実施された2000年度JET研修におけるコースデザインとその実践についての論考である。本稿の目的は、最近の学習理論および言語学習理論から知見を得ながら、学習者にとって意味のある学習環境とは何かを考え、現職JET青年に対する日本語コースを設計し、実施した結果を考察することである。

まず、第1章では、今回のコースデザインの際、理論的枠組みとした学習理論「構成主義」「体験学習」「協調学習」について概観する。また、「学習者は学習したいことをどのように学び」、「学習を支援するためには、日本語のクラスがどうあるべきか」について詳細に述べる。

第2章では、2001年3月に実施したJET日本語研修のコースのデザイン、授業の概要、および実施内容について述べる。学習者にとって「意味のある学習環境」を提供するために、コースに「能動的」「構成的」「主体的」「現実的」「協調的」の5つの特色を持たせ、JET青年がよりよく学ぶ場をデザインした。このデザインにもとづいて、実施した活動の実際について報告する。

最後に第3章では、JET青年および受入先の担当者による評価をもとに、「意味ある学習環境」の設計を目指したコースデザインが支持されたかどうかを、省察する。さらに、今回の結果を踏まえ、今後の新たな学習環境を構築していくための足がかりを探る。