日本語国際センターについて

日本語国際センター紀要 第14号(2004年3月発行)

目次

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研究論文

研究ノート

調査報告

報告


論文要旨

言語習得におけるインプットとアウトプットの果たす役割
−単語の習得調査の分析から− 本文【PDF:715KB】PDF

横山 紀子

本語の動詞(14語)を対象として、(a)インプットのみを与えられた場合と(b)インプットに加えてアウトプットの機会があった場合について、習得の効果を調べた。習得の測定は、語の意味と形式の両面について、認識と生成の両観点から行った。調査の方法は、物語のテープを聞いた(インプットを得た)後、スクリプトの空白を埋める形でアウトプットを求め、その直後にスクリプト空白に記入した語の正誤を判定する目的で再度のインプットを得るという過程を設定した。そこでは、アウトプットの際に気づきの機能が、また再度のインプットを聞いて自らのアウトプットの正誤を判定する際に仮説検証の機能が働くことが期待される。結果は、(a)(b)両処方とも意味と形式、認識と生成のすべての側面において明らかな習得が生じた。また、処方間の比較では、意味の認識および生成において(b)の方が優位であった。以上の結果を先行研究の結果と照合し、教育実践への提言をまとめた。

日本語教師のためのCSCL環境「みんなの教材サイト」の開発と評価
−利用者の視点を重視したサイト開発と運用の実際− 本文【PDF:890KB】PDF

島田 徳子/古川 嘉子/久保田 美子/麦谷 真理子

「みんなの教材サイト」は、教材用素材の提供と、日本語教師がそれぞれの教育現場で教材作成や授業設計に役立て、また他の教師との相互交流を通じて各自の専門性を高めていくことを支援するために開発されたウェブサイトである。本サイトは、内容・機能面においては、学習科学の一分野であるコンピュータによる協調学習支援(CSCL)研究を理論的枠組みとしている。また、サイトの開発・評価の方法論として、教育工学におけるシステム的な教材設計・開発の手順、教授設計論(Instructional Design)を参照した。本サイトの開発及び運用面での特徴として、各局面ごとに評価を組み入れ、「形成的評価」を重視している点が挙げられる。

本稿では、教授設計論という観点から、サイトの開発及び運用方法についての評価と課題について述べる。また、CSCL環境の構築という観点から、サイトの内容・機能面の評価と課題について分析し、今後の方策について述べる。

まず、これまでの開発及び運用について、Flagg(1990)の言う形成的評価の三つの観点に基づいて見直した。Flaggは、形成的評価の観点として「使いやすさの問題」「受容の問題」「有効性の問題」の三つを挙げている。第一次開発では、ユーザーテストに代表されるように、主に「使いやすさの問題」に評価の焦点を当てた。第二次開発では、「使いやすさの問題」に着目すると同時に、教師研修で本サイトを利用し、利用者の反応を見るなど「受容の問題」にも注意を払ったといえる。現在進行中の第三次開発では、これら二つの問題に注意を払いつつ、「有効性の問題」について評価を行うことが重要であると考えている。「有効性の問題」の評価の準備段階として、CSCL環境の構築という観点から現時点でのサイトの評価を行い、利用者ニーズを把握するためのログ解析ツールの導入、利用者ニーズにあったコンテンツ開発を行うための利用者の類型化(ポジショニングマップの作成)、センター内外の教師研修との連携、の三つの方策が有効であるという認識に至り、第三次開発に反映した。

異文化理解を目的とした交流活動のあり方
−外国人日本語教師と中高生の協働によって作られる授業− 本文【PDF:732KB】PDF

押尾 和美/木谷 直之/根津 誠/八田 直美/前田 綱紀

国際交流基金日本語国際センター(以下「センター」)の短期教師研修では、外国人日本語教師と近隣の中学校・高等学校の生徒や教師との交流活動を行っている。本稿の目的は、この1年間に行われた事例の分析を通して、交流活動の内容と方法を紹介し、その意義を検証することである。

本稿では、「交流活動」を「異なる文化を持つ他者との相互交渉の直接体験」と捉える。それは、交流活動を外国人教師が中高生や日本人教師と協働する体験を通して発見したり感じたりする場として提供したいと考えているからである。そして、その協働作業をより効果的に進めるために、「参加型学習」と「体験学習」の方法を用いて交流活動を行っている。

本稿で取り上げた4事例を通覧すると、交流参加者が協働作業を通して、(1)互いの違いや共通点に気づき、文化理解を深めたこと、(2)自身が持っていた知識や情報を確認したり修正したりしたこと、(3)交流体験の中で自身を振り返り、新たな課題を発見したことなどが確認され、これらは「参加型学習」と「体験学習」の方法に基づく交流活動が学びの場として効果的に働いていたことを示している。

また、外国人教師が持つ教師としての伝達能力は、中高生の自国や異文化に対する理解や気づきを容易にさせ、異なる文化や背景を持つ他者とのコミュニケーションに対する認識の変化をもたらした。日本人教師に対しては、同じ教師として外国人教師が提供する情報や交流活動に参加する姿勢が刺激になった。これらは他の交流活動には見られない特徴だと言えよう。

今後の課題としては、センターの研修参加者に対する「事前準備」と「事後活動」を充実させ、交流活動の改善を図り、参加者の振り返りや気づきを深めること、センターの講師と学校の教師との連携を強め、よりよい交流活動を設計すること、そして、実践を継続し、その蓄積をまとめることなどが挙げられる。

外国人日本語教師研修における文法授業のあり方
−文法シラバス整備に向けて− 本文【PDF:731KB】PDF

木田 真理

国際交流基金日本語国際センターの外国人日本語教師研修に参加する研修生は、非常に多様性に富む集団であり、その多様性は、様々なレディネスやニーズを呼び、授業の目標設定及び授業内容に大きな影響を与えている。研修生の複雑な多様性の中でも注目すべき点は、外国人日本語教師である研修生が、日本語学習者としての側面と日本語教師としての両側面を併せ持っているという点である。本稿では、その両側面と文法との関わりに注目し、外国人日本語教師研修における文法授業のあり方をさぐった。

まず、短期研修の授業報告書を資料とし、文法授業の概要、研修生と講師からのコメントを分析し、外国人教師研修における文法授業に何が求められているかを考察した。次に、外国人日本語教師研修における文法シラバスを、運用力の高低によって整理することを提案した。そして、運用力の高いクラスの文法シラバスは、次の3つの観点からの調査研究の必要性を確認した。

  1. (1) 文法の各項目における外国人日本語教師が必要とする明示的な知識
  2. (2) 外国人日本語教師が保持している文法の明示的知識の実態。
  3. (3) 外国人日本語教師にとって理解しやすい文法ルールの記述

初・中等教育日本語教師研修における教授法授業について
−2003年度海外日本語教師短期研修(春期)の試み− 本文【PDF:743KB】PDF

篠崎 摂子/八田 直美/向井 園子/古川 嘉子/中村 雅子/根津 誠/島田 徳子

初・中等教育段階の日本語教育は、各国・地域の外国語教育政策に基づいて展開されており、シラバス、カリキュラム、教材もそれぞれの国・地域で統一されている場合が多く、学習者の発達段階など多くの要因を考慮しながら授業を組み立てていく必要がある。初・中等教育の教師を対象とした研修の教授法授業では、このような背景を考慮した実践的な教授活動を取り入れていくことが重要である。

2003年度海外日本語教師短期研修(春期)(以下、春短期研修)における教授法授業では以下の試みを行った。できる限り教授環境を共有する国・地域別のクラス編成を重視し、多国籍のクラスの人数を少数になるようにした。さらに、それぞれの教授環境を重視し、その一方で国・地域を超えた初・中等教育に共通する課題をその枠組みの中で取り上げることとした。

共通に扱う項目としては、それぞれの教師が普段行っているであろう教授活動の流れ、「教授目標設定→授業設計→授業準備・教材作成→授業実施→授業に対する評価」の流れを教授法授業で経験させること、コンピュータの利用、高校訪問という要素を、それぞれの教師の望む程度に応じて教授活動の中に織り込ませることであった。

本稿では、5クラスそれぞれの教授法授業の実際を報告し、コンピュータ利用、高校訪問については全体について報告した。研修に参加したほとんどの教師は、教授法授業のクラス分け、扱った内容について役立ったとしているが、違う国・地域の教師との情報交流の機会をより増やすことを望む声が多かった。さらに、コンピュータ利用を勧めたことについては、IT普及の如何に関わらず好評であった。高校訪問については、半数程度が役立つとしているが、問題があったとする意見もあり、教授法授業への取り入れ方については検討を要する。今後も、初・中等教育に携わる日本語教師への研修を改善していくためには、実践に根ざした情報の蓄積が必要である。

中国遼寧省の小学生用日本語教材制作について
−海外での日本語教材制作のあり方− 本文【PDF:750KB】PDF

篠崎 摂子/飯野 令子/曽 麗雲

中国の初等教育での日本語教育状況については、中国国内でもこれまでほとんど知られていなかった。1999年に国際交流基金北京事務所が遼寧省大連市で調査を行ったところ、同市郊外の一部の小学校で1989 年から正規の外国語科目として日本語が導入されていて、当時約1万人の小学生が日本語を学習し、独自の教材が使用されていることがわかった。

この調査をきっかけに、遼寧教育学院が、日本の諸機関(国際交流基金、国際協力事業団他)の協力を得て、同省の新しい小学生用日本語教材を制作することになり、2003年7月に『小学日語教材』全4冊(曽麗雲主編、孫光浴他編著、篠崎・飯野制作協力)が完成した。

本稿では、まず、この教材制作の概要(教材制作の背景・経緯・実際、および教材の概要)を紹介する。次に、正式出版前に1年間実施した第1冊の試用、それと並行して実施した現地での教師研修の実際とその評価について報告する。以上を通して、海外での教材制作のあり方、特に、現地の日本語教育関係者と日本人教師の協力体制、教材制作が教育現場に与える影響と、そこで生じる問題について述べる。

研修修了者追跡調査手法の確立への一考察
−国際交流基金関西国際センターにおける研修修了者追跡調査の試み− 本文【PDF:731KB】PDF

和泉元 千春/岡本 仁宏/野田 昭彦

独立行政法人国際交流基金関西国際センターでは平成14年度に(1)研修内容の改善、(2)研修ニーズのより正確な把握、(3)研修の評価を目的とする追跡調査の検討を開始した。本稿はこの評価事業の概要とその手法開発に関する知見の報告である。調査は①大学院生日本語研修の修了者、②日本語履修大学生訪日研修修了者、③②の派遣元大学に対する文書調査を中心とし、併せて各地域の社会情勢を把握するためにソウル、ハノイ、バンコックで修了者および関係機関、基金海外事務所または在外公館への面接調査を行った。また面接調査では今後の追跡調査の可能性についても情報収集を行った。調査の結果、調査手法に関して以下の4点が指摘された。

  1. (1)調査項目の設定 ・研修目的とその達成に関する調査項目
    • 研修目的と研修内容の整合性に関する調査項目
    • 研修目的と広報、選抜手続きとの整合性に関する調査項目
    • 研修目的と地域の日本語教育ニーズとの整合性に関する調査項目
  2. (2)複合的な結果の解釈(複数の調査対象/複数の調査方法)
  3. (3)結果の還元先(研修の枠組みの改訂/研修内容の改訂/広報や選抜順位の決定)の確認
  4. (4)回答方法(修了者への自由回答法の採用)への配慮

本調査は全センタースタッフに還元され、いくつかの具体的な改善策への試みを生んだ点で評価できる。今後、修了者との関係維持のための修了者基本データの管理、関係機関への情報開示と情報交換を更に強く認識すると共に、研修前、研修中に実施する調査とも連動させた調査項目の設定と結果利用など、研修実施サイクルの中に追跡調査を位置付ける必要がある。更にセンターの研修事業が基金の事業目的のもとで提供されることから、センターの研修事業、基金の支援のあり方と各地域の社会情勢との整合性をも視野に入れた評価も議論される必要がある

ハンガリー人日本語学習者のビリーフス 本文【PDF:746KB】PDF

若井 誠二/岩澤 和宏

ハンガリーでは、1989年の社会体制転換以降日本語学習者が急増し、学習機関や学習目的に多様化が見られるようになった。そしてこれを受ける形で2001年に日本語教師会が設立され、日本語教育を包括的に捉える下地も出来つつある。一方、学習者が「教師の役割」や「学習者の自律性」などに関してどのようなビリーフスを持っているかは日本語教育を進める上で非常に重要な意味を持っているが、これまでハンガリーではあまり注意が払われてこなかった。

そこで筆者は2002年4月にハンガリーの日本語学習者と日本語教師307名に対してビリーフス調査を行った。小論では調査結果を報告すると共に、その特徴を分析し考察を加えた。

調査の結果、ハンガリー人日本語学習者の特徴として、学習者としての自律性はあまり高くなく、目標達成には教師に従うのが最も近道と考え、語彙の学習が最も重要だと考える傾向が強いことなどが明らかになった。これらの学習者のビリーフスからは、共産主義時代の「到達目標設定システム」の影響が強く読み取れる。また、ハンガリー人日本語学習者は文の型や語彙使用などの正しさへのこだわりが強い傾向が見られるが、この背景には「到達目標設定システム」色を残す日本語に関する資格試験の存在がある。

小論では更に、学習者と教師、あるいは極東ロシア大学生のビリーフスとの比較により、今後の日本語教育のあり方についても考察を加えた。