2007年度上半期 調査研究プロジェクト
非母語話者日本語教師の研究活動に必要なアカデミック・スキルについて
−アカデミック・スキル養成を目指したカリキュラムデザインと教材の作成−(報告書)

2007年度上半期 調査研究プロジェクト
非母語話者日本語教師の研究活動に必要なアカデミック・スキルについて
−アカデミック・スキル養成を目指したカリキュラムデザインと教材の作成− 概要
計画者 篠崎 摂子
プロジェクト参加者 長坂 水晶、木山 登茂子
外部協力者 なし
日程

2007年4月~終了 2008年3月

スケジュール
2007年4月~7月:
資料収集・調査と現状分析
2007年8月~9月:
カリキュラム・デザインと教材作成
2007年10月~2008年1月:
試行
2008年1月~3月:
検証

目的と概要

1) 目的:
非母語話者日本語教師が、日本語教育学の分野で研究活動を行なう上で必要とするアカデミック・スキルは何かを探り、それをどのように養成していくべきかを考える。具体的には、当センターで実施している修士コース(国立国語研究所ならびに政策研究大学院大学との連携による「日本語教育指導者養成プログラム」)や、教師研修への参加者が日本語教育学の分野での研究を目指す上で必要な基礎力を養成するためのカリキュラムや教材を考えるものである。
2) 概要:
本プロジェクトでは、これまで(2001年コース開始以来)の修士コースでの実践を整理して、現状を分析すると同時に、関連分野の調査を行なう。その結果をもとにアカデミック・スキルを養成するためのカリキュラム・デザインと、その実践に役立つ教材の作成を行なう。これらを2007年度修士コースで試行し、その効果や問題点について検証する。

課題1:カリキュラム・デザイン

  • 研究経験が少ない非母語話者現職日本語教師(日本語能力試験1級合格レベル)が、日本語教育学の研究活動を行なうために必要なアカデミック・スキルを養成する。これまでの実践から、一般的な留学生を対象としたアカデミック・スキル養成方法では非効率的、不十分な部分があるので、本コースでの目標をより明確にし、焦点をしぼったカリキュラムが必要。
  • 1年間の修士コースにおいて、以下の研究活動を円滑に行なうことを目標とする。
    (1)特定課題研究*に関わる一連の活動 (2)日本言語文化研究会での発表(2回)
    *修士論文に代わる、自国の日本語教育の改善に資する課題研究。
  • 具体的には修士コースの以下の3科目の授業を対象とする。(1)「日本語表現法演習」(2)「言語教育研究法」(3)「日本語教育概論」(前半部分)

課題2:教材作成

  • 教材、活動では表現形式に焦点を当てない(表現形式に関する教科書は配布。適宜参照させる)。これまでの実践から、表現形式に焦点をあてた授業に効果が期待できないと考えたため。
  • 内容理解(批判的読み)を中心にすえ、多くの論文を読むように導く。
  • 批判的に読むことを通して、論文を執筆する力を養う。そのためにガイダンスを作成し事前に一人で読めるようにする。授業では読みが深まるようなディスカッションをサポートする。具体的には、論文の前提、方法、データから導かれる結論、論の展開などの妥当性を問うもの。

成果の概要

課題1:カリキュラム・デザイン

  • 2007年度修士コースで、特定課題研究に関する活動と日本言語文化研究会での発表が円滑に行なえるように、「日本語表現法演習」「言語教育研究法」「日本語教育概論」(前半部分)の授業内容とスケジュールを見直し、実施した。
  • 本コースの研究活動で学生が必要とするスキルに焦点をしぼった指導が実現できた。
    今後は、学生が「内容が不十分」「十分に身につけていない」と認識している内容の扱い方の見直しは必要。特に文章表現力の養成に関する工夫を行なう(教師フィードバック、相互学習の充実など)。
  • 特定課題研究と研究会発表準備のための個別指導の負担を授業によって軽減できた。
    今後は、学生が研究活動と授業、及び授業間の連携を十分認識して取り組めるよう、さらなる工夫が必要。

課題2:教材作成と授業実践

2007年度修士コースの「日本語表現法演習」で、プロジェクトで作成した教材を使用し、授業にディスカッションを導入した。具体的な成果と今後の課題は以下の通り。

(1) 教材について~ガイダンスの効果~
  1. 1)学生は、事前に何に着目して読むべきかを知って論文に目を通し、疑問点を明らかにして授業にのぞめる。
  2. 2)論文読解のための教材の例として教材開発の可能性を示した。
(2) 教室活動について~ディスカッションの効果と教師の介入の重要性~
  1. 1)運用力による内容読み取りの差を埋める機能がある。
  2. 2)ディスカッションによる自己の読みの質や妥当性の確認ができる。
  3. 3)自身の読みの力の客観視ができる。
  4. 4)気づかなかった新たな視点を得ることができる。
(3) 学生の自己評価(2回)~批判的読みについて~
  1. 1)初回の自己評価は、講師が提出物や授業中の発言から予想したものより高い。
    学生はコース初期に、自分では「内容を理解できている、必要な情報をとっている」と考えている可能性が高い。
  2. 2)自己評価が下がった学生がいた。自身の読みを客観的に考えるようになったためか。

♦ 今後の課題

  • 学生が困難と感じる「読みのポイント」を分析し、今後の教材作成に生かす。
  • 内容についての専門知識や分析手法についての知識を要する論文は理解活動が中心になり、批判的な読みにまで踏み込めないことがあった。より深い読みにするための方法を考える。
  • 教材を他の研修と共有する。(2007年度長期研修読解6クラスで一部使用)
  • 表現指導の充実を望む学生へ対応する。

例)・設問への解答や論文のレビューに対するフィードバックを丁寧に行なう。
・ピアで書く活動を取り入れる。