2012年度上半期 調査研究プロジェクト
インドネシアの大学日本語教師への質問紙調査に見る日本語教育観 -過去・現在-

2012年度上半期 調査研究プロジェクト
インドネシアの大学日本語教師への質問紙調査に見る日本語教育観 -過去・現在- 概要
計画者 古川嘉子(専任講師)
プロジェクト参加者 木谷直之、布尾勝一郎(専任講師)
外部協力者 ジャカルタ日本文化センター

目的と概要

1.背景及びプロジェクトの趣旨

本プロジェクトは、2010年度~2011年度に実施したプロジェクト「インドネシアにおける日本語教育 −ケーススタディ地域研究−」に続き、インドネシアの日本語教師への調査に基づき、教師を通してみた現地の日本語教育の様相を探ることを目的としている。1960年代から、国際交流基金(以下、JF)が継続的に日本語教育支援を続けているインドネシアでは、日本語学習者数は、これまでの海外日本語教育機関調査においてつねに上位を占め、1990年調査で4位(38,050名)になって以降、2003年調査(6位:54,016名)、2006年調査(4位:272,719名)、2009年調査(3位:716,353名)とめざましい増加を示している。この背景には、JFの支援と、日本語教育に携わり、その支援を何らかの形で受けているインドネシア人日本語教師の貢献があるのではないか。そこで、インドネシアの日本語教師自体を対象として調査を行うこととした。

2010年度、2011年度プロジェクトでは、長期にわたって展開されてきたインドネシアの日本語教育の発展の様相を、歴史的・重層的に捉え、そして、そこでのJFの支援がどのように現地の日本語教育に影響を与えているのか探るため、日本語国際センター(以下、NC)の研修に参加したインドネシア人日本語教師にインタビュー調査を行った。その結果を整理し、年表上にJFのインドネシアに対する日本語教育支援の影響を表す資料を作成した。年表では、特に中等教育教員の中核を成すインドネシア教育大学(旧バンドン教育大学)、スラバヤ国立大学(旧スラバヤ教育大学)、マナド国立大学(旧マナド教育大学)の卒業生である高校教員5名へのインタビューの結果をとりあげた。この資料ではJFが重点支援をした大学出身者で指導的立場にある教師や技術研修生経験者の教師がそれぞれの日本語教師としてのキャリア形成上、JFの専門家派遣、教師(現地・訪日)研修、教材作成プロジェクト支援などと関わる中で、専門性の向上につなげたり、次の段階への弾みとしている様子が見えてきた。資料では、数値では知ることができない、質的な情報を捉えることができたものの、調査対象がNCの研修参加者に限られた上に、ある程度の日本語力のあるものに限定され、必ずしも全体の状況を反映しているとは言えない。そこで、より広い対象に調査するために、2011年度プロジェクトにおいて、インタビュー項目を反映した質問紙(高校教師用・大学教師用)を作成し、インドネシア語に翻訳した。

12年度は、まず、前年度に作成した質問紙を見直し、実際の調査で利用できるように整理した。その後、ジャカルタ日本文化センターの協力も得つつ、インドネシアの大学・高校の日本語教育において指導的立場にある人物や、中核として活動している関係者に対してアンケート調査を行い、その結果をまとめ、分析した。そこでは、調査協力者個々の教師としての歴史も含めた現在のインドネシアの日本語教育像を明らかにしていくことを目指した。

2.調査の概要

  1. (1) 期間 : 開始2012年4月~終了2013年3月
  2. (2) スケジュール
    2012年7月まで
    調査準備、ジャカルタ日本文化センターへの連絡
    予備調査の実施(NC研修参加インドネシア人教師対象)
    2012年7月後半~
    アンケート調査の実施(対象として中等教育関係者23名回収/23名配布、大学教員18名回収/21名配布)
    2012年9月~
    調査用紙の回収、集計
    2012年12月~
    回答翻訳、結果分析、報告書の作成
  3. (3) 質問紙概要

    基本情報/日本語学習者として(学習開始時)/日本語教師として(教授開始時)/日本語教師としてのキャリア/教師会・学会活動/JF支援に対するコメント/インドネシアにおける日本語学習の意味/インドネシア社会に対する日本語教育の貢献

  4. (4) 調査結果分析

    翻訳費の制限により、大学教師からの回答(18名)のデータをまとめる。

    ①基本情報
    • 地域 : 北スマトラ(3)、西スマトラ(1)、首都特別地区(3)、西ジャワ(4)、中部ジャワ(2)、東ジャワ(2)、バリ(1)、北スラウェシ(2)
    • 学会役職 : 学会会長(現1、元2)、支部長(現6、元4)
    • 訪日経験(JF) : NC短期(1996冬、2004、2007夏2、2009冬各1 NC長期(1987、1989、1990、1999、2005/2、2006、2008各1)、NC上級2、関西国際センター2
    • 訪日経験(大学・大学院) : 政策研究大学院大学*修士2(2001、2005)/同博士1(2013)、亜細亜大学1、学芸大学1、東京外国語大学2、南山大学1、広島大学1、名古屋大学 修士2/博士2、早稲田大学2

    *「政策大」は、政策研究大学院大学、国立国語研究所(~2008)、国際交流基金が共同で実施しているプログラムである。

    ②大学教師のJF助成の利用のあり方
    学会・研究会の開催(11)/専門家(7)/訪日研修(3)/学会誌の発行(2)/教材作成助成(1) /講演者の招聘助成(1)
    ③インドネシアにおける日本語学習の意味(過去・現在)
    以前は「仕事」「日本から学ぶ」という意味づけが大きかったが、現在は「ポップカルチャー」「日本語以外の技能との組み合わせで仕事につなげる」「反面教師としての日本を知る」などに変化してきたと多くの教師が考えている。
    ④日本語教育のインドネシア社会に対する貢献
    • 異文化に対する視野を広げる : 日本語を学ぶことで、他文化としての日本を理解したり、また、特に日本のポジティブな側面を学生に学んでほしいと考えている意見が多い。
    • 雇用の場を拡大する : 日本語学習者が学んだことを生かすための雇用の場があり、それがインドネシア社会の福祉ともつながる、など。
    • 情報や技術を伝える : 技術・科学・社会などの情報を日本語を通じて得ることができ、日本語ができることで仕事についても学べる、など。
    • インドネシアの国民づくりへの貢献 : 日本の発展、問題から学べる、日本人の美点(勤勉)などが個人として身につき、社会に裨益する、など。
    • 問題点 : 大学教師が日本留学などで身に付けた専門性を社会に対して活用していない。/以前より学習内容が減ってきたことで、実際に仕事などで役立つ日本語の力を大学教育で身に付けさせることができていない。
    ⑤まとめ
    • 日本語学習の意味の変化
    • 学習者と教師の「日本文化」の捉え方の違い
    • 課題 : 教育段階間の連携/教師自身の専門性を利用した社会貢献

成果と課題

大学教師の日本語学習像を過去・現在の比較においてとらえ、インドネシア社会とのつながりでどのように考えているか知ることができた。

課題としては、①公教育以外の教育機関(民間日本語学校)における日本語教育の現状の把握、②高校教師の回答分析、③大学教師と高校教師のそれぞれの分析結果の統合、④成果のJF内外への発表、があげられる。また、JF事業と教師としてのキャリアとのつながりも別に整理して記録していく。